第1章 1話 玄関あけたら夜だった!
「ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……」
最初のアラームで目を覚まし、二回目で場所を探し、三回目で止める。
一年中厚めのカーテンが閉めっぱなしにされている俺の部屋。
日は差し込まないが、いつもと変わらない朝だ。
朝食を済ませたら、洗面所でネクタイを締める。
いつもと同じルーティーンなのに、高ぶる気持ちが抑えきれない。
鏡に映る自分の姿も、今日に限って輝いて見える。
よし!
俺は浮かれる気持ちをたしなめるように、洗面台に映る自分の顔を見て気合を入れた。
今日は入社以来、初めてつかんだチャンスの日。今までの努力が報われる特別な日なのだが……。
「…………」
―――玄関開けたら夜だった。
腕時計の指す時刻は七時ちょうど。
まさか夜の七時か?
いや、それにしては、いくら何でも暗すぎる。
慌ててスマホを取り出してみたが、圏外となっている。
とりあえず部屋に戻って、買ったばかりのテレビをつけるが、電源は入っても電波は入らない。
(一体どうなっているんだ?)
外の様子を確認しようと、カーテンを開けてみたのだが……。
―――何も見えない。
それどころか、窓の外は、部屋と同じ白い壁だった。
窓はどんなに頑張っても開かない。固くて開かないというより、窓枠が外の壁に固定されてしまっているような感じだ。
俺は、混乱しながらも、玄関に出てスマホの明かりで外を照らしてみたのだが……。
「う、うそだろ……」
恐る恐るスマホの明かりで照らすと、玄関先は床も壁も石で覆われた四角い部屋になっていた。
広さはざっと、二十畳以上はありそうだ。
「一体何がどうなっているんだ……」
◆
(まじか……)
スマホを片手にあちこち移動し、電波がつながる場所を探したのだが、無駄だった。
電源は入るので、一応ノートパソコンも立ち上げたが、ネットにはつながらない。
時計を見ると、完全に遅刻だ。
実は……。
社内では人畜無害の「いいひと」として、どちらかと言えば軽んじられがちな俺に、なんと、新規プロジェクトのリーダーとして白羽の矢が立ったのだ。
何だか初めて人からちゃんと認めてもらえたような気がして、何か月もかけてプレゼンの準備をした。
そりゃもう、夢中で頑張った。
会社の上層部からの了承はすでに取っている。
あとは、正式な場で披露するだけ。
そしていよいよ今日がその日だというのに……。
なのに!
一体、何が起こったんだ!
――――――
何が何だかわからないが、とにかくスマホの明かりを手にもう一度、玄関から外に出てみた。
調べてみたのだが、この石造りの部屋にはドアも隙間もないようだ。
「おーい! 誰か、誰かいませんか!」
「……」
「た、助けてくれー!」
「…………」
大声で叫んでみたのだが、どこからも返事はなく、静まり返っている。
―――――
部屋に戻ってから一時間以上、スマホを掲げて部屋中歩き回ってみたのだが、圏外のままだった。
外には出られず、電波も入らない。
仕方なくリビングに戻り、椅子に腰かけてしばし呆然としていたのだが……。
「……あ、あれ?」
ふと気付くと、リビングのテーブルの上に出したノートパソコンの画面に、一通のメールが届いていた。
慌てて開いた俺の目に飛び込んできたメールの中身は、とんでもないものだった。