夏の出会い
久しぶりに書きました。良ければ最後まで見て行ってください。
小学生最後の夏休み僕は、祖母が住む島に向かう為、フェリーに乗っていた。小型なフェリーには僕以外誰も乗客がいない。そんな静かな場所で僕は一人甲板で景色を眺めていた。
甲板から見える景色最には物珍しさがあり最初は悔いるように見ていたが、今ではただの広大な海としか思わなくなっていた。
「はあ、こんなことならゲームでも持ってくればよかった」
愚痴をこぼしながらも僕は、代り映えのない景色を眺め続ける。船内にある椅子に座っててもやることがないからだ。
「島についてもなにもやることがないんだろうな。コンビニもない田舎だからな……」
退屈な日が続くのだろうと思いながら僕は、前方に見える島を眺めた。
ーー
「ありがとうございました」
船員に見送られ僕は祖母が住んでいる島へと降り立った。膨らんだリュックを背負い、キャリーケースを引きながら祖母の家を目指し歩いて行く。
「確かこっちだったよね」
幼い頃に一度だけ来たことがある。その時の記憶を頼りに坂道を登っていると、目の前から少年がやって来た。その少年は半袖半パンで露出している肌はこんがりと日焼けしている。体格や背丈は自分とさほど変わらない。
もしかすると同年代だったりして……。そんなことを考えながら少年の事を見ていると、声をかけられた。
「おい、お前島の者じゃないだろ?何処から来たんだ?」
もしかしてじろじろ見すぎたかな。少年の威圧的な言動に僕は不安を募らせながら答える。
「……東京から」
「と、東京?!東京って日本の都市のことだよな?」
「そ、そうだけど」
先程の威圧的な雰囲気とは打って変わって、少年は目を輝かせながら僕の元に近づいてくる。
「なあ、俺さいつかこの島出て東京に行ってみたいと思ってたんよ。だからさ、東京の事聞かせてくれよ」
「う、うん。いいけど歩きながらでいいかな?叔母の家に行かないといけないから」
「大丈夫だ。あ、聞かせてもらう代わりに俺がその荷物持つ」
「え、ちょっと」
少年はそう言って僕の手からキャリーケースを取る。そして持ち上げようとして体を硬直させた。
「……意外と重いな」
「それは持ち上げてるからだよ。下にキャスターがついてるから引けばいいんだよ」
僕が軽く説明すると、少年は驚いていた。その表情が面白くてついて笑ってしまう。
「あははっ……」
「おい、笑うなよ。初めて見たんだから仕方ないだろ!」
「ごめん、ごめん」
顔を赤くする少年に僕は笑いを堪えながら誤った。最初は少し威圧感があって取っつきにくい相手だと思ったけど、どうやら違うみたいだ。
少年に荷物をもって貰いながら叔母の家を目指す。その間に少年からの質問に答えていった。東京スカイツリーは実際どのくらい高いのかと聞かれた時は上手い例えがなくて困ったが、「この島にある一番高い建物船舶用の灯火の何十倍もあるよ」と言ったら驚いた表情をしていた。実際に見たらもっと驚くんだろうなと思っていると、唐突に少年が声を上げた。
「あ、俺まだ名前言ってなかったよね?」
「あ、そうだったね。すっかり忘れてたよ」
もとから友達だったのかと思うほど少年との会話はスムーズで、僕は初対面ということを忘れていたのだ。
「俺の名前は海崎和也。和也と呼んでくれ」
「僕の名前は前原なずと。僕の事は気軽になずと、と呼んでね。改めてよろしくね和也!」
「ああ、よろしくな!なずと」
互いの名前を交わしたお陰か、さらに仲が深まった気がする。自己紹介を済ませ話を弾ませていると、いつしか叔母の家にたどり着いていた。
木造建ての年季の入った家は昔の記憶と移り変わりがない。外から見える縁側の近くには風鈴が垂れ下がられており、風が吹く度音を奏でていた。年季の入った扉を開け僕は声を上げる。
「おばあちゃん〜なずとだよ。着いたよ〜」
僕が声を上げて数秒後、奥の部屋から年老いたがや祖母がやって来た。右手にはお茶が入ったコップが見える。
「なずとよく来たね。外は暑あっただろう……。あら、和也じゃない。もしかしてもう仲良くなったのかい?」
「そうなんだよ、くる途中あって話している内に仲良くなったんだ」
「そうだったのかい、少し待ってなさい。和也の文のお茶を取って来るから。なずと先に渡しておくわね」
「ありがとう。おばあちゃん」
祖母は僕にコップを渡すと、和也の分を取りに奥に戻っていった。僕は喉の渇きに我慢できず、和也に断りを入れお茶を飲む。冷えた麦茶は渇いていた喉を潤してくれる。
「はぁっーー美味しい……」
僕が一息付いたところで、祖母は和也の麦茶を持ってきた。和也も喉が渇いていたのか、お茶を受け取ると一気に飲み干した。
喉の渇きを潤した僕達は、祖母が用意してくれた部屋へと荷物を運ぶ。キャリーケースは和也が運んでくれてた。「最後まで俺がやる」といって。
「じゃあ荷物置いたところだし早速遊びに行こうぜ!おばあちゃんなずと借りてもいいか?」
「ああ、しっかり遊んできんさいよ」
「なずと行くぞ!」
「え、ちょっと!」
祖母の承諾を得るや否や、和也は僕の手を掴んで走り出す。僕の声に足を止めることはない。何度かこけそうになりつつも、和也のスピードに合わせるように必死に走る。登って来た坂道を止まることなく駆け下りると、沿岸にある堤防を掛けていく。
もうすぐ堤防の終端で、その先に待っているのは光に照らされ輝く海だ。それなのに、和也は足を止めるどころか、スピードを上げた。
「え、ちょっと待ってこのままだと海に落ちるって!」
僕が慌てて声を上げると和也は笑った。
「心配すんな!」
「ちょつ、うぁぁぁぁぁぁ!」
和也に引っ張られ僕は海に飛び込んだ。いきなりの事で僕は海水を少し飲み込んでしまう。僕は空気を求め慌てって浮上した。
「ゴホッ、ゴホッ。ぢょっど、いぎなり飛び込まないでよ、驚いて水飲んじゃったじゃん!」
「ごめん、ごめんでも気持ちよかっただろ?」
和也は申し訳なさそうにしつつも、無邪気な笑みを浮かべながら同意を求めてくる。
「確かにそうだけど、何かするときは言ってよ!」
「悪かったって~なんかあったら助けてたからさ~」
陽気に和也は反省しているのかどうか怪しいが、実際に僕が溺れていたら助けてくれてただろうと、何処となく安心感があったのでこれ以上言わない事にした。
「なんか今俺の事ほめたか?」
和也の鋭さに僕はドキリとさせられる。実際は褒めたというより信頼しているが正しいんだけど、恥ずかしいので和也には言えない。
「いや、気のせいだよ」
和也が不思議そうに僕に目線を向けてくるので、僕は慌てて別の話題へとそらす。
「にしても……この海奇麗だよねー」
「ああ。自身を持って自慢できる海だ。都会に負けないだろ?」
和也はあからさまに嬉しそうな表情をする。
「うん、こんな綺麗なとこ僕が住んでいる場所にはなかったよ」
実際、僕が住んでいた所のの海より奇麗なのだ。和也は褒められたのが嬉しかったのかあからさまに嬉しそうに顔をにやつかせた。
「なあ、もっかい飛び込み行こうぜさっきより高い場所があるんだ」
「うん、いいよ」
先ほどの飛び込みは気持ち良かったし、楽しかったので僕は和也の提案に頷く。少し泳ぎ砂浜に上がると、和也が急に走り出す。
「ちょ、和也早いって」
僕は必死に和也の後を追うが着ていた服が水分を吸っていて重く、なれない砂浜のせいで足が思うように動かない。和也との距離は徐々に話されていく。
「なずと情けないぞ!都会育ちはこんなもんなのか?」
和也は意地悪そうに笑いながらこちらを振り、挑発してくる。
「都会育ちをなめるなーー」
僕は水を吸って重たくなった靴を脱ぎ捨て和也の後を追った。和也を追いかけ無我夢中で走っていると、自分が高台のような場所にいる事に気が付く。下を覗くと、どれだけこの場所が高いのか良くわかる。6メートルくらいはあるだろうが下には先程と変わらない穏やかな海なのに、少し不気味に見える。
「おい、なずと。もしかしてビビってるのか?」
「ち、違うし。ただ高さを眺めてただけだし」
僕は訳の分からないごまかしをしてしまう。正直怖いけど、和也にはそんなこと言えない。
「じゃあ、俺が先飛びこむからみときな」
和也はそう言って助走を付け勢いよく海へ飛び込んだ。激しい水柱が立ち上がり海は泡立つ。暫くしても和也は浮いてこない。この高さだからもしかしたら…僕がそう思っていると和也が何食わぬ顔で顔を出した。
「なずとも早く来いよー。最高に楽しいぞ!」
和也の姿にほっとしつつ、迫っている恐怖に体が竦む。和也が大丈夫だったんだから僕も大丈夫なはずだ。そう思い込んでもまだ怖い。けど、ここで引くわけにはいかない。ここで引けば和也に笑われるだろう。僕は覚悟をきめ走り出す。
「うわぁぁぁぁぁぁーー」
声を上げながら僕は全力で崖先まで走り海へと飛び込んだ。心臓がふわりと揺れ体に激しい重力を感じだ後、僕は一直線に落下する。直後体全体に水が襲い掛かって来た。僕は海の深くまで潜り浮上した。
「なずとどうだった?」
近寄って来た和也が笑みをこぼしながら感想を尋ねてくる。
「めっちゃ最高だったよ」
「だろ、もっかい行こうぜ!」
「うん」
最初の恐怖はもうなく僕は何ども和也と一緒に、崖からダイブする。僕達は日が暮れる頃まで海で遊び続けた。
ーー
海で遊び終えた僕達は祖母の家を目指し歩いている。
「うう、疲れた……」
「なずとは体力がないな。そんなんじゃこの島だと生きていけないぞ」
「和也が体力ありすぎなんだよ」
「まあな、俺は常に外で遊んでるからな!」
「流石田舎育ちだよ……」
僕は和也の体力に驚きながら和也と一緒に祖母の家へと戻った。家に戻ると、祖母はびしょ濡れの僕達を見て驚いた後、タオルを持ってきてくれる。
「体吹いたらお風呂に入ってきんさい。夏でも風邪ひくからね。和也の家には連絡しといたから今日は止まっていきよ。せっかく仲良くなったみたいやからね」
「いいのか?ありがとうおばちゃん」
この場で解散と思って少し寂しかったけど、騒がしくなりそうだ。ある程度の水を落とした後、僕達は着替えをもって風呂場に向かう。和也の着替えは僕が呼びに持ってきていたものだ。和也と背丈も体格もあまり差がないので大丈夫だと思う。
脱衣所で濡れた服を脱ぎ捨てると、身体が露になる。僕は太ってる訳ではないのだけど、和也の引き締まった身体を見て、何故か少し悔しさを覚えた。
「どうしたんだ?早く入ろうぜ」
「そ、そうだね」
不思議そうな顔をする和也に、僕は慌てて視線を反らし風呂場へ向かった。風呂場は二人が入っても困ることがない広さがあり、年季が入った浴槽からは白い湯気が上がっていた。
頭を二回洗うと、和也が提案してきた。
「なあ、なずと。せっかく二人なんだからお互いに洗い合おうぜ!」
「そうだね。楽しそうだし」
そうして互いの身体を洗い合うが、中々うまく進まない。それには理由があった。人に体を洗って貰うのは凄くくすぐったいのだ。
「ひゃっ……」
「おい、なずと変な声出すなよ」
「だってくすぐったくてんだもん。和也だって「ふゃっ」とか変な声出してたくせに!」
「は、俺はそんな情けない声なんて出してないから!」
顔を赤くして強がる和也の背中を僕はタオルで擦った。
「ふゃっ!ちょ、なずと辞めろよ」
「ほらー和也っだって変な声出してるし」
「ち、違うし。驚いただけだからな」
何度も言い争いをしながら身体を洗った後、僕達は湯船に浸かる。疲れ切った体を程よい暖かさが優しく包んでくれる。その気持ち良さに思わず僕達は声を漏らす。
「ふぁ~~気持ちいーー」
「あぁ、温まるな~~」
油断していると意識を失いそうになりそうだ。
「それにしても今日は疲れた。明日絶対筋肉痛だよ」
「はは、なずとは情けないな」
和也の言う通りで少し悔しかったので、僕はお風呂のお湯を和也の顔にかけた。小さな反抗だが和也には効果的だった。
「うわ、ちょっと何すんだよ。ちょ、ちょっとやめろよ。俺が悪かったからさ」
和也の情けない声を上げながら両手で顔を隠す。僕は何度かお湯をかけた後、手を緩めた。和也の情けない姿を見て少しスッキリしたのは内緒だ。
身体が十分に温まり体がふやけ始めると、僕達は風呂から上がった。脱衣所で服を着ていると、美味しそうな匂いが、鼻孔を擽る。匂いを頼りに進んでいくと、和室ににたどり着く。和室の真ん中には大きな座卓があり、様々な料理が並べられている。塩結び、魚の煮つけ、野菜の和え物、レンコンやニンジン、こんにゃくを使った煮物にみそ汁……etc.
目の前にある料理はどれも美味しそうで、腹ペコの僕達の食欲を旺盛に引き出している。僕達は敷かれている座布団に急いで座り、手を合わせる。
「「頂きます」」
「いっぱい食べんさいよ」
食事の挨拶を済ませると、僕達は皿に並べられている料理をかっさらうように食べていく。そんな様子を見て祖母は「まだまだるんだから、ゆっくり食べなさいよ」と窘めるが、僕たちの勢いは止まることはない。
あっという間に卓上の上の料理は消え去り、空になった皿だけが残った。
ーー
夕飯を食べすぎた僕達は、布団の上で大の字の状態で仰向けに寝転んでいた。
「ううっ……ちょっと食べすぎたかも」
「……俺もだ」
腹が空いていて料理も美味しかったので食べ過ぎたのもあるが、和也の食いっぷりに負けないよう競ったのが大きな間違いだったと思う。意地を張らなければよかったなと、後悔するが後の祭りだ。
寝転んでいると、不意に眠気が襲ってくる。外から聞こえてくる鈴虫の音が心地よくさらに眠気を誘う。僕がうとうとしていると、和也は布団から立ち上がった。
「どこかに行くの?」
「ああ、明日の準備をしてくる」
「そうなんだ」
気になったが、睡眠欲には勝てそうにない。扉から入ってくる心地いい風に僕は身を任した。
ーー
「おい、なずと起きろー朝だぞ!」
「ん、んん……」
何度か体を揺すられた後、僕は徐々に意識を覚醒させる。ぼやける視界は目の前にいる少年を捉える。なんで和也がいるんだろう?。回らない頭で昨日のことを思い返す。ーーそうだった昨日和也は泊っていったんだった。
「和也…おはよう……」
僕は和也に挨拶して再び布団に寝転ぶ。
「おはようって、なずと寝ようとするな」
「うわ、ちょっと」
二度寝をしようとすると、和也に布団を引き剝がされる。
「なずと、もうご飯ができてるんだから早く起きろよ」
「わかったよ」
和也にせかされ僕は渋々立ち上がろうとするが、足に激しい痛みを感じて転んでしまう。
「いたっーー」
「ちょ、なずと大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。筋肉痛で立てない……」
「なんだ筋肉痛か……。しょうがないな、ちょっと痛いが我慢しろよ」
「あっ、いっ」
和也は僕の身体を起し手を肩に絡ませて立ち上がらせてくれた。なんか看護されている気分だ。
「和也もう少し優しく。痛いから優しく」
「男なんだから、そんくらい我慢しろよな」
「っつーー」
和也に支えられながら和室にたどり着くと、待っていた祖母が僕の姿を見て目を見開く。
「なずとやっと起きたのかいって、どうしたんだい?」
「あ、おばちゃんおはよう。ちょっと遊び過ぎて筋肉痛でさ……」
「大丈夫なのかい?」
「うん、なんとか和也に助けて貰ってるから」
僕は和也に支えられながら座布団に腰を下ろす。手も筋肉痛で動かせないので、僕は和也に料理を口に運んでもらうといった介護されながらの朝食を送った。恥ずかしかったけど、痛みには勝てなかった。
朝食を食べ終わっても筋肉痛が治るハズもなく未だに痛みは続いている。
「にしても今日はなずと動けなさそうだからどうするかだよな」
「マッサージしてくれたら少しはましになるかも……」
僕がそんな提案をすると和也は「俺に任せとけ!」と得意げに笑った。不安しか感じなかったが、自分で怖がりながらやるよりはましだと思い、和也に任せることにした。この時の僕は後で後悔することになると知らなかったのだ。
「ちょ、痛いって優しく。いっ」
和也の容赦のない解し方に僕は何度っも悲鳴を上げる。
「このくらいで痛がるなよ強くやらないと治らないからしょうがないだろ」
「いやもっちょっと加減を考えてよ!」
「しょうがねえな~まったくなずとは弱っちいんだから」
和也の言い方に少しムッとするが、何も言い返せない。今何か言えば必ずひどい目に合うと目に見えてるからだ。明日から風呂上がりに体操をしようと、僕は心に決めたのだった。
和也の容赦のないマッサージを終えると、何とか自力で歩けるくらいまで回復した。……和也のマッサージが痛すぎで感覚が麻痺している訳ではないと思う。何度か足の調子を確かめるため歩いていると、和也は遊びに行こうと誘ってくる。
「なずと、もう歩けるから遊べるよな。行こうぜ外に!」
「まだ万全じゃないし走れないと思うけど」
「大丈夫、問題ないって!絶対走らないから」
和也の満面の笑みに不安を覚えずにはいられなかった。その笑顔に何度か騙されているのだから。 ーーそう思っていたのに僕は今外にいる。
僕が外に出ることを嫌がっていたら、「まだ治ってないなら俺がマッサージの続きをしてやるよ!」と和也に言われたのだ。
無邪気な笑顔でそう言われた時は、背筋が凍った錯覚を覚えたよ……。あの言葉を聞かされたら外に出る以外の選択肢は取れない。こうして僕は外に出ることとなったのだ。
ーー
「で何処に行くの?」
先ほどから和也の背後を付いて歩いているのだけど、行き先を教えてくれない。聞いてもはぐらかすだけなのだ。なんのことなんだろうと考えていると、昨日の夜の和也の行動を思い出す。
「もしかして昨日夜出かけたことと関係あるの?」
「ああ、あれは今日の為の仕掛けをしておいたんだ」
「しかけ?」
和也から齎された新たな情報に、僕の頭は更に混乱する。再度和也に尋ねたが答えてくれないので僕は、考えるのを辞め大人しく後を追った。
気が付くと僕達は、民家が立ち並ぶ住宅街から遠く離れ、島の中心部にある森の入り口に差し掛かっていた。鬱蒼とした森は何処となく不気味さを醸し出している。そんな森の中から、瓜二つの少年達が出てきた。一瞬幽霊でも見たかと思ったけど、直ぐに双子だと気づく。
双子は僕達に気が付くと、駆け寄って来る。
「おーい和也これから森に入るのか?って隣の奴はだれだ?」
「最近付き合い悪いなと思ってたけど、横にいる子が関係しているみたいだね」
和也の友達だろうか?僕は双子から向けられる視線に気恥ずかしさを感じながら自己紹介をする。
「僕の名前は前原なずと。叔母の家に遊びに来たんだ。よろしくね」
「俺の名前は風谷海だ。よろしくな!なずと。でこっちの弟が……」
「空だよ!よろしくねなずと」
「うん、よろしくね。海、空」
兄の海は活発は和也と同じく活発そうで、弟の海はクールな感じがした。顔はそっくりだけど、性格は全然違うみたいだ。
「なずと達はこれから森に行くんだよね?」
「うん、そうだよ。なんか和也がしかけ?をしてくれてるみたいだから」
「あ、もしかして、カ、んんっつ……んっ……」
何かを言おうとした海の口を和也が咄嗟に塞ぐ、僕は唐突の出来事に固まってしまう。
「い、いきなり、なにすんだよ!和也!」
海は和也の手を振りほどき睨みつける。一触即発の雰囲気が二人の間に流れる。そんな二人の間に空は割り込んだ。
「お兄さんちょっといいかな。和也はね……」
空は海に近づき耳元で何かを囁いた。空の話を聞いていた海は驚いた表情をした後、和也の顔を見てにやける。
「ふふっ。和也にもそんな一面があるとはな」
「わ、悪いかよ!」
和也が顔を赤めると、さらに海は笑みを零す。先ほどの険悪な雰囲気は既になくなっていた。僕は密かに安堵する.喧嘩など見たくなかったのだ。
「和也、なずと、僕達はこれから用事があるからそろそろいくね」
「またな、なずと、和也。楽しめよ!」
「おう、またな」
「え、あ、うん」
唐突に告げられる別れに僕は、曖昧な返事を返す事しか出来なかった。僕は呆然としながら双子を見送った。
ーー
二人と別れた後僕達は森の中を進んでいた。森の中は木々が太陽の日を遮っているお陰で、夏にも関わらず心地いい。耳を澄ませば小鳥の囀りや、近くを流れているであろう川の潺が聞こえてくる。森の自然を体感しながら歩いていると、和也が一本の木の根元で立ち止まった。
「和也どうしたの?」
「なずとよく見てみな」
「え?」
僕は和也が指さす木を見つめる。その木にはネットの様な物が吊り下げられており、そのネットにはカブトムシやクワガタなどの虫たちが群がっていた。
「カブトムシだ!」
思わず声が弾んでしまう。それも仕方ないことだと思う。僕は実物を見るのが初めてなのだから。都会では見かけたことがなかったのだ。探したら見つかるかも知れないが、そんな子供っぽい遊びをする友達など周りにはいなかった。みんなゲームで遊んでいるからこんな自然な遊びなどあまりしたことがなかったのだ。
「ほらなずとカブトムシ」
和也が素手で捕まえたカブトムシを僕に差し出してくれる。カッコいいのだけど、初めてなので少し触るのが怖い。僕が戸惑っていると、和也がにやけながらぐいぐいと顔に近づけてくる、
「ちょっと、和也そんなに近づけなくていいから」
「はははっ、なずとは触れないか。しょうがないな」
和也は笑いながら近くの草むらをゴソゴソとして虫篭と網を取り出した。
「最初からあるなら出してよ!」
僕が抗議の声を上げると、和也は笑いながら「手で捕まえれると思ってた」と言い放った。絶対そんなこと思ったけど僕は大人しく網を受け取った。ここで愚痴をこぼすと、何やらまた意地悪をしてきそうだからだ。
それから僕が網でカブトムシを捕まえ、そのカブトムシを和也が虫篭に入れるといった作業が続いた。
「よし、目的は達成したから帰るか」
「え、もう帰るの?」
「ああ。もっと森にいたかったか?」
「いや、別にそんな事はないよ」
涼しげな森の中から離れるのは少し心残りだけど、僕は和也の後を追う。家を目指して森の中を進んでいると、和也がふと訪ねてくる。
「なあ、そういやぁなずとはいつまでここにいるんだ?」
「明後日の朝のフェリーで帰るから…一応後二日だね」
「そ、そんなに短い間なのか?」
「うん、僕も長く居たいけどもう決まってることだから」
「そうか……」
和也が少し悲しそうな表情を浮かべる。僕もその表情を見て悲しくなってくる。和也と僕の間には静かな沈黙が続く。和也と過ごす日々はあと少ししかないのだ。こんなところで時間を無駄にしているわけにはいかない。僕はしんみりとする雰囲気を打ち壊すため和也に話しかける。
「ねえ、和也。こんなにいっぱいのカブトムシどうするの?」
「ああ、こいつらを戦わせて一番を決めるんだ」
「へえ~それは面白そうだね」
「そうだろ!」
僕が同意すると、和也は嬉しそうに声を高らかにする。先ほどの悲しい顔などそこにはなかった。僕がほっとしているのもつかのまだった。和也が僕を置き去りにして走り出したのだ。
「なずと早くしろー」
「ちょ、僕が筋肉痛のこと忘れてるでしょ!走れないから和也止まってよ!」
和也の急かす声に、僕は慌てて声を上げる。こんな森の中で置き去りにされると遭難する自信しかない。僕の声が聞こえたのか和也は足を止め振り返った。
「あ、わりい。忘れてた」
「もう、和也に置いていかれたら僕は遭難するところだったよ!」
「ごめんって。そう怒るなよ」
和也は僕に近づきながら誤ってくる。正直そこまで怒っていないけど、少しの間反省してもらう為に、暫くの間怒ってるふりをした。
そうこうしていると、いつの間にか森から抜けだしていた。
「あっい……」
遮るものがなくなったせいで太陽の光を直接浴びてしまう。先程迄の心地いい気温とは変わり、温度が身体の体力を奪っていく。和也はけろっとした顔で温度など気にしないようだ。
「相変わらず和也は…」
僕は言いかけた言葉を飲み込む。「相変わらず和也は元気だね」と言おうと思ったけど、そういうと、「まあ、俺はなずとと違って外で遊んで鍛えてるからな」とか言って必ず和也は調子に乗ると思う。そう思い何とか言葉を濁したのだ。
「なあ、今何言おうとしてたんだ?なあ、なずと?」
僕が言おうとしていた言葉を分かってるかのように、和也は顔をにやつかせながらぐいぐいと聞いてくる。さっきまではあんなに落ち込んでいたのにと思う一方、単純に元気を取り戻す和也でよかったと思う。あれで気まずい状況が続くのはいやだったから。
ーー
「「ただいまー」」
家に帰ると祖母がスイカを持ってきてくれた。縁側に座った僕たちは水分をとるようにスイカを食べていく。あっという間に皿に盛られていたスイカは消え去った。
スイカを食べ終えた僕達は、カブトムシ達を戦わせる事にした。僕達が捕まえたカブトムシは全部で5匹。サイズも様々で、黒や茶色といった色にも違いがある。
和也は虫籠に手を入れカブトムシを掴むと、もう一つの虫籠へと入れる。なんで空にした虫篭を持っているのか不思議に思っていたけど、この為だったのか。僕が一人納得している間に、カブトムシ達は互いの事を知覚したのか、近づいていく。そして角が当たる距離になると、角を尖らせながら戦い始めた。
何度も角をぶつけ合い激しい攻防が続いたが、体格の小さなカブトムシの角が折られたことによって勝敗が決まった。
「角が……」
僕は角が折れたカブトムシを見て悲しい気持ちになる。このカブトムシの角は僕が折ってしまったといっても過言ではない。僕達が戦わせたのだから。
「……ごめんなさい」
「なずと。いきなりどうしたんだよ?」
和也は僕に不思議そうな顔をして訪ねてくる。
「角の折れたカブトムシが可哀そうで」
「ふっ。なずとは優しいな。ツノの折れたカブトムシは俺が責任を持って育てる。残りのカブトムシ達は森に帰して上げるか」
「うん」
僕は和也と共に再び森に向かった。
ーー
カブトムシを森に放ち家に帰るころには日が落ちていた。今日も和也は祖母の家に泊まることになったのて、昨日と同じように一緒に風呂に入り夕飯を食べた。
今日はもう寝るだけだと考えていると、和也に遊びに行こうと誘われる。
「なあ、なずともう少ししたら肝試しに行こうぜ!」
和也の提案に驚きつつ、真夜中に外に出てたくないので何とか言い訳を捻りだす。
「こんな夜中に子供だけで外に出るのは危ないよ。何が起きるか分からないし……」
「大丈夫だ。こんな島に悪い奴なんていないからな」
必死に考えた言い訳はすぐに打ち破られた。正直に夜は怖くて外に出たくないと言えばいいのだけど、和也にそんなこと言えないので僕は頷くしかなかった。
ーー
ああ、素直に怖いと言えばよかったかな。いや、結局和也に連れ出されているか……。どうせ今頃考えても、もう遅いよね。だって既に外にいるのだから。
暗いよ闇を照らすのは月明りと、僕のが持つ懐中電灯だ。月明りだけだと心持たないので、祖母のに在った物を借りてきたのだ。外に出たばかりの時は、初めて深夜に外に出ただけあって罪悪感からワクワクしていたのだけど、それは夜の暗闇によってすぐに恐怖へと変わっていった。
「ねえ、どこに向かってるのあんまり遠くには行きたくないんだけど」
「肝試しと言ったら定番の場所だ!」
和也の答えに僕は嫌な予感しか感じなかった。その予感は当たっていた。ーーたどり着いた場所は墓場だったのだ。
「ば、罰当たりだからやめようよ」
「何言ってんだよ。ただ横を通るだけ。そんなことで怒ったりしないって。ほら行くぞ」
「ちょ、待ってよ!」
墓場に入っていく和也の後を僕は慌てて追った。、こんな暗い場所で一人でおいて行かれるのは恐怖でしかないのだ。僕は謝りながら墓場に足を踏み入れた。
墓場に踏み入れた僕は和也の引っ付くように歩いている。何度か和也に歩きづらいと言われたが、僕が離さないと和也は諦めたのか何も言わなくなった。正直恥ずかしいけど、恐怖の方が今は勝っているのだ。
墓の風景を見たくない僕は下に目線を向きながら歩いている。そのせいで、和也が突然止まったことに気付くのが遅れぶつかってしまう。
「いたっ……。和也いきなり止まらないでよ」
「な、なずとお前。あれ見えるか?」
和也が指さす方を僕は恐る恐る目を向ける。そこには小さめの地蔵が立ち並んでいた。特に変わった様な物に見えないのに、和也は顔を青くしている。
「うん。お地蔵さんがいるけどそれがどうしたの?」
「いや、俺はこんな地蔵なんて見たことない……」
その言葉を聞き僕の頬は冷や汗が伝う。特に変わった様子がない地蔵でも和也の言葉で不気味さが醸し出される。
「か、帰ろう和也」
「ああ」
僕達は地蔵から目を離し一目散に走り来た道を戻る。後ろを振り返ることはしない。激しい動きに肺が酸素を求め息が苦しいが、止まってられない。僕達は全力で走り祖母の家に戻った。
家に入ると、身を隠すように和也の布団に潜りこむ。和也は最初こそ驚いたが何も言わない。いつもの和也だとからかってくるが、そんな元気はないのだと思う。和也の人肌の暖かさに少し安心感を抱きつつ僕は目を閉じた。
ーー
翌朝、僕達は祖母の声で目を覚ました。昨日夜更かしをしたので起きれなかったのだ。うまく開かない目を擦りながら僕は朝食が準備されている和室に向かい座布団に座る。
朝ご飯を口にいれると、眠っていた頭が動き出す。活動しだした脳は昨日の出来事を思い出させる。僕は恐る恐る昨日の出来事を祖母に尋ねてみる。すると、問題は意外にも解決する事となった。
「ああ、あの地蔵は最近出来たものなのよ。墓が寂しいから地蔵でも建てようかねとなってね、作ってもらったのよ」
……なんだ、和也の早とちりだったんだ。そう分かると一気に緊張感が抜ける。ことの騒ぎを起こした和也に目を向けると、申し訳なさそうに頭を下げた。たが和也の口は食べ物を咀嚼しているのか、動いている。変わらない和也に、僕は思わず笑みをこぼしてしまった。
ーー
朝食を済ませると僕達は外へと繰り出す。まだ、朝方なので外はそこまで熱くはない。
「ねえ、和也。今日はなにして遊ぶの?」
「今日は特に決めてない。なずと何回かやりたい事あるか?」
「ん〜」
田舎での遊びは分からないし、特に何かしたいことはないので僕は頭を悩ませる。正直に言うと和也と遊べたらなんでも楽しいと思う。僕は少し恥ずかしさを覚えながら和也に任せる事にした。
「和也が決めてよ。和也とならなんでも楽しいな思うからさ」
「わ、わかった。じゃぁ今日は折角の海があるんだし釣りをしよう!道具は俺の家にあるから取に行くぞ}
「うん!」
釣りか。釣りなんてしたことがなかったな。どんな感じなんだろう。僕は興味を抱きながら和也の背を追った。
ーー
「なずと、着いたぞ。ここが俺の家だ」
和也が指さす方向には木造建ての平屋の一軒家が立っている。和也はそそくさと入っていくので、僕は挨拶をし足を踏み入れた。庭にある大きな倉庫では和也が釣りの為の道具を漁っている。
「あった。なずとこれ」
倉庫に埋まっていた体を起こし、和也は僕に釣り竿を渡してくれる。和也から釣り竿を受け取ると、その重さに体が驚く。
「意外と重い……」
「そんなんだと魚なんて釣り上げられないぞ」
「な、慣れてないからだよ!」
僕は言い訳をしつつ、こっそりと釣り竿を持つ手に力を入れた。
ーー
釣り竿を持って海の堤防に向かうと先客がいた。そこに居たのは先日あった双子達だ。
「おーい海、空!」
和也が呼びかけると二人はくるりと首を回しこちらに振り返る。
「お、和也になずと!お前達も釣りに来たのか?」
「本当だ。なずともいる!」
「ああ、なずとは釣りをしたことがないらしいからな」
「え、釣りをした事がないのか?」
「ほんとに?」
そっくりな顔二つが驚きに染まっているのは、少し面白くて僕は笑いを堪えながら答える。
「二人とも驚きすぎだよ。釣りした事ない人は結構いると思うよ」
僕がそう言うと、双子はまた驚いた表情をするが、弟の空が何かに気が付いたのか一人納得していた。兄の海は分からなくて首を捻っていたが空が「都会なら遊び場所がたくさんあるからかも」と説明すると理解したのか頷いていた。
「だべってないで早く釣りすんぞ!」
「そうだね」
和也の急かす声に僕は釣りをしに来たことを思い出し釣り竿を持って堤防の端に立つ。和也に釣り竿の使い方を習い海に竿を入れて待つこと数分……唐突に釣り竿が引っ張られる。ぼーっとしていた所為で一瞬反応が遅れてしまう。急いで釣り竿を上げたが、そこに魚はいなかった。
「うわー間に合ったと思ったのに」
「なずと。集中して構えてないと逃げるぞ」
「そうわ言われても……中々集中力が続かないよ。すぐに釣れたらいいのにね」
僕がそんな嘆きを呟いていると、双子の兄弟たちがプラスチックの容器を持ってきた。
「なずとこれ使えよ。そしたらすぐ釣れるぞ」
「でも、なずとは慣れてないから少し気持ち悪いかも……」
二人がそう言いながら差し出して来た容器を除くと、ミミズの様な虫がうじゃうじゃとひしめき合っていた。僕はその光景を見て身の毛がよだつ。
「うっ……なにこれ……」
「やっぱり初めて見るなずとにはきついよね。僕もあんまり好きじゃないんだけど、よく釣れるから使ってるんだ」
空は苦笑いをしながら僕の視界から外れるように容器を遠ざけてくれる。空の心遣いに感謝していると、和也がある提案をする。
「俺が餌をつけてやるから大丈夫だ。分けてくれ空」
「そうだね。それなら問題ないね」
和也は差し出された容器から餌を手で何本か掴むと僕の釣り竿につけてくれる。
「……なんか和也頼もしいね」
「なずとがビビりなだけだ。ほら早く付けたから海に入れてみろよ」
和也は恥じらうように顔を赤くし、急かしてくる。僕は頷き餌が付いた竿を海へと入れた。餌をつけるだけでそんなに変わるものなのかと、訝しげに思っていたがそれは杞憂だった。釣り糸を垂らしてから数十秒もしないうちに竿が引っ張られたのだ。
「え、もう来た」
「なずと早く上げるんだ逃げられるぞ」
「う、うん」
緊張しながら竿を引き上げると、鍼に小さな魚が引っ掛かっていた。和也や双子の兄弟達が釣り上げている魚達より小ぶりだが、僕にとっては大物だ。
「やった釣れたよ和也!」
「よし、どんどん行くぞ」
「うん」
僕は和也に再度餌を取りつけてもらい魚釣りを楽しむ。何度か魚を逃がしてしまうこともあったが、徐々に上達していったと思う。昼になる頃には持ってきたバケツが、魚で一杯になっていた。
「よし、いったん帰るぞなずと」
「そうだね。お腹も空いて来たしこれ以上釣っても入りきらないからね」
僕達は祖母の家に帰ることにした。双子の海と空に別れを告げた後、僕達は祖母の家に帰宅した。
「「ただいまー」」
家に帰ると出迎えたくれる祖母に釣りの成果を見せる。祖母は少し驚いた後「夕飯は魚尽くしね」とほほ笑んだ。それから祖母が作ってくれた昼飯を食べるとまた釣りをしに堤防へと僕らは向かった。
ーー
堤防に戻ると双子の兄弟は未だに釣りをしていた。僕達も双子達と混ざり釣りを再び始める。そうして釣りを楽しんでいると、海が釣り竿を手放し海に飛び込んだ。
「うひゃーやっぱ海は気持ちいな~。なあ、釣りばっかりだと飽きるだろそろそろ泳ごうぜ!」
「そうだな。そろそろ退屈してたところだしな」
和也は海に続くように飛び込んだ。
「なずと、空お前たちも早く来いよ」
「そうだぞ!冷たくて気持ちいぞ~」
二人の言葉に僕と空は互いに顔を見合わせた後、海へと飛び込んだ。和也の言ってた通り海は冷たくて気持ちいい。僕が海の冷たさに気分を良くしていると、和也が水を飛ばしてくる。
「うわっ、いきなりなにするの和也!」
「この前のお返しだ!」
そういって和也は何度も海水を飛ばしてくる。その海水は僕だけではなく、周りにいた双子達にも掛かってしまう。
「和也やりやがったな」
「和也覚悟してね」
双子の参戦で和也は少し顔をひきつらせた。それから三対一という可哀そうな戦いが始まった。最初は和也は我返さず僕達にやり返していたが、長引くにつれ和也は弱っていった。
「も、もう俺の負けでいいからやめてくれ」
和也の降伏宣言に僕達は手を止めた。
「にしても、三体一なんて酷いぞお前ら!」
「そんなことないよね?なずと」
「え、僕に言われても……」
空からの同意を求める声に僕はたじろいでしまう。風呂の事で今回の騒動が起きたのだ。和也は意外と根に持つタイプなのかもしれないので、僕は何も言えない。
「なずとは俺の味方してくれると思ってたんだけどな……」
悲しそうな声の和也に少し心が痛む。落ち込む和也になんて声を掛ければ良いのか、僕はおろおろする。
「ふふふっ、はははっ。なずとはやっぱり面白いな」
和也の変わりように僕は一瞬惚けてしまう。それが面白かったのが和也は腹を抱えて笑い出した。
「俺がそんなことで落ち込むわけないだろう」
「……海、空、もう一度協力してくれる?」
「ああ。いいぜ面白そうだからな」
「もちろん。和也をこらしめようね」
この後に待ち受ける未来を察したのか、和也は顔を青くした。
ーー
夕暮れが近づく頃、僕達は海と空に別れを告げ祖母の家へと帰った。塩臭さをお風呂で落としてから、夕飯を食べる。魚の天ぷらや塩焼きといった数々の魚料理はどれも美味しくて、僕達は舌鼓を打った。
夕飯を食べ終え寛いでいると、和也が声を掛けた来た。
「なあ、なずと」
「なに?」
「明日帰ってしまうのか?」
「……うん」
僕が答えると和也からの返事がない。静寂が訪れ外からの虫の鳴き声が甲高く聞こえる。どうしていいのかわからず、僕は和也の声を待ち続ける。ーーそれから何分経ったのだろうか、和也が小さく呟く。
「また、会えるよな?」
その声はいつもの陽気な和也とは違い、弱弱しく震えていた。その声に僕の感情は揺さぶられる。消して長い間ではないけど、和也は僕にとっての大切な友達だ。僕は必ずまた和也に会いに行く。そう心の中で決める。
「うん、必ず会いに来るよ」
「そうか。楽しみにまっとく!」
「うん」
和也は安心したのか布団に潜り目を瞑った。すぐに寝息が聞こえてくるので、和也が眠ったのはわかった。和也の寝顔を見ながらこの日々の事を思い出す。
ずっとこの日々が続いていたらいいのに。そう思ってしまうと、悲しくて涙が出てくる。こんな姿和也に魅せられないな。僕は涙を抑え込むように目を閉じ布団に潜った。
ーー
朝目を開けるとすでに和也の姿はなかった。どこかにいるだろうと探してみるが、姿が見えない。
「ねえ、お祖母ちゃん。和也しらない?」
「和也ならなんやら用事があるからと言って家に帰っていったよ」
「そうなんだ」
少し寂しいが和也が訳もなく家に帰った訳ではないと思う。フェリーの時間は伝えているのできっと来てくれるはずだ。僕はそう思い、祖母が作ってくれた朝食に有りついた。
「じゃあ、お祖母ちゃんまた来るよ。楽しかったよありがとう」
「そうかい、それはよかったよ。いつでも来てから良いんだからね」
「うん」
僕は叔母に挨拶をして家を出た。
もうこの島とお別れか……。坂上から見える海の景色を眺めながら、フェリー乗り場へと向かった。
乗り場に着くとそこには和也と双子達が待っていた。和也は来てくれると思っていたが、双子の兄弟が来てくれるとは思ってなかった。心の声が漏れていたのか、海が僕の顔を見つめる。
「今ぜったい俺たちが来たことに驚いていただろ!」
「え。そうなの?一緒に釣りした仲なのになぁー残念だな悲しいよ」
「そ、そういう分けじゃないよ」
訝しげに視線を向ける海と悲しげな顔をする空に僕は慌てて弁解する。それが面白かったのか、双子は同じように笑い出す。
「「ははっはあはああっ……」」
「やっぱりなずとは面白いね」
「そうだな。和也が好いているだけあるな」
少し焦ったがどうやらからかっていたがけなのか。僕は安堵のため息を吐いていると、和也が僕の前に割って入ってくる。
「あんまりなずとを虐めるなよ」
「えー和也だっていじってるじゃん」
「そうだ、そうだ!」
双子は同じように顔を膨らませえて和也に抗議している。そんなことをしているうちに帰りのフェリーが見えて来た。
「なあ、なずとこれ受けっとってくれ」
和也に差し出された虫籠には一匹のカブトムシが入っていた。
「ねえ、このカブトムシどうしたの?」
「ああ、俺が育ててた奴なんだけど……なずとに渡したくて。前取りに行った奴は全部逃がしたからな」
「ありがとう。絶対に大事にするね」
「じゃあ……もう時間だから……。僕はもう行くね」
「……ああ」
僕は悲しさを覚えながらフェリーに乗る。和也達の姿を見る為、直ぐに甲板へと向かう。甲板に出て和也達に目を向けると手を振っていた。
「絶対遊びに来いよーー!約束だからなーー!」
「そうだぞー俺たちも待ってるからなー」
「待ってるよー」
和也と双子の海と空の言葉に、僕の目は潤む。僕は息を大きく吸い込んで和也達に聞こえるよう声を上げる。
「うん。和也、海、空。一緒に遊んでくれてありがとう!絶対また来るから!」
「一生の別れじゃないんだから泣くなよなずとーー!」
「何言ってんだよ和也だって目潤ませてるくせに」
「ほんとだよね」
「な、ないてないし」
和也たちの声に僕は笑った。
最後まで読んでくださった方ありがとうございます。
最後は少し展開が早すぎると思っているんですけど、これ以上伸ばすと何時になっても投稿できないと思ったので……投稿させてもらいました。本来は夏に出す予定だったのに…いや、まだ暑いから夏なはず……。