81 迷宮街とその主
迷宮街が出来上がった事で、探索そのものは活発になっていく。
だが、ヨシユキは逆に身動きがとれなくなっていく。
迷宮街を担ってる様々な職の者達。
そのほとんどがヨシユキの旅団に所属している。
当然、その主はヨシユキとなる。
そんなつもりはなかったのだが、自然と街の主も担うことになっていく。
仕事自体はそれほど大変ではない。
旅団にいる様々な職の者達がやるべきことをしてくれるからだ。
ヨシユキはそれらから報告を受けるだけで良い。
実際、承認や認可、決裁の判子を押すだけが仕事になっている。
一応、書き込まれてることに目を通すが。
問題などほとんどないから、読む必要があるのかどうか悩ましい程だった。
そんなわけで、旅団と街の主としての仕事はほとんどない。
迷宮の奥に進んでそこで怪物を相手にすることがほとんどになる。
数日ほどそうして怪物を相手にして、街に戻って一日ほど判子を押す。
これがここ最近のヨシユキの日課になっていた。
ただ、ヨシユキとしては、出来るだけ怪物と戦いたい。
怪物をたおして魔力結晶を手に入れたい。
それを使ってレベルを上げたいと考えていた。
ヨシユキが迷宮に挑んでるのは、再び奥地に挑むためだ。
そこに何があるのか、自分の目で確かめるためだ。
それなのに、なかなか迷宮探索に本腰がいれられない。
判子作業は一日ではあるのだが。
他の日も旅団がどうなってるのか、街は大丈夫なのかと心配してしまう。
今ひとつ迷宮探索に身が入らないのだ。
危険なことだ。
意識が他のことに分散してる。
別のことを考えている。
その分、目の前の出来事についておろそかになってしまう。
まだレベル差のある所で活動してるから良い。
推奨レベルが自分より下の所にいるからなんとかなっている。
だが、それでも油断は怖い。
どれほどレベルが高くても、死ぬときは死ぬ。
それも、たいていはつまらないシクジリがきっかけになる。
だからこそ、ヨシユキは怖いと思っていた。
迷宮探索だけを考えられれば良いのだが。
そうも言ってられないのが現状だ。
考えねばならない事が多い。
それが迷宮探索の、怪物との戦闘に悪影響を与えないか心配だった。
その逆もだ。
迷宮街の運営。
そのほとんどには手を付けないで良い。
上がってきた書類に目を通すだけ。
しかし、それで果たして良いのか。
本当に上手く運営されてるのか。
どこかで問題が発生してるんじゃないのか。
それが心配だった。
ならば、どちらかに集中するべきだろう。
片方が気になって、今やってる事が疎かになるならば。
しかし、それもままならない。
戦闘において、ヨシユキはいまだに最強戦力だ。
退くわけにはいかない。
とはいえ、旅団と迷宮街の主としての責任から逃れるわけにもいかない。
「面倒な事になったな」
ぼやきが途切れる事無く漏れていく。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を