75 古巣の者達は思う
ヨシユキが様々な行動に出てる事。
古巣の者達にもその動きは伝わっていく。
隠してるわけでもなんでもないのだ。
彼らもその話は耳にする。
「本当に来るかな?」
斥候のユキナはどうなるんだろうと思っていた。
本当に迷宮の奥を目指すのかと。
来て欲しいとは思うが。
ヨシユキの能力では難しいとは思っていた。
蔑むわけではない。
実力を考えると難しいだろうと思えるからだ。
とはいえ、それが自分たちに比べればというだけなのも分かってる。
レベルだけ見れば、充分に高レベルなのだ。
それが本気を出せば、何かが動くかもとも思っていた。
それは他の者達も同じである。
なので、
「まあ、少し遅れるだろうさ」
「だが、遅れるだけだ」
そう考えるものばかりである。
「むしろ、追い上げてくるんじゃないのか?
あいつならな」
前衛を任されるタクマは幾分楽観していた。
「あいつならやるだろうよ」
根拠は無い。
だが、ヨシユキの事を考えると自然とそう思えてくる。
「抜け目のない奴だからな」
同じく前衛を担うヒロシも追従する。
「危ないところをしっかりふさいでくる。
そういう奴だし」
過去の探索において、ヨシユキは足りない所を全て補ってきた。
足りないものを常に満たしてきた。
それが出来る人間だった。
「大きな成功はない。
けど、絶対に失敗しない」
魔術師のシンヤも同調する。
絶対に失敗しない。
つまり、最低でも現状維持。
今までより下がる事はない。
その上で成功を積み重ねる。
だから、大成功は無い。
大きな躍進は無い。
だが、小さいものから大きなものまで。
様々な成功を積み重ねていく。
そんな状況を作るのがヨシユキだった。
「必ず奥までくる」
シンヤはそう確信していた。
「それは、どうかな」
懐疑的な声も上がる。
「いずれ来るにしても、だいぶ先だろ」
「それまでには、私たちが攻略してるかもね」
ヒロシとユキナが少々懐疑的に言う。
だが、ヨシユキが失敗するとは思ってない。
遅かれ早かれ追い上げてくるとは思ってる。
ただ、それより先に自分たちが攻略すると考えてるだけだ。
「でも、来たら面白いな」
タクマが二人の話にのっかるように続ける。
「また一緒に活動出来るかもしれない」
「いや、それはどうかな」
そうなればいいけど、と思いながらタケヒトが首を横にふる。
「あいつも自分で動き出してるんだ。
競争相手になりそうだよ」
「それもそうか」
タクマはあっさりと納得する。
「でも、楽しくなりそう」
話を聞いていた治療師のホナミが嬉しそうに言う。
「どんな形でも、また迷宮に挑んでるんだから」
「そうだな」
「ああ」
他の者達も頷いていく。
仲間ではなくなった。
でも、ヨシユキは同じ迷宮にいる。
それが嬉しかった。
一緒に、とはいかなくてもだ。
「でも、負けるわけにはいかないからな」
「もちろんだ」
「当たり前でしょ」
「うかうかしてられん」
誰もが気を引き締める。
彼らも迷宮探索者だ。
生活の為に迷宮に潜ってる。
だが、それ以上に迷宮の奥に行きたいと思ってる。
攻略するために、そこに何があるのか確かめるために。
他の誰よりも早くそれを目にするために。
「そういうわけで、今日の探索も頑張ろう」
タケヒトの声に全員が頷く。
「ヨシユキには負けない。
俺達が先に迷宮の奥に行くんだ」
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