70 迷宮に挑む理由
迷宮にどうして挑むのか?
その理由の大半は、食っていくためだ。
多くの探索者はそう答えるだろう。
だが、それだけが理由というわけでもない。
迷宮の奥に挑む。
そこがどうなってるのか見たい。
そういう思いを抱いてる者もいる。
生活や損得だけでない、もっと別の理由がある者だ。
純然たる好奇心。
それが理由の者だっている。
もちろん、食っていかねばならない。
レベルを上げるという作業も必要だ。
しかし、それを達成してもなお迷宮の奥へと向かう者はいる。
単に食っていくだけならば、途中で足を止めればいい。
食いぶちを稼いで帰還すればよい。
レベルの成長もほどほどで止めればいい。
なのに、そうしない者達がいる。
「俺達、そうだったはずだろ」
タケヒトはそう言う。
「そうだったな」
「それで村を飛び出してきたからな」
思い出すのはかつての自分たち。
成人になるかならないかという年齢で村を飛び出した。
村にいても展望などなかったからだ。
農家の三男坊や四男坊。
あるいは三女に四女という者達ばかりだった。
そのまま村にいたら、家の手伝いだけで一生を終える。
冷や飯を食いながら。
何の楽しみもないまま。
ただひたすら、家の仕事をこなすだけ。
そうなりたくない。
そう思って村を飛び出した。
同じくらいに、あるいはそれ以上に思っていた事がある。
迷宮はどうなってるのか、その奥に何があるのか。
それを見てみたいと。
その好奇心がヨシユキ達を突き動かしていた。
危険をものともしない程に。
だから迷宮にやってきた。
奥へ奥へと突き進んだ。
安定した稼ぎを捨ててまでレベルを上げて成長を続けた。
「俺はまだそのつもりだ」
タケヒトは語り続ける。
「他の旅団と競争になってるように言われてるけど。
だけど、それが理由じゃない。
他の旅団に勝ちたいから挑んでるんじゃない」
落ち着いてるが、熱のこもった声で語る。
「見てみたいんだ、迷宮の奥にあるものを」
タケヒトはまだその熱意で動いていた。
他との競争ではない。
ただ自分の目で見てみたい。
それが迷宮探索を続ける原動力になっている。
「お前だってそうだろ」
問われて声を失う。
間違ってるからではない。
本音を言い当てられたからだ。
「そうだな」
ようやく出て来たのはそんな一言だった。
「お前が能力で悩んでるのは知ってるよ」
更にタケヒトは続ける。
「それで俺達から離れたのもな」
「そうだな」
「けど、それはそれでいいじゃないか」
なにが、とヨシユキは思った。
「能力が低いならそれでもいいじゃないか。
お前はお前の速さで歩けばいいんだよ」
その言葉にヨシユキは、体から重いものが抜けていくのを感じた。
「とはいえ」
そこでタケヒトは肩をすくめる。
「こっちも競争相手が増えて大変になるけど」
「まさか」
ヨシユキは笑うしかない。
だが、タケヒトは本気だった。
「それがな、お前が育てた連中が追い上げてきてる」
意外な話だった。
「まだ迷宮の浅いところにいるけど。
それでも少しずつ奥に向かってきてる」
タケヒトが新人教育を始めてからそういう動きが出て来るようになったという。
また、迷宮案内の影響もある。
新人教育で人材の確保が出来るようになった。
今までよりも効率的に行動が出来るようになっている。
加えて、迷宮案内で余裕が出来た者達が、もう少し奥へと向かい始めたとも。
その時にヨシユキが戦い方などを伝えてるのも大きいようだ。
これなら俺達ももっと奥へ行けると思うようになった者が多いらしい。
今までは戦い方もあまり考えずに力押ししてた者が多かった。
それが効率的に動くようになった、損害が減るようになった。
それでいて、怪物には今まで以上に効果的に損害を与えていく。
これならば俺達も行けると考える者も増えてきてるようだった。
「そういう連中を見てるとな、俺達もうかうかしてられないって思うんだよ。
競争してるつもりはなくても」
そういうものなのだろう。
下から上がってくる者達がいれば、何かしら思う事もあるのだろう。
敵対してるわけでも、競争してるわけでもなくてもだ。
「そこにお前も加わってくれ」
そう付け加えてくる。
「考えておくよ」
その場はそう言ってしのいでいく。
しかし、話してるうちに熱がこみ上げてもきた。
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