60 代書人の能力
予想通りというか。
代書人のユリにも予想外の能力が生まれてきた。
彼女の場合は、魔術との併用によるものだ。
体を使う仕事ではないのもあるのか。
ユリの体力は5人の中でも低い方だった。
虚弱や病弱ではないが、戦闘は難しい。
迷宮の中を長時間歩くのも厳しいくらいだ。
それもあって、ユリには魔術をおぼえるようにすすめていた。
体力はないが頭は良いユリである。
魔術をおぼえるのに適している。
多くの魔術をおぼえるには、頭の良さや記憶力が必要になるからだ。
尤も、魔力は平凡なものなので、威力はそう高くはならないが。
正直、これが最適だからという理由で魔術を進めたのではない。
他に適したものが無かったのだ。
数ある選択肢から厳選したのではない。
消去法で残ったのが魔術を身につける事だった。
なのだが、これが思ってもみなかった効果を引き出していく。
代書人によって魔術の詠唱や魔術式を書き出す。
そうする事で、魔術をあらかじめ込めておく事が出来た。
これがとんでもない汎用性をもたらした。
まず、魔術を書いた紙。
これを持っていれば、誰でも魔術を使えるようになる。
魔術を全く使えないものでもだ。
また、普通なら出来ない魔術の同時使用。
これが簡単に出来てしまう。
魔術を書き出した紙を同時に用いる事で。
しかも、一番の利点は詠唱などが必要ないこと。
即座に魔術を発動する事が出来る。
この利点ははかりしれないほど大きい。
探索や戦い方の幅が広がる。
代書人の能力が魔術の可能性をひろげていった。
気付いたのは、ユリが魔術をおぼえた時。
代書人の能力で、こういった事が出来ると分かった。
紙に魔術に必要な事を記載すれば良いのだ。
魔力を流し込みながら。
そうすれば、紙に魔術が宿り、使いたいときに使えるようになる。
当然ながら万能ではない。
まず、事前に用意しないと使えない。
一度書き込んだ魔術は変更できない。
なので、書き込んだ紙がなくなればそこで終わりだ。
また、一度使うと文字が消える。
魔術を発動させるのに必要な魔力もなくなる。
紙は残るが、再び使うなら紙に書いておかねばならない。
ユリがおぼえた魔術でないと書き込めないというのもある。
当たり前だが、ユリの知らない魔術は書き込むことが出来ない。
また、書かねばならないので、紙の大きさなどによって限界が発生する。
紙に書き込めないほど長い呪文や魔術式は使えない。
何枚かに分割する事も出来るが、手間がかかりすぎる。
なので、高度な魔術を使うのは難しいと考えられる。
何より、迷宮の中で書かねば効果がない。
他の能力と同じく、最も効果を発揮するのは迷宮だ。
魔術の力を込めた書き込みも、迷宮でやらねば効果を発揮しない。
利点もあるが、欠点もやはりある。
どうしても使い方次第という事になる。
それでも便利な能力なのは確かだった。
新たに見つかった二人の能力。
これらを上手く使えないかとヨシユキは考えていった。
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