5 使わない装備品の保管も考えなくてはならなくなった
その日は面談だけで終わってしまった。
話を聞きつけた旅団が押し寄せてきたのだ。
登録所に頼んで貸してもらった部屋を丸一日使う事になった。
それでもまだ幾つかの旅団が面談待ちで残っていた。
「どうなってんだ……」
まさかここまでやってくるとは思わず。
面談が終わった部屋で、暫く呆然としてしまう。
それだけ人気があるという事なのは分かるのだが。
ヨシユキからすれば意外というしかない。
ただ、いつまでも登録所にいるわけにもいかない。
今日から使ってる宿へと向かう。
もう旅団で使っていた館は使えないのが少しもの悲しい。
だが、これが独り立ちするという事だと自分に言い聞かせる。
「頑張らないと」
仲間はもういない。
これからは自分で色々やらねばならないのだと。
翌日は迷宮に入る事になる。
その準備をしていく。
とはいえ、それほど大がかりな事をする必要は無い。
武器や防具、その他道具は既に準備してある。
必要なのは消耗品の補充くらい。
それも、今すぐ必要というわけではない。
「潜る前に発注かけておくか」
足りないものを書き出しておく。
明日の朝に道具屋などに注文を出すために。
これで準備はほぼ終わりとなる。
装備品の状態も確かめておく。
もしかしたら壊れてるかもしれないからだ。
なのだが、これも念のためにやってるだけ。
そう簡単に壊れるような装備ではない。
それなりに良い素材を使ってる。
作った職人の腕も相当なものだ。
ただ、そこまで考えて気付く。
「これからは、これも使えないかも」
製作もそうだが、維持費にも金と手間のかかるシロモノだ。
これから収入が確実に減る事を考えると、今までの装備を保てるかどうか悩ましい。
「普段使いの装備も用意しておいた方がいいな」
あえて質の落ちる装備を購入する。
その分、探索における危険度はあがる。
だが、補修・修繕も出来ないものを持っていても仕方が無い。
可能な限り強力な装備は揃えておきたいが。
扱えないほど手間のかかる道具ももてあます。
「色々と考えていかないといけないか……」
上位の旅団にいた事のありがたさを感じた。
仲間のおかげで、装備も良いものにできていた。
それももう終わってしまった。
自分の手で終わらせてしまった。
「…………しょうがないか」
やむない事と割り切っていく事にする。
なかなか難しいが。
そうなると、今まで使っていた装備をどうするかを考えねばならない。
宿においてたら盗まれる可能性もある。
宿の人間がやらなくても、盗人が入り込む可能性はある。
さすがに紛失するわけにもいかないので、保管方法を考えていく。
たんに喪失するだけなら良い。
しかし、それなりに良い装備だ。
初心者が使っても、中級の怪物をたおせるだけの性能がある。
それが悪人悪党の手に渡ったら最悪の事態になる。
「しょうがない」
あれこれ考えて、ヨシユキはとある所をたよる事にした。
不本意ではあるが。
「…………というわけなんだ」
翌朝。
起きてすぐに相談に出かけた。
古巣の旅団に。
出て来た者達は唖然としてヨシユキを迎える。
「だから、装備を預かってほしい。
保管料は払うから」
そう言って早くも頼ってしまった古巣の者達に頭を下げた。
旅団は独自に備品の保管庫を持ってる。
下手にどこかに預けられないような高価なものは、自分たちで守ってる。
特に強力な武器防具は。
下手に他人に頼れない。
なにより、自分たちの身の回りに置いておく必要がある。
これは現代日本における銃器の保有に似ている。
強力なものだからこそ、厳重に保管しなくてはならない。
ヨシユキはその保管庫を頼る事にした。
我ながら情けないと思うが。
いつか自分で保管庫を手に入れるまで、と自分に言い聞かせていく。
「まあ、それくらいなら」
とタケヒト達は快く引き受けてくれた。
「なんなら、今すぐ復帰してくれてもいいぞ」
「いや、さすがにね」
まだ、脱退して一日である。
こんな短期間で戻るわけにもいかない。
「とりあえず、保管だけお願い」
「わかったよ、しょうがないな」
装備と一緒に戻ってきてくれればいいのに、という愚痴がタケヒトからこぼれる。
「で、保管料なんだけど」
「いや、そんなのいらないって」
タケヒトは断ろうとする。
しかし、ヨシユキは首を横にふった。
「もう俺は脱退した人間だ。
外部の人間だ。
頼むのなら、それなりの対価を支払わないと」
それが金であれ労働力であれ。
それ以外の何かであれ。
他人に何かを要求してるのだ。
対価を支払わないというわけにはいかない。
「そうだな」
それをタケヒト達も理解し、保管料を受け取る事にした。
「値段は相場でいいかな?
そうしてくれると助かる」
「分かった、相場で引き受けるよ」
こうして今まで使っていたものの保管場所を確保出来た。
あとは、これから使う装備品を手に入れるだけ。
「当分はこれを使う事になるな」
明らかに過剰な装備である。
これから潜る予定地では、必要以上に強力なものとなってしまう。
「まあ、足りないよりはいいか……」
そう思いはするが、どうしてももったいないと感じてしまう。
おかげでヨシユキは、消耗品の他に装備品の発注もする事となった。
さすがに特注品である必要は無いので、既製品を注文する。
それでも採寸などが必要なので、戻ってきたら武器防具の店に出向く事になった。
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