48 サクラに出来ること
「虫ならば薬草を使って撃退、倒す事が出来るかもしれない」
サクラの提案内容がこれだった。
薬草の中には特殊な用途のものがある。
そのひとつが虫除けだ。
タンスに入れて衣服を虫から守る時などに使う。
焚いた煙で虫を殺せるものもある。
今回使ったのが、この殺虫用途の薬草だ。
その性質上、毒草と言った方が正解かもしれない。
これを使って迷宮内の巨大虫を倒せないか。
迷宮を巡ってる間、サクラはそう考えたという。
ただ、通常の虫よりもはるかに巨大なのが迷宮内にいるものたち。
それに果たして効果があるのかと疑問だったという。
しかし、レベルが上がってある事が出来るようになってるのに気付いた。
薬草の能力を増幅させる力だ。
魔力を薬草にまとわせれば、その効果を大きくする事ができる。
この効果を利用して、殺虫効果の毒草を使えば、巨大な虫でも倒せるかもしれない。
そう考えたサクラは、一度は試してみようと提案をした。
やってみた事がないので、本当に効くのか分からなかったが。
ヨシユキは面白いと思って、サクラの提案を受け入れた。
本当に効果があるなら、今後の迷宮探索も楽になる。
それに、サクラの能力を試す良い機会でもあった。
薬草師の能力は非常に限定的になる。
その能力を拡大出来るかもしれないのだ。
試して確かめる価値があった。
「でも、もし効果がなければ、怪物が襲ってくるかもしれませんよ」
サクラの不安や懸念はここにあった。
効果があればいい、怪物をたおす事が出来る。
でも、もし上手くいかなかったら、そのまま戦闘になる。
ヨシユキに、ツバキ・アヤメに迷惑になりかねない。
なので、本当にやってよいのかサクラには躊躇いがあった。
「別に気にしなくていいよ」
ヨシユキは笑って応じた。
「駄目だったとしても、俺がいるし。
あの虫くらいなら、簡単に倒せるから」
それに、ツバキとアヤメも決して無能では無い。
既に示してる通り、巨大虫くらいなら簡単に倒してくれる。
「だから、遠慮するな。
むしろ、今だからこそ試してみよう」
奥に進めば試している余裕もなくなる。
ならば、まだ安全な場所で試した方が良い。
それで効果があるかどうかが分かれば、今後に役立てる事ができる。
ぶっつけ本番でやるよりは良い。
そして、その効果は絶大だった。
より強力な怪物相手に通用するかは分からないが。
入り口近くに出るような弱いものなら撃退出来る。
一気に殺せなくても、行動不能にさせる事が出来る。
安全に倒せるようになる。
「これなら、戦う必要もなくなるな」
危険を避けられるのはありがたい。
そう思ったのだが、サクラが申し訳なさそうな顔をする。
「いえ、それがですね」
「どうした?」
「殺虫効果のある薬草は、なかなか手に入らないんです」
これが殺虫用の薬草の問題だった。
それほど広く栽培されてない。
なのでまとまった数を手に入れるのが難しい。
「今はまだ手元にありますけど、もう一度手に入れるとなると……」
「すぐには無理なのか?」
「来年の収穫までまたないといけません」
「そうか」
残念だが、それなら諦めるしかない。
「そう簡単にはいかないか」
色々と制限はあるのは残念だ。
あくまで薬草や毒草の効果をあげるだけなのだから。
元になるものがないと何もできない。
それでも、大きな発見である。
魔術による攻撃と似たような事が出来るのだ。
戦力としてはとてつもなく大きい。
他にも薬草を揃えておけば、様々な事が出来る。
それに確かめてはいないが、治療効果の方も高める事が出来るかもしれない。
「そのあたりはまだ分からないか」
「そうですね。
怪我してる人とか、病気の人がいないと確かめられないですから」
さすがにそう簡単にはいかない。
しかも、はっきりした効果は迷宮でしか確かめられないのだ。
わざわざそういった者を迷宮につれてくるわけにもいかない。
「でも、もし応用できるなら、他の怪物にも効くような攻撃が出来るのかな」
「やりようによってはいけると思います。
致命的な毒になる草とかもありますから」
「上手く使えば、戦いが楽になるな」
扱いに気をつけねばならない。
だが、使いこなせば大きな戦力になりそうだった。
「あと、事前に食べておけば良い効果が得られる薬草とかあるかな?
病気の予防とかになるようなのとか」
「ありますね、そういうのも」
サクラはあっさりと頷く。
「滋養強壮の効果があるものを食べれば、健康でいられますから」
「なるほど、それなら病気になりにくいか」
当たり前といえば当たり前だ。
だが、そういう効果のあるものを事前に取り込んでおく事で、迷宮内での不慮に対処出来るようになるかもしれない。
サクラによって強化されてる薬草である事が前提だが。
「だったら、それを探索を始める前に用意してくれないかな。
病気や毒とかの状態異常に、ある程度抵抗力があるとありがたいから」
出来るならばそうした事もしておきたかった。
どれだけ効果があるか分からないが。
もしかしたら、気休めにしかならないかもしれない。
それでもかまわない。
気休めでも、無いよりはよっぽど良い。
「そういう事なら、頑張ってみます」
そう言うとサクラは思案顔になっていく。
色々と考えてるのだろう。
その結果が良いものになって欲しいとヨシユキは思った。
ツバキとアヤメも。
「それじゃ、今日もこのあたりの怪物をたおしてみてくれ。
今日はサクラの能力を確かめながらやっていこう。
やり方は……そうだな……」
そこでヨシユキは考えていく。
サクラの能力を確かめながらやっていく方法を。
出来るだけ効果的に、可能な限り大きな成果を得られるように。
「さて、どうすっかな」
悩んでしまうが、こういう事を考えるのは楽しかった。
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