41 肩慣らしの戦闘
「それじゃ、あいつと」
そう言って見つけた怪物を指す。
そこには迷宮で最弱といわれる虫型の怪物がいる。
姿形は巨大なダンゴムシ、もしくはワラジムシ。
全長30センチから50センチほどと巨大なのが怪物らしい。
平べったく、多数の足で動く。
耐久力も攻撃力も低く、動きもそれほど速くは無い。
初心者の戦闘訓練にはもってこいだ。
まずは手慣らし。
訓練にならないほど弱い怪物だが、戦いにならすには最適だ。
繁殖力が大きいのか数もそれなりにいるのも良い。
陣形などを少しばかり考慮する事になるからだ。
今回は5匹ほどで群がってるのを見つけた。
3人で戦うのには好都合。
教えた事を思い出してもらいながら戦わせてみた。
まずはツバキから。
祝歌を歌っていく。
支援魔術の効果のある歌で、3人の能力が上昇する。
効果は微々たるものだが、今の3人には必要なものだ。
小さくても効果があるなら、その分だけ生き残る可能性が高まる。
それを聞いてからサクラが動く。
手にした投石器で石を放っていく。
飛んでいく石は巨大虫にあたり、軽く凹ませていく。
動きがその分鈍くなる。
続けて二発目、三発目。
近づいて来る2匹の巨大虫に当たる。
死にはしないが足が止まる。
並んでいた2匹が更に接近してくる。
さすがに投石器は使えない。
石を投げる前に巨大虫が接触する。
武器を持ち替えて白兵戦に備えていく。
その前にアヤメが前に出る。
手にした剣で虫に切りつける。
下段に構えて、下からすくい上げるように。
上から切り下ろすと、そのまま床を切りつける。
刃こぼれや損壊を起こす可能性がある。
地面すれすれの虫には、下からの切り上げの方が効果的だ。
攻撃は簡単に当たる。
基本的に直進しか出来ないのが巨大虫だ。
右や左に方向転換するのは苦手としている。
進んでくる方向から切りつければ、たいていは当たる。
それで接近する巨大虫を切り裂く。
剣舞の要領で軽やかに振り上げる。
滑らかな動きは、たやすく巨大虫を真っ二つにした。
その動きも以前に比べれば素早く的確なものになってるように見えた。
そうして、まずは1匹。
切り裂いてから次に向かう。
並んで接近してきたものではなく、その後から近づいてくるものに。
一緒に迫ってきたもう1匹は追わない。
それは、後ろに控えてる2人に任せればよい。
下手に追いかけると、後ろからやってくる2匹が疎かになるからだ。
アヤメを通り越した1匹にはツバキが向かう。
手にした棍棒を上から振り下ろす。
通常の棍棒よりも細いそれは、まさしく野球バットのような形をしている。
重さがないから軽く、威力は落ちる。
しかし、非力な女子でも簡単に振り回せる。
頭上から叩き降ろせば、巨大虫くらいは潰すことが出来る。
ぐしゃ、と嫌な音をたてて巨大虫が潰れる。
その姿と、手から伝わる感触に、ツバキが顔をしかめる。
「うええ……」
やらなければならない事だが、気持ちのよいものではない。
しかし、これが仕事なのだ。
やるしかない、と自分に言い聞かせていく。
その間にサクラは、後ろから迫っていたもう1匹に向かう。
先ほど石をぶつけたうちの1匹だ。
動きが鈍ってるので狙いやすい。
ツバキと同様に、野球バット状の棍棒を振り上げて打ち下ろす。
これまた嫌な音と感触をサクラに伝えてきた。
「うわあ……」
一撃で倒せたのは良いが、この感触には慣れそうもない。
そしてアヤメは、残った2匹を次々に切っていく。
動きが鈍っていたので最初の1匹よりもやりやすかった。
それでも、あまり良い気分ではなかった。
虫を切った時の感触が手に伝わってくる。
打撃武器ほどではないが、肉を切り裂くのはあまり面白い感触ではない。
「料理で肉を切るのは気にならないんだけどなあ」
似てるようで微妙に違う感触に、なんとも言えない嫌な感覚をおぼえた。
とはいえ、5匹の怪物はたおした。
以前に比べれば手早く簡単に。
攻撃の順番、それぞれの役目も上手く分担出来た。
事前に練習した通りに動くことが出来た。
「よくやった」
ヨシユキも素直に褒めていく。
「ちゃんと動けていたぞ」
「はい!」
「うん!」
「だよね!」
元気の良い声があがっていった。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を