3 離脱を届け出る
翌日。
探索者登録所にヨシユキと仲間達は向かった。
登録情報からヨシユキを抜くために。
これでヨシユキは完全に独り立ち。
旅団と無関係になる。
「なあ」
そんな登録所の中。
受付窓口の前でタケヒトは最後まで食い下がる。
「もう一度考えてみないか?
あと一晩くらい熟考してもいいんじゃないか?」
「もう何度も考えたよ」
「でもなあ……」
未練たらたらでタケヒトはすがりつく。
「昨日言っただろ、『止めやしない』って」
「いや、やっぱり止める
男だけど何度でも二言を言う」
「おいおい…………」
さすがに笑うしかない。
「そこまで大事にされるほど大した事はしてないと思うんだけど」
「そうかもしれないけどな。
それでも今まで一緒にやってきたんだぞ。
何の問題もないのに分かれるなんてあるかよ」
「そうかもしれないけどさ」
タケヒトはどうしても及び腰だ。
とはいえ、ヨシユキも腹をくくってる。
この先の不安はあるが、今更撤回するつもりはない。
「さっさと提出しようぜ」
「ええ…………」
「文句言うな」
抜けていく側が抜けられる側を引きずっていく。
その逆は珍しくもないが、こういう状況はまれなものではあるだろう。
受付の者もさすがに驚いた。
「離脱ですか?!」
「ああ」
「なんで?
そんなに仲が悪いようにも見えなかったんですけど」
「うん、たぶん仲は悪くない。
ただ、俺が力不足でついていけないってだけで」
「はあ…………、そういう事もあるんですね」
受付からすれば、納得しがたない事のようだった。
「では、処理を始めますので、少々お待ちください」
「ああ、お願い。
こいつが馬鹿な事をやる前に」
そういうタケヒトを羽交い締めにしながら言う。
この後に及んでタケヒトは、提出した書類を取り戻そうと必死になっている。
「待ってくれ…………それは…………間違って……だした……んだ」
「嘘をつくな」
体と口を押さえてヨシユキは窓口から離れていく。
この場にいた者達は、その姿を驚き呆れながら見ていた。
そして無事にヨシユキの脱退は受理された。
タケヒトは昨夜以上に呆然としていた。
手にした受理票を見ながら。
「どうしてこうなった…………」
何度もそんな事を呟く。
その様子を周りの者達は怪訝そうな顔で見ていた。
うろんな者を見るように。
迷宮探索の上位争いをしてる旅団の団長が呆然としてるのだ。
何事かと思うのが普通だろう。
「なあ、もういい加減に受け入れろ」
「…………」
「ここに突っ立ってる場合でもないだろ。
次の探索に向けての準備もあるんだから」
ヨシユキはそう言って促そうとする。
さすがにタケヒトももうどうにもならないと受け入れていく。
認めたくはないが、ここでこれ以上踏みとどまっていてもどうにもならない。
「いつでも戻ってこい。
遠慮はするなよ」
そう言って別々の道を行く仲間に言葉をかける。
「そうならないように頑張るよ。
さすがに、すぐに出戻るのは恥ずかしいし」
「いいや、遠慮はいらん。
なんなら、今すぐにでも」
そう言ってタケヒトは呼び戻そうとする。
「あのな」
「そうだ!
なあ、うちの旅団、今欠員が出てるんだ。
だから、その穴埋めをしてくれないか?」
「抜けた直後に勧誘するな」
呆れるしかない。
だが、さすがにそれ以上は何も言わなくなった。
盛大なため息は吐いたが。
「まあ、しょうがない。
でも、また一緒にやれる日を楽しみにしてる」
「ああ、そうなればいいけど」
「じゃあ、頑張れよ。
俺らも頑張らないといけないけど。
抜けた穴がでかすぎてな」
「だったらいいんだけど」
それだけ大きな存在だったらありがたい事だった。
「でも、お前なら食うに困る事はないさ」
「まあ、そこそこ出来るからな」
うぬぼれでも何でもなく、ヨシユキの腕なら食うに困る事は無い。
単独で迷宮に入っても、ある程度強力な敵を倒す事も出来る。
それだけの実力は備えてるのだ。
仲間に比べて劣るだけで、実力はある。
「ほら、もうお誘いが来てるぞ」
タケヒトが言うように、周りにいた者達がヨシユキに近づいていく。
「なあ、辞めたのか?」
「本当に?」
「なら、うちに来ないか?」
「いや、うちに!」
「俺の旅団に来てくれ」
「団長には俺から話しておく。
だから、とりあえず俺と一緒に旅団事務所に!」
どこからわいてきたのか、勧誘をしてくる者達がヨシユキに群がった。
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