18 絶対に排除するべき人間
どうしても駄目な人間というのがいる。
才能や能力が足りないというのもそうだが。
人間として大事な事が欠けてる者というのがいる。
それは一目見ただけで感じ取れる事もある。
長く接してないと判明しないものもある。
だが、どうしても駄目な人間というのは確かにいる。
新人研修と引率。
それを通してヨシユキは人柄も見ていた。
ヨシユキはこれを重視していた。
それは古巣の者達も同じだった。
これが最も重要とすら言うほどに。
一見、迷宮探索では不要と思われる要素だ。
それよりも、戦闘力や生存能力など。
迷宮探索に必要な知識と技術などが優先される。
そう考えられている。
だが、ヨシユキ達はそう考えなかった。
「そりの合わない奴と一緒にいても辛いだけ」
同じ村から出て来たヨシユキ達はそう考えていた。
せまい村の中にも嫌な奴はいる。
自分があくどい事をしてるという自覚の無い人間だ。
人を傷つける事を当たり前と思って実行する。
そういう者とは一緒にいられない。
「気の合う奴とだけ行動しようぜ」
村から出て来たヨシユキ達の、これが最初に決めた事だった。
以来、これを遵守してやってきた。
墨守と言ってもよい。
愚直にこれを貫いてきた。
ひたすら気の合う人間と一緒に行動してきた。
その結果、上手くいった。
仲間内のいざこざなんかなかった。
他の旅団が内部にもめ事を抱えていたのと対照的に。
迷宮探索の為に探索者が集まって作る旅団。
その内紛は探索に大きく影響する。
問題を抱えたままであれば、必ずそれが事件になる。
たいていそれは、最悪の瞬間に起こる。
そうなって欲しくないという、最悪の事態を引き起こす。
ヨシユキ達はそれをいくつも見てきた。
話に聞くと、そのほとんどが仲の悪さによるものだった。
能力や才能に素質。
知識に技術。
これらはほとんど関係がない。
元々かかえていた、旅団内部のいざこざ。
人間同士のもめ事。
それが表面化しただけである。
迷宮の中で。
そして、原因を作ってるのは、たいてい問題を起こす性質を持った人間だ。
傲慢さや自分勝手さ、自己中心性。
それらによって周りは不満を抱えていた。
それでも追放されなかったのは、能力があったからだという。
もしくは、旅団長の優柔不断さだ。
かわいそうだから追放できない。
こんな戯言のせいで、旅団内部に不満がつのっていく。
その結果、我慢の限界に達した者が行動を起こす。
そもそも、何が問題かも分かってない場合もあった。
問題を起こしてる人間がいるといっても、「あいつはそんな奴じゃない」と取り合わない。
本当に分かってないのだろう。
何が悪いのかが。
何が問題なのかが。
むしろ、問題を起こす者をかばう。
波長が合うというか、気が合うというか。
問題児を問題児と思わない、むしろ好人物と勘違いしてる事がほとんどだった。
そんなものだから、旅団長からの贔屓もある。
何かと優遇される。
迷宮探索で成果をあげてるのだから余計にだ。
そして、他の者達に「こいつのように頑張れ」とほざく。
それが余計に怒りに火を付ける。
復讐や報復を決意する者が出て来るのも当然だ。
ただ、腐っても鯛というべきか。
素質も才能もある者だ。
人間性は最悪でも、戦闘能力などは高い。
簡単には殺せない。
だから、強力な怪物との戦闘中に事を起こす。
たまった鬱憤を晴らすために、一番危険な状態で復讐をはじめる。
怪物との戦闘でギリギリの戦いを強いられてる最中に。
旅団が潰滅する理由の大半はこれだった。
潰滅の場に遭遇した事はないが、話を聞くとそういった事情が見えてくる。
探索者同士で接点のある所もあった。
なので、問題を抱えた旅団の空気の悪さを肌で感じた事もある。
原因になった者にも何度か接した事がある。
確かにこいつとはやっていけないと思わせるものがあった。
慇懃無礼というのだろうか。
どれほど礼儀作法をわきまえていようと、常に嫌みっぽく感じる。
相手への尊重や敬意が感じられない。
丁寧な物言いであっても、自分がどれだけ凄いのかを誇示しようとするところが見える。
相手を見下す素振りが見えた。
ヨシユキ達は「嫌な奴だな」と同じ感想を抱いた。
なので、そういう奴とは接点をもたないようにした。
そういう人間がいる旅団とも。
それが当たったのかどうか。
そういう人間がいる旅団は、たいてい潰れていった。
迷宮の中で潰滅するのは当然として。
離脱者を大量に出して分裂する事もあった。
そこまでいかなくても、多くの人間を追放する事もある。
実際にそういった場面を見てきたから断言出来る。
気の合わない人間と一緒にいてはいけないと。
問題をおこす輩を決して赦してはいけないと。
出来るなら事前に排除しておかねばならないと。
それをあらかじめ見繕っていく。
他の旅団に決して紹介しないように。
事前に警告を出しておくために。
新人達にも、「あいつには近づくな」と伝えていく。
既に仲間にしていた者達にも、念のために警告はしていく。
ヨシユキが主催してる新人研修にも呼ばないようにしていく。
縁のない者達はそういう者を敬遠していくようになる。
実際、「何か嫌な感じがする」という者もいる。
そういった者達には「それが正常な感覚だ」といっていく。
その判断は間違ってないと保証してやる。
しかし、既に仲間にしてる者達はなかなかそうもいかない。
やはり情があるというか、むやみに捨てられないというか。
仲間意識が芽生えてどうしても切り捨てられないのだ。
問題を起こす者達の狡猾なところは、こういう状況を作り出す事にもある。
欠片も情を持ち合わせてないが、他人の情は上手く利用する。
問題を起こす者の特徴だ。
だからこそ、上手く内部に潜り込み、仲間意識を抱かせていく。
その仲間意識を利用して、集団を利用していく。
寄生虫のようなものだ。
みんな仲良くという戯言が悲劇を招く。
仲良くする相手は選ばねばならない。
駄目だと分かれば切り捨てねばならない。
それが出来ない故に悲劇である。
切り捨てる決断が出来ずにいるのは、自業自得な部分もあるが。
そうなった者達は、もう取り返しがつかない。
ヨシユキも早々に見捨てる。
無理して諭しても意味は無い。
「でも」や「しかし」と言葉を拒絶する者達は聞く耳をもってない。
そういう人間に何を言っても無駄である。
たとえそれが、どれほど真相や真実であり、するべき事であってもだ。
そうして引率しながら人を見定めていく。
今後も面倒を見る者と。
早々に切り捨てるべき者に。
駄目な奴等に時間や労力を割くのは無駄である。
それよりも、見込みのある者達の成長を促していく。
たとえ、素質や才能がなくても。
人柄がまともならば。
その逆に、どうしようもない連中は見切りをつけた。
また、機会をうかがっていく事になる。
手っ取り早く処分する時期を。
生かしておけば、今後何かしらの問題を引き起こす。
そうなる前に問題を終わらせておきたかった。
幸い、引率という形をとっている。
迷宮の中に一緒にいく事になる。
機会はいくらでもある。
適度な時期に適切に片を付けていった。
新人教育をしながら、そんな事もこなしていった。
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