１３ 帰れるうちに帰ること、無理して急ごうとしないこと
「レベルが上がるまでは貧乏暮らしを覚悟しろ」
夢と希望を粉砕する言葉をかけていく。
探索者になる者達の大半は、豊かになる事を求めてる。
貧しい世の中なのだ。
食い扶持にありつくのも難しい。
そんな中で、迷宮探索は起死回生の可能性を秘める場所。
いつかは俺も、と夢見る者は多い。
そんな者達の描く将来像を木っ端微塵にしていく。
貧乏から抜け出したくてやってきてるのだ。
それなのに貧乏を我慢しろと言われたらどうなるか。
だが、これも必要な事だ。
「レベルが上がるまでは余裕がない。
戦闘を一回しただけでも息切れする」
実際そんなものだ。
怪我や傷はなくても、体力を凄まじく消耗する。
命がけの戦闘なので、精神も限界まで使ってるからだ。
そんな戦闘をくり返し何回もしなくてはならない。
初心者ではそれも難しい。
どうしても戦闘回数は限られる。
稼ぎにもそれがあらわれる。
「一日で一泊分の稼ぎしか手に入れられないのが普通だから」
金額にして３０００円から４０００円。
この程度しか稼げないのが初心者だ。
なお、安い宿で一泊１０００円。
食事が一食が最低でも５００円ほど。
満足に食べたいなら１０００円はかかる。
初心者探索者がどれだけ大変か分かろうというもの。
「だけど、レベルをあげようと、稼ぎを増やそうと無理をする。
無理をして死んでいく。
そうなったらどれだけ稼いでも意味は無い」
生きてく為に稼いでるのに、稼ぎを得るために死ぬ。
本末転倒でしかない。
「レベルが上がれば余裕も出て来る。
戦闘での息切れもしにくくなる。
怪物も簡単に倒せるようになる。
それまでは我慢だ」
まずはそこまで生きのびる。
優先するのはこちらになる。
稼ぐ事ではない。
「食い扶持は手に入れないといけないけど」
大事な事は一つ。
確実に帰る。
無理しないで、余裕のあるうちに。
疲れて体が動かなくなる前に。
怪我をしてない段階で。
「一泊と一日分の食費が手に入ったらそれでいい。
そこで切り上げる。
そうでなければ死ぬと思え」
ヨシユキ達はこれを念頭に活動してきた。
レベルが上がるまでひたすら耐えた。
ひもじい日は何度もあった。
それでも耐えた。
おかげでレベルが上昇する瞬間を迎える事が出来た。
「それが出来なくて死んでいった同期はたくさんいる」
同じ頃に探索者になった者達。
そのうち、今も生きてる者はほとんどいない。
いても、再起不能で途中で脱落したものなどが多い。
無事に探索者を続けてる者は、本当に数える程もいない。
「そうならないでくれ」
まずは生き残る。
これを優先して欲しかった。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を
