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129 他の者に仕事を任せられるようになってるのに忙しさは変わらない

 ヨシユキ達の里の発展は止まらない。

 最初は粗末な移住地であった場所も、整然とした町になっていった。

 レベルを上げた者達による労働力も大きい。

 知力の方も高く、効率的な作業を模索して見つけ出していく。

 科学分野の研究も進み、毎日が新発見の連続だ。



 魔力を用いた魔術器具も様々な発展をしている。

 既にある物の改善改良型が次々に出てきている。

 省力化が進むそれらは、必要な魔力を抑える事が出来た。



 新しい魔術器具も次々に生まれている。

 公害を出さない蒸気機関なども生まれている。

 更に水を引くポンプなども魔力による自動化が進んでいる。

 下水道の浄化なども行われている。

 巨大化していく町の中を、その周辺の村を結ぶ鉄道も出来上がってきている。



 魔力を使わない機械も作られている。

 石炭を用いた機関なども開発された。

 豊富に採掘出来るこれらは、魔力よりも広範囲に使える。

 しかし、公害問題が絡んでくるので、今少し研究を進めてからということになった。

 健康被害や環境への汚染は無視できない。

 それでも、使い勝手の良さから、普及を望まれている。



 農作物の品種改良なども進んでいる。

 収穫量が多くなるように実を多く付けたり。

 病気や天候不順に強いものを探している。

 その成果は少しずつ出てきており、収穫の安定に繋がっている。



 すぐにではないが、少しずつ確実に状況は良くなっている。

 その事をヨシユキ達は感じていた。

 それでも、

「なぜだ……」

 ヨシユキの口からは疑問と苦悩がにじみ出る。

「どうして俺は楽にならないんだ」



 移住地にやってきてから時間が経ち。

 里は大きく発展している。

 生産性は大きく改善している。

 これは、一人一人が発揮できる労働力が大きくなってることを示している。

 それは様々な機器によるものだったり、働き方そのものの変化による。



 言い方を変えれば、一人当たりの負担は減っていることになる。

 労働力の増大というよりも、労働力の省力化といえるだろう。

 道具ややり方が良くなって、小さな力で大きな成果を出せるようになった。

 つまり、以前と同じ程度の収穫や成果で良いなら、込める力を減らせるのだ。



 にもかかわらず、ヨシユキの仕事は終わらない。

 役割分担を進め、責任や権限を分割してもだ。

 それぞれの担当部署はしっかりと仕事をこなしてくれている。

 その分だけ、ヨシユキが直接携わることもなくなってきている。

 そのはずなのに、何故か作業量も作業時間も短縮されない。



「なぜだ?

 どうしてだ?」

 疑問が頭から離れない。

 里は大きく発展し、ヨシユキの仕事場も大きく様変わりしている。

 かつては無かった機器が持ち込まれ、それらによって仕事は大きくはかどっている。

「なのに…………」

 ヨシユキの前には積み上げられた書類がある。

 決裁待ちのそれらを見て、ヨシユキは呆然とするしかなかった。



 それだけ里の規模が拡大してるからだ。

 以前通りの規模だったら、負担は確実に減っていただろう。

 しかし、迷宮は次々に破壊され、そこに人が移住していく。

 そうなれば必要な作業も増えていく。



 まして発展中の里である。

 新発見や新発明によって設備は常に旧式化していく。

 即座に交換や更新する必要は無いが、どこかで導入しなくてはならない。

 その時期が来たものが多いのだ。



 他にも様々な出来事が起こっている。

 予期せぬ出来事は何かしら発生する。

 その中でも特に対処が難しい事がヨシユキの所にやってくる。

 既に対処方法が分かってるものならこうはならない。

 新たに起こった事態や、複雑すぎて対処しきれないこと。

 それらがヨシユキの所にやってくる。



 こういった事態は規模が大きくなるほど発生件数が増える。

 何度か対処すれば、それが前例になっていくけども。

 そうした前例が対処方法の基準となって、ヨシユキの手を煩わせなくしていく。

 だが、その前例がない。

 だからヨシユキの苦労は無くならない。



 むしろ、里が発展するごとに増えていく。

 人口が増えて、迷宮を破壊して人類の手に戻った土地が増えて。

 あちこちに集落が出来て、村が出来て、町が出来て。

 様々な仕事が増えていき。

 先住者と後続の住民が増えるにつれて。

 どんどんと問題が増えていく。



 それらの解決を。

 解決出来ないまでも、その場限りの対処でも。

 ヨシユキにそれが求められている。

 暇になるわけがなかった。



「なんで……」

 どうしても口から嘆きが漏れる。

 理由はヨシユキも分かってる。

 どうしたって面倒が発生するからだと。

 そうと分かっていても、言いたくなるのだ。

「どうしてこうなった……」



 いっそ、適当なところで身を引ければ良いのだが。

 なかなかそうもいかない。

 ヨシユキほどの高レベルの人間はそうはいない。

 また、経験を積んだ人間もいない。

 代わりなど、おいそれと見つかるわけがなかった。



 まだまだ当分は苦労が続く。

 それもまた分かってるだけに、ため息も出るというもの。

「また脱退したい」

 かつて自分の能力が足りないと思い、仲間と分かれた。

 出来るなら、今ここでそれをしたかった。



 なお、実際にそんなことを言うと、

「なら、レベルを上げにいこう」

と古巣の者達は言う。

「能力を上げればまた一緒にやっていけるからな」

 それはかつてヨシユキが実際に示したことだ。



 能力が足りない、ならばレベルを上げて釣り合いをとる。

 それで古巣に合流することが出来た。

 それをまた行うというのだ。

「頑張ろうな」

 そういって誘うタケヒトに嘆きと呆れと諦めと。

 そして怒りを少々抱いた。

「お前って奴は……」

 恨み言を口にするヨシユキに、タケヒトは豪快な笑いを返した。



 そんなわけでヨシユキは安穏とは出来ない日々を送っていく。

 楽はなかなか出来なかった。


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