109 作るのだ、自分たちが生きていける場所を
貴族の使者との接触の時。
ヨシユキは「こりゃ駄目だ」と思った。
初手でいきなり喧嘩を売ってきたのも。
そうして優位性を保とうとしたのも。
地位故にそれが許される事も。
全てが瞬時に嫌になった。
どんな用件だったのかは今も分からない。
だが、貴族とのつながりは決してよい結果にならないだろうと察した。
礼儀が必要の無い平民に礼儀作法を要求したことで。
それこそ礼儀作法から外れた行為である。
それを知らないわけがないだろう、貴族なのだから。
知らずにやったのではない、知っててやったのだ。
当然、何かしらの目論見があるはずである。
それが何なのかは分からないが。
ただ、決してそれが良いものだとは思えなかった。
そんな貴族との付き合いは避けたいところだ。
何をしてくるか分からないが、ろくな事はしないだろうから。
ヨシユキは出来る限り早く国から立ち去る事にした。
その為にも、国との接触を断ち切れる場所が欲しかった。
幸い、そういった場所はいくらでもある。
迷宮によって制圧された場所が。
そこにある迷宮を破壊すれば、居場所を確保出来る。
そこに賛同する者達と一緒に移住する。
それがヨシユキの出した答えだった。
間に迷宮がある。
怪物が跳梁跋扈している。
それ故に、国や貴族を自動的に阻む事が出来る。
問題なのは迷宮だが、攻略できるくらいの能力をヨシユキ達は手に入れようとしている。
幾つかの迷宮を破壊して、安全圏を確保していける。
時間も手間もかかるが、出来ない事はない。
あとは生活基盤を作る事だが。
幸いにもヨシユキの旅団には様々な職種の者達がいる。
迷宮探索には向かない技術や知識を持つ者達。
しかし、日常生活には欠かせない能力。
高レベルでそれらを持つ者達はいくらでもいた。
それらが迷宮を破壊した跡地に入植すれば良い。
全部は無理でも最低限の産業は確保出来る。
これがヨシユキの考えた迷宮攻略後の身の振り方だ。
散々悩んでいたが、貴族の使者の態度がきっかけで思いつく事が出来た。
「こんな奴らと一緒にいたくない」という思いによる。
感謝をする気にはならないが、貴族の使者のおかげである。
迷宮攻略と同時に、大がかりな探索班を目的地に送り込む。
今度は100人ほどの探索者を動員する。
もともとの50人に、土木・建築作業系の技術や知識を持つ者達を加えた。
それらが現地に入り、最低限の居住地を建設する。
迷宮攻略後に、そちらにすぐに移住できるように。
合わせて、探索者ではない町の住人にも声をかけていく。
付き合いの深い者達に、一緒に暮らさないかと。
迷宮攻略後になるので、まだ幾らか先にはなる。
だが、出来るだけ早く準備はした方が良い。
ヨシユキとしても、誰がどれだけ来るのか把握しておきたい。
それにあわせて、住居を作っていくのだから。
更に様々な物資が買い集められていく。
工具に農具に武具に荷馬車に。
当面の食料から種籾まで。
必要になるものが次々と買い集められていった。
それらは名目上、迷宮攻略後の開拓開発のためとされた。
迷宮が消えれば、周辺は安全になる。
迷宮都市を中心に田畑を作っていくようにもなる。
その為には大量の資材が必要になる。
それを見越しての買い付けだと説明をしていった。
変な警戒をされないように。
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