1 離脱の決意
「俺、辞めるよ」
真滝ヨシユキの言葉に、机を囲んでた者達は凍り付いた。
「…………どういう事だ?」
いち早く気を取り直した者が尋ねてくる。
とはいえ顔面蒼白、体にはまったく力が入ってない。
あまりにもあまりな事に脱力してしまっている。
悪寒すらおぼえてる。
迷宮探索で上位に食い込む旅団の団長がだ。
「おいおい、そんな強ばらないでくれよ」
ヨシユキはそう言ってなだめようとする。
だが、
「出来るか!」
返ってきたのは怒鳴り声。
「おまえ、辞めるって…………そんなの認められるか!」
「そうよ!」
「おう!」
その声にようやく気を取り直したのか、この場にいる他の者も同調していく。
「なあ、何が問題なんだ?」
団長である新見タケヒトは尋ねる。
「金か?
待遇か?
それとも、他の事か?
不満があるなら遠慮無く言え」
「いや、不満はないよ」
「だったら何で?!」
ほぼ恐慌状態になってるタケヒトは更に質問を重ねた。
「まあ、あれだ。
俺の力じゃ、もうついていけなくなってるからな」
そう言ってヨシユキは笑う。
実に乾いた、自嘲気味の笑顔だ。
それを見てタケヒトと周りの者達も言葉につまる。
「それは…………」
何か言葉をつなげようとするタケヒト。
しかし、声が出てこない。
残念ながら事実なのだ。
迷宮の奥深くまで入り込むようになった旅団。
探索者の集団であるこの旅団で、ヨシユキはだんだんと活躍の場をなくしていった。
それは周りが妨害や邪魔をしてるからではない。
たんにヨシユキの実力がおいつかなかくなってるからだ。
才能や能力の差というしかない。
他の者に比べてヨシユキの能力は劣る。
だから迷宮の奥深くの探索についていけなくなっている。
とはいえ、無能というわけではない。
ヨシユキは凡人が順当に成長すればこれくらいになるだろうという水準だ。
他より劣るところがあるわけではない。
単純に他が凄すぎるのだ。
そんな中でヨシユキがやっていくのは難しい。
周りもヨシユキを守るために力を割く事になる。
旅団全体の動きを圧迫する。
ヨシユキにそれが心苦しかった。
皆の足を引っ張ってる事が。
ありがたい事に、他の団員はそれを口にはしない。
むしろ、ヨシユキをつなぎ止めようとしてくれる。
「なーに、気にすんな」
「そうそう、がんばろう」
そう声をかけてくれるのも一度や二度では無い。
だが、そこに甘えているわけにもいかなかった。
タケヒト達ならもっと奥へいける。
探索者として大きな仕事が出来る。
その邪魔をしてるのがヨシユキには耐えられなかった。
「行くのか?」
静かに尋ねる声。
この旅団の魔術師だ。
口数が少ない、いっそ何も喋らないのが当たり前な人間だ。
それが口を開く。
それだけヨシユキの事に関心があるのだろう。
「ああ、そのつもりだ」
「そうか」
短い返事。
長く大きなため息。
それが感情が今ひとつ掴みにくいこの魔術の気持ちを示してた。
「残念だ」
気持ちを伝える言葉も添えられる。
その事に周りの者達が驚く。
これも滅多にない事だったから。
何より、その短い言葉にタケヒト達は同意する。
それこそがこの場にいる旅団全員の気持ちなのだから。
「本当に──」
ありがたい仲間の反応。
それを目の当たりにして、ヨシユキも気持ちを漏らす。
「──俺は仲間に恵まれてるよ」
偽りのない本音だった。
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