1. 始まりは
「いい加減にしないか! 彼女が困っているではないか」
(嫌っーーー⁉︎ なんでこの人私にかまってくるの‼︎ 放っておいて欲しいのに)
この国の王太子イズール・アル・カルドニアに対して酷い事を思うのは、私こと男爵令嬢のシェラフィード・クルードだった。
私には、前世の記憶が薄らとあり母と2人で貧しくも楽しく暮していたが母が亡くなった時に今の男爵家に引き取られた。
どうやら私は、男爵様の実の子だったようでそれは前世で友人が楽しんでいたゲームの内容と同じだった。
よくあるストーリー。ヒロインが王太子の婚約者達に虐められ王太子とヒロインが結ばれる……的な。
貴族の通う学園へ通学する迄は同じだが、特に令嬢達に虐められる事もなく割とすんなり受けいれてもらった。
平民として暮していた期間は長く、令嬢としてはまだまだでよく失敗もする。
ドレスは動きにくくてお茶の際にカップに袖を引っ掛けてスカート部分に紅茶を零したり、気軽に男性と話したり、食事の時の一口が大きかったり淑女としては酷い有様だ。
そんな私でも一応婚約者となる方ができた。彼は割と無口で黒目の黒髪を後ろで括る素敵な人だ。
お喋りな私の話を相槌しながら聞いてくれるが、時々お説教もしてくれる。王太子殿下とも親しい様で、私も王太子殿下とお会いする機会が多かった。
王太子殿下は淑女らしからぬ私が珍しいらしく、やたら構ってきた。今日も友人達とお昼を食べていると
「君はよく食べるね。まるでリスの様だ」
「はい。食堂の料理はとても美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまいますの」
なんて王太子殿下に答えながら
(昔は貧しかったから、ついがっついちゃう)
そんなある日。
イズール王太子殿下の婚約者でもある公爵家令嬢セラヴィーン・マクラエル様から、淑女としての注意を受けた時に偶々見掛けた王太子殿下のお言葉だった。
淑女の在り方なんてとんと知らない私にとっては別に困ってはおらず、無知な私に色々注意して教えてくださるセラヴィーン様。
対して、君は面白いな、やれ困った事は無いか?心細くは無いか?と何度も言われ肩を抱き寄せ冒頭の発言をする王太子殿下。
(婚約者のいる私に近寄りすぎじゃ無いですか⁉︎)
別に困っても無いし心細くも無い私にとっては、美しく優しく聡明なセラヴィーン様にあんな事を言う王太子殿下にこそ困った。