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第2話 その少女、妖精なり

 パーティーから追放されてしまった翌日の朝――

 俺は今まで拠点としていた街を出ると、馬車を利用してとある森へ繰り出した。

 別にどこかに行く明確な目的があったわけじゃない、ただ皆から無能呼ばわりされて失念と苛立ちに支配されつつある自分の心を落ち着けたかった。


 ここはアルファード帝国の北端にして、ベタルード王国との国境ともなっている広大な森。

 一昔前にこの森の近辺に住んでいた村の住民が妖精や精霊を崇めていたことから、人々からは精霊の密林と呼ばれている。

 とは言っても妖精や精霊の存在はある種の都市伝説でしかなく、実際にここで暮らしているところを誰かによって報告されているわけではない。俺自身も妖精をこの目で見たことはないしな。


「……空気が澄んでいて、美味しい」


 深呼吸しつつ倒れている木の幹に腰掛けると、俺は小鳥のさえずりに耳を傾けながらため息を吐き出した。

 それなりに自分では貢献してきたつもりでいたのだが、俺の幻想だったのだろうか。

 それとも、気づかぬうちに誰かの策略にはまってしまったのだろうか。

 今となってはその真実を解明しようという気力も起きない。


 両親は物心ついた時からおらず、育ててくれた優しき義父も10歳の時に他界――そのうえ、最後の居場所だったパーティーまでも追放された。

 またもや天涯孤独というわけか。

 幼い頃から皇帝陛下に目をつけられる18歳の時まで、俺はただ一人で生計を立てて暮らしていた。だからこの状況には慣れていた、つもりなんだけどな。


 世の中では少し珍しいとされている白髪に紅の双眸、身体もそこまで特徴的ではなく至って普通。傍から見れば平凡な一青年そのものだろう。

 しかし、俺は平凡とは真逆の人生を歩んできている。なにせ育て親を亡くしてから、俺はずっと自給自足の生活を営んできたからな。

 そのせいかは知らないが……人とコミュニケーションを取るのはずっと苦手なままだ。機械となら楽しく会話できるんだけど。


 ふと脳裏に、去り際に見たあの心配そうなエリスの顔が思い浮かんだ。

 彼女はいつも徹夜している俺の健康を気遣ってくれた、暇な時には俺の発明を手伝ってくれたこともあった。

 恐らく、あのパーティーの中で最も話したのは彼女、エリスだろう。


 無論、エリスだけではなくジェシカやミシェル、ジッタとも上手くやってきた、と思っていたんだがな。

 たった一年間という短い期間だったが、彼らは俺に仲間の大切さを教えてくれた。

 それには感謝しているが……仲間から裏切られる悲しさまでは知りたくなかった。


 ――思い出しただけで、無性に苛立ってきた。


 ジッタは俺の科学の在り方を、俺の生き様を冒涜した。そして俺の大切で可愛い発明品を玩具だと言い切った!

 アイツだけは絶対に許さない、どんなに土下座されても絶対に許せないだろう。

 ……だからと言って奴に復讐する気にもなれないけど。


「さっさと忘れよう。覚えているだけ無駄だろ、こんなの」


 誰かを蹴落とすために執着しようとしたって、俺に今できることは大してない。

 ならいっそのこと、怒りやら復讐心やらは胸の内に閉まって、今後のことを考えた方が有意義なんじゃないか?

 そう思って、両手を上に伸ばしてストレッチしようとした――その時だった。

 茂みが揺れる音と同時に小さなうめき声が聞こえたような気がしたのだ。


 ……もしかして魔物が近くにいるのか?


 素早く立ち上がって戦闘態勢に入った俺は周囲の気配を察知しつつ、声が来た方へとにじり寄った。

 そしておもむろに自動でピントを合わせてくれる小型の望遠鏡を取り出し、茂みの奥を観察する。


「敵はいなさそうだが」


 魔素探知機の“タンチくん15号”にも特に反応はなく、魔物が近くにいるとは考えづらい。となると遭難者の類かもしれないな。

 頭の中で状況分析をしながら、ふと地面を見下ろす。


「うおっ!?」


 なんとそこには淡い瑠璃色の髪の少女が地面に顔を突っ伏しながらうつ伏せとなって倒れていたのだ。

 思わず声を上げてしまった俺だったが、すぐさま冷静になると少女の傍らにひざまずいて彼女の身体を揺さぶってみる。


「おい! 君、大丈夫か?」


 声をかけると少女は若干もぞもぞと動く、そしてうつ伏せの状態のままか細い声で呟いたのだ。


「み、水を……。水を、くだ……さい」

「……み、水でいいのか?」


 植物や湿った土といい、水で構成されているものは周りに大量にあるじゃないか……。

 そんなツッコミを喉元で抑えつつ、俺は背負っていた大きなバックパックを下ろすとゴソゴソと中を探る。

 確かこの前、湖で汲んだ水で作り置きしておいた浄水がまだ残っていた気がするのだが。


「これなら……飲んでも大丈夫だろう」


 蒸留水とかも持ってはいるのだが、不純物を全く含んでいない水は逆に体に悪いと言われているからな。

 俺は容器の蓋を開けて、適当なカップに水を注ぎ少女にそれを手渡そうと腕を伸ばした。


 その刹那――少女は俺の伸ばした腕、というよりは水の入ったカップをものすごい力で掴んだ。

 そして、なぜかそのカップを勢いよく逆さにして自ら水を頭の上にこぼしてしまったのだ。


「あ、え……?」


 こ、この少女は一体何がしたいんだ……!?

 もしかして罠なのか? 常識から外れた行動をすることで相手を混乱させてから、その隙をついて攻撃してくるという新手の罠なのか!?


 あまりにも常軌を逸した行動に俺は思考が追いつかなくなり、あたふたしてしまう。

 どうすればいいかわからなかった俺は、とりあえず少女から一旦飛び退くといつでも武器を抜けるように体勢を整えた。


 ずぶ濡れになった少女はうつ伏せのまま、再びもぞもぞと動いてみせる。

 その直後、ムクッと顔を上げるとなぜか今にもとろけてしまいそうな満面の笑みを浮かべたのだった。


「ぷはぁー、生き返るぅ」


 そんな言葉と同時に長い瑠璃色の髪の毛で覆われた頭から、ポッとわずかに青みがかった可愛らしい白い花が二輪咲く。


「えぇ……」


 どうやら俺の取り越し苦労だったみたいだが、警戒が解かれると同時に俺の頭は疑問符で埋め尽くされる。

 ――なんなんだコイツは、と。



「いやぁ、助かりました。本当にありがとうございます」


 育ちの良いお嬢様が着ていそうなふんわりとした服についた土を払って立ち上がったその少女は、俺に深々とお辞儀してみせた。

 服装といいさっきの謎の行動といい、どう考えても常人ではないが……少なくとも話は通じそうだな。


「ああ、いえ。別に大したことはしていないですよ」

「そんなことないですよ! あのまま放置されたら私、3日後には干からびてましたよ」


 あの状態でも3日間は持つんだな……。

 それにしても水を原動力にして動く人族ねぇ。亜人のなかにそういう人種がいてもおかしくはないが、そもそも皮膚から水を摂取することなんてできるのか?

 ――まさか、人間と植物のハーフだったりしないよな。


 頭の中を高速回転させて、目の前で起きた出来事や彼女の正体をなんとか解明しようと躍起になる。

 しかしその答えは、あっさりと少女の口から告げられてしまうのだった。


「自己紹介が遅れましたね。私は花の妖精フラウ氏族にしてダンジョンフェアリーのレティシアと申します」

「は……?」


 妖精だと?

 いまこの少女は自分のことを妖精、といったよな?


「ところであまり見かけない服装をしていますが……貴方はなんの妖精なんですか?」

「俺は――人間だぞ」

「……へぁ?」


 そして俺と妖精と名乗った少女は、しばらくの間、互いに目を丸くして見つめ合いながら唖然と突っ立っていたのだった。

 それが……俺ことルーサと妖精レティシアとの出会いだった。

読んでくださりありがとうございます。


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