表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/45

第4話 僕がなりたかったもの(前編)

 食事を終えて、馬小屋の寝床に戻ろうと歩いていたらセシリアが弁解するように話しかけてきた。


「そりゃあさ、切った張ったの世界だから死んじゃうこともあるよ。

 だけど、そうならないように私も助けるから!

 ここでの生活だってそれで上手くいったじゃない。

 むしろ牛飼いよりも冒険者の方が得意分野!」


 セシリアがそうでも、僕が冒険者に向いているかわからない。

 というか、向いていないだろうな、と思う。

 騎士であることに誇りを持っていた兄さんは偏見混じりに冒険者をこう評していた。


「冒険者なんて騎士のなりぞこないだ。

 武の道で身を立てたいなら軍に入り、騎士を目指せばいいのに、奴らは規律や試験から逃げ、その日暮らしを続けている。

 下級騎士と遜色ない実力の冒険者もいるらしいが、結局、精神が野蛮な荒くれ者から脱していないんだ。

 逆に俺が冒険者になれと言われても絶対なれないね。

 清流で泳ぐ魚は濁った沼では生きていけないのさ」


 強いアレク兄さんですら、その野蛮さから無理だと言ってた冒険者という職業。

 引きこもりで臆病者の僕に務まるとは思えない。

 だけど、セシリアに見放されたくないのと、他にできることがあるわけでもないから消去法で冒険者になろうとしていた。

 強さが欲しかったのは事実だ。

 もし、僕が強くなれれば、きっと…………



 無言で返事もしない僕に対してセシリアは不機嫌そうにため息を吐く。


『生者なんだからさ。

 もう少し元気にしたら?

 じゃないと、アイツみたいになっちゃうわよ』


 セシリアが指さす方向には一人の青年が立っていた。

 分厚い鎧を身につけた強面の男だった。

 セシリア曰く、重装戦士、と呼ばれるジョブらしい。

 体格に恵まれ、度胸のある者が務めることが多いらしいが、彼は無言で立っているだけで僕やセシリアが声をかけても無反応だった。

 だけど立っているだけで害はないし、放っておくことにしたのだけれど、きっと彼は……


「あの人、ロンさんじゃないのかな?」


 彼の名前を呼ぶと、ピクリと反応してこちらを一瞥した。

 だが、すぐに目を逸らし、いつも通り立ち尽くした。


『あんまり良い死に方しなかったのかもね。

 それで心が壊れて、魂だけ故郷に帰ってきたのかも』

「……心が壊れるような死に方、することもあるんだね」

『!? かもしれないってだけだから!

 大丈夫! あなたは大丈夫だから!!』


 セシリアが大きな声で騒ぐから耳を塞ごうとした————その時だった。


 モオオオオオ————と牛小屋にいる牛たちが一斉に鳴き出した。

 あまりの声の大きさに、母家からモロゾフさんが飛び出してきた。


「リスタ! どうした!?」

「わ、分かりません! 突然、騒ぎ出して」


 僕の言葉を聞き終わる前にご主人様は牛小屋に向かって走り出した。

 僕もそれを追うように走った。



 牛小屋の中に入ると、その光景に唖然とした。


「ゲギャギャギャグアギャッ!」


 アヒルと蛙を混ぜたような鳴き声で喚く子供のような人影。

 だが、ご主人様のランタンで照らされたその肌はくすんだ緑色で、頭は大きく、耳も人の3倍は大きくて先が尖っている。

 ご主人様が怯え上ずった叫び声を発する。


「ゴ、ゴ、ゴブリンだぁっ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ