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第2話 どうして幽霊になったの?(後編)

 季節が秋から冬に変わり、白銀の雪原で牧場の仕事と修行をこなす日々。

 引きこもりを脱しても、僕の世界はそこまで広くはなっていない。

 だけど、気持ちが前を向いているのはそばにセシリアが居てくれるからだろう。

 家族が一緒に暮らすように当たり前な雰囲気で僕のそばにいる。

 それはとても安心できることで、同時に怖いことでもあった。

 僕はこの状況に慣れ切ってしまいそうだから。


「ねえ、どうしてセシリアは幽霊になっちゃったの?」

『どうして、って……死んじゃったからに決まってるじゃない』

「それはそうだけど、死者が全部幽霊になるわけじゃないでしょ?

 もしそうだったら、この世で最初に生まれた人から一秒前に死んだ人までいるわけで世界が幽霊でいっぱいになっちゃう」


 僕がそう言うとセシリアは大笑いした。


『アハハハハ! たしかにそうね!

 じゃあ、ほとんどの人は幽霊になれずに天の国にでも行くのかしら。

 それとも風に吹かれた煙のように消えていくのかしら』


 ほとんどの人は幽霊になれない。

 たぶん、これは当たっているんだろう。

 もし、母さんが幽霊になってくれたなら僕はどんなことをしても会いにいくのに。


 …………ダメだ。母さんのことを想うとどうしても涙が出てくる。


 僕が涙を拭っていると、セシリアは笑うのをやめて僕の肩を抱き寄せて、優しく語りかけてきた。


『ねえ、リスタ。

 あなたがとても大好きな人と一緒に楽しい時間を過ごしたら、ずっとその時間が終わってほしくなくて、泣いたり暴れたりしたくならない?

 たぶん、そんな気持ちが死んでも魂をこの世界に繋いでくれるんじゃないかしら』

「……心残り、ってやつ?」

『本当にあなたは良い言葉を知ってるわね。

 たくさん本を読んでたからかな』


 セシリアは修行は厳しくするくせに変なところで僕を甘やかす。

 だから、離れたくなくて、焦ってしまう。


「セシリアは何が心残りだったの?

 それが解消したらどうなるの————ぅっ」


 僕が尋ねる前にセシリアの胸に抱き抱えられた。


『心配しなくても、あなたが沢山の人に囲まれるような立派な冒険者になるまで、いっしょに居てあげるってば』


 と言って僕の髪をクシャクシャと掻き乱した。

 心臓の音は聞こえず、体温もない。

 あと、申し訳ないけれど母さんみたいに豊かな胸をしていない。

 なのに、セシリアの胸の中にいると心が落ち着いて、不安はどこかに消えていくんだ。

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