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間話 牧場の息子は父を想う(後編)

『なのに、結果は三年も経たずに戦死だ。

 妹も嫁に行っちまったみたいだし、親父が守ってきた牧場を継ぐ奴はいない。

 とんだ親不孝をやらかしちまった』


 俺は隣に立つセシリアとかいう幽霊に自分のことを語った。

 親身に聞き入っていた彼女は大きなため息をつく。


『本当に親不孝よ。

 親より早く死ぬなんてさ』

『アンタだって俺より若いだろう』

『お生憎様。顔を覚えてないくらい小さい頃に両方亡くしているから』

『あ…………それは、悪かった』

『気にしないでいいわよ。

 冒険者なんてそんな奴の方が多いでしょ。

 アンタみたいに親のために冒険者になるなんて奴の方が珍しいって。

 あと、今はこんな姿だけど、生きてた時はもうちょっと歳くっていたの。

 自分の顔を見れないのが残念ね』


 そう言って自分の頬をつねるセシリアは怖いくらいに可愛い。

 生前、こんな可愛い女に会ったことないって思えるくらい。


 姫騎士セシリア・ローゼン。


 名前負けしない美少女だと思う。

 最も、その異名を聞いたことはないし大昔の人物なのかな、と思う。


『おい。今、私に失礼なこと考えてなかった?』


 幽霊になってもこのカンの良さ……

 さぞかし優秀な冒険者だったのだろう。

 それに…………


「これで百匹ぃっ!!

 どうだ、セシリア! 言われたとおり一日で百匹討伐したぞ!」


 ゴブリンの死体の山を築いてはしゃいでいるガキ……

 親の顔が見てみたいわ。



 ダイアウルフを倒した翌日からリスタは俺の形見の大剣を持って、村の外に出るようになった。

 そして、見つけたモンスターを片っ端から切り殺しまくっている。

 そんなイカれたガキにイカれた師匠のセシリアはあり得ないほど厳しい目標を課している。

 で、リスタはそれをことごとく超えていく。


 つくづく痛感する。

 俺は凡人だったんだな、って。


『セシリア、あのガキはなんなんだ?

 騎士様の家の子とはいえ半年前まで剣の稽古すらしてなかったんだろう』

『フフ、たしかに想定外だったわ。

 親の血が良いからすぐにある程度は強くなると思っていたけど、手負いとはいえダイアウルフを単独討伐できるとは思わなかったわよ。

 私の時代の基準じゃ金狼級は堅いね』

『……本当、アンタいつの時代の人だよ』


 冒険者のランク付はA〜Fの6等級だ。

 昔は階級に獣の名前がついていたらしいけど、知らない時代の話だ。


『一応、頼み込まれたから大剣の使い方を教えたけどよ……

 正直、さっさとちゃんとした師匠をつけてやるべきだと思うぜ。

 俺の剣術はギルドの先輩から習ったものだけどその人もCランク止まりだったし』


 そうは言うものの難しいだろうな、とは思う。

 大剣使いは数少ない上に力任せに振り回すだけの奴ばかりで剣術としてのレベルは低い。

 自慢の攻撃力も魔術師に比べれば見劣りする。

 俺が大剣を使ってたのも、売れ残りの掘り出し物がたまたま手に入ったからだ。


 大剣使いは大成できない。


 《《現代》》の冒険者における定説ってヤツだ。


『うーん……まあ、アテがないわけじゃないよ。

 いろいろ心配してくれてるみたいだけど、どうする?

 もう数日したら私たちは旅立つけど、ついて来る?』


 セシリアは上目遣いで俺に尋ねる。

 幽霊とはいえ目も眩むほどの美少女と一緒に旅をするなんて心惹かれる話だ。

 あのガキの行く末に興味がないと言えば、嘘になる。


 しかし、それでも……



『いいや。俺は残るよ。

 親父たちのそばにいたい。

 触れることも話すこともできなくても、それでも、見守ってやれるだけで俺の気持ちが救われる気がする』

『わかった。

 心残りが無くなるまで、精一杯親孝行しなさい』


 大人びた口調でセシリアはそう言った。

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