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ハスターク その16

「かなりの数が残ったな」

 マークは登録を終えた冒険者たちを見回しながら、誇らしげにつぶやいた。

「あんな言われ方をしたら帰りにくくなるに決まっているでしょう」

「ははは」

 カエデの苦々しい言葉を笑ってかわすと、彼は冒険者の方に向き直って口を開いた。

「よし、改めてここに来てくれたことに感謝する!堅苦しいことは言わねえ、この街を守るために魔獣どもを討伐するぞ!」

「おおおおおお!!」

 マークが言い終わるのとほぼ同時に、その場にいた冒険者たちは力強い声をあげた。


 冒険者たちは魔術が使える者と使えない者に分けられ、使える者は城壁の上に、使えない者は城壁の下で魔獣を迎え撃つ事となった。マークは東側を、ウェルキッドは南側を、レオーネは西側の指揮を担当し、北側の魔獣には本人の希望によってベルが一人で相対することとなった。

「本当に大丈夫なんだな?」

「本当に危なくなったらすぐにそちらに助けを求めるとも。まあ何も一人で討伐しようというのではない」

「…………?」

「やりようはある、ということさ」

「気をつけろよ?」

「もちろん。こんなところで死にたくはないからな」


「さて、ああは言ったものの来るかどうかは賭けじゃよな」

 くつくつと笑いながらベルはつぶやく。依頼によって彼女は(・・・・・・・・・)ベルのことを(・・・・・・)守らなければならない(・・・・・・・・・・)。そのため彼女はここに来るはずだが、目が覚めたとはいえ寝起きでまともな行動をしていない可能性もあるのだ。

「賭けに負けるつもりはないが、やれるとこまでやってみるか」

 そう言ったベルは獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべ、魔獣に向かって呪文を唱え始めた。


「どうやら、ベルさんはさっそく始めたようでようですね」

「彼女の魔力は私の《眼》でも見えない。彼女はかなりの規格外」

「ナタリーにそこまで言わせるとは、相当な実力者ですね。さて、我々も始めましょう!」

 そう言うとウェルキッドはてきぱきと指示を出し始め、その指示に従って冒険者たちも行動を開始した。


「始まったか」

「マークさん、配置完了しました」

「よし、んじゃこっちも始めるか。魔術師組、第一掃射開始!」

 マークの指示に従い、魔術を使える者たちは呪文を唱え始める。その様子を見ながら、マークは顔を険しくしていた。


「さて、私たちも始めようか。まずは私が切り開こう」

 そう言うとレオーネは膝をついて杖を肩につけるように構えると、呪文を唱え始めた。

「《我が目は・遥かを見通す・鷹の目なり》…………あれは緋色熊スカーレットグリズリーの異常進化かな?まあそれは後で確認するとして、《其は・我が怒りなり・音を超え・万象を貫き穿つ・雷撃の鉾》!」

 呪文が完成すると同時に杖の先に魔術陣が展開し、その中心から一筋の雷がほとばしる。その雷は魔獣たちの後ろに控えていた、体長十メルター近くある熊の魔獣の目を貫き、その後ろにある脳すらも破壊して後頭部を突き抜けた。熊はそのまま数歩たたらを踏むように歩いたが、すぐにその巨体を地に沈めた。

「すげえ!やっぱ『大賢者』様はすげえ!」

「初めて『大賢者』様の魔術を目にできたわ…………!」

 最も大きな魔獣を一撃で沈めたレオーネの手腕に、冒険者たちは驚愕すると同時に興奮していた。

「彼らの士気を上げるにはいいパフォーマンスだったろう?」

「それはそうですが、レオーネ様は無茶をし過ぎです」

 興奮する彼らの様子を見ながら、レオーネは苦い顔をするカエデに笑いかける。その笑顔に呆れながら、カエデは言葉を返す。

「まあまあ、固いことは言わないでくれよ。私だってここからは指揮官になるさ」

「実戦は私を使えばよいのです。レオーネ様が無理をする必要はありません」

「わかってるよ。それよりも、向こうも一番の大物を殺されてお冠だ。さっさと討伐してしまおう」


 初めに異変に気が付いたのはマークだった。彼は自分の補佐をしている職員に声をかける。

「おい、なんか変じゃねえか」

「そうでしょうか。私には順調に討伐できているような気がしますが」

「ん、ああ、討伐自体は順調だ。魔獣たちの動きが鈍いから、危険度が高いとはいえ討伐の難易度はそう高くないからな」

「では、何が気になっているのでしょうか?」

「最初から魔獣の数ってあんなに少なかったっけか?死体も含めてもうちょいいた気がするんだが」

「次から次にどこかから湧いてきてましたからね。……そう言われてみるとなんだか数が減っている気がしますね…………」

「他のところにも聞いてみろ。ここだけならいいが、他のところに異常が出てるかもしれねえ」

「分かりました」


「魔獣の数、ですか。ちょっと待ってください。…………ナタリー、現在の魔獣の数と最初の魔獣の数に変化はありますか?」

「うん、少しづつ減ってる。途中からどこかから湧いてくることもあったけどそれも含めて全体の数が減っていってるよ」

「お待たせしました。どうやら、こちらでも減少しているようですね」

『分かりました、どうかお気を付けて』

「ええ、そちらも」

 そう言ってナタリー(・・・・)は通信を切るとニヤリと笑った。


「これはクロエが来る前に全滅させてしまいそうじゃのう。まああの病み上がりを使うのは面倒じゃし、来なければ来なかったで安心できるがのう」

 ベルは城壁の上から魔術によって魔獣を攻撃していたが、その数が少なくなって当たりにくくなっていたため、城壁の下で直接魔獣を攻撃していた。

「《鉄槌よ》《鉄槌よ》《鉄槌よ》」

 あえて自身の魔力を垂れ流しながら魔獣を誘うと、近づいてきたものから順に叩き潰していく。すでに彼女の周りには頭や胴を潰されその命を終えている魔獣の姿が数多く存在していた。

「キィィィィィィィィィ!」

「邪魔じゃ」

 飛びかかってきた猿の魔獣を持っていた杖で殴りつつ、反対側の魔獣を魔術によって殺していく。

「ふむ、さすがに儂を恐れ始めたか」

 見れば、近くにいたはずの魔獣はきびすを返して逃げていく。中には街の方へと近づくものもいるが、それらはすぐにベルによって討伐されてしまった。

「さて、城壁の上に通信機を置いてきてしまったからのう。さっさと報告するとするかの」

 そう言って浮遊魔術で城壁の上まで戻ったベルは、そこで息を切らしている職員の姿を目にした。

「っ!どうした!」

「ぜえ、ぜえ、ベルさん、通信機は持ち歩くかそばを離れないようにしてください!こちらへの報告が途切れたので支部長が心配していたんですよ!」

「向こうから走ってきたのか……。それは申し訳ない。ただまああの通り、ここの魔獣は討伐し終えたぞ」

「あの数を一人で……?い、いえそれよりもですね、『大賢者』様が守っている西側に来てください!」

「何かあったのか?」

「西側に魔獣が集中しています!おそらくはこの街を襲おうとしていた魔獣のほとんどがそこに集結したんです!」

「西側の守りは大丈夫なのか?」

「人的被害はそれほど大きくありませんが、数が多いので城壁の上から攻撃するしかなく、あまり数を減らせていないのが現状です」

「分かった、すぐに向かおう。あ、君はそこで休んでから来い。無理はするなよ」

 そう言って走り出そうとするベルの服の裾を職員が慌てて掴む。

「なんだ?」

 職員は無言で指をさす。そこには持ち運び式の通信機が置き忘れられていた。


 その少し前。

『そちらの様子はどうでしょうか』

「ああ、順調に数を減らせているよ。そちらはどうだい」

『実はですね、こちらの魔獣の数がだんだん減っているようでして』

「減っている?」

『はい、どうやら南側でも減少しているようでして。北側はまだ確認できていないのですが』

「こちらは特に魔獣の数が減っているようには感じられないね。北側というと……ベルさんか。彼女なら大丈夫だとは思うが、減少しているかどうかは気になるね」

『ええ、そちらもお気をつけて』

「ああ」

 そう言ってレオーネは通信を切ると、すぐそばに控えていたカエデに目配せをする。それを受けた彼女はすぐに行動を開始する。彼女は懐からナイフを五本取り出すと、大きく振りかぶって地面に向かって投げつけた。彼女は五本すべてを投げ終えると、しゃがんで手を地につけて呪文を唱え始めた。

「《命はともしび・その数は我が掌に・その姿は我が心に》」

「どうだ?」

「…………」

「カエデ?」

「…………」

「カエデっ!」

 額に脂汗を浮かべて苦悶の表情をするカエデの姿を見たレオーネは、強制的に魔術式に介入し術式を破棄する。そして倒れこみそうになるカエデを抱きながら、慌てた顔で声をかけた。

「カエデ!しっかりしろ!」

「げほっ、げほっ、大丈夫、です。それよりも、早く支部長に伝えないと!」

「どうした、何を見た!」

増えています(・・・・・・)

「……なに?」

魔獣たちの数が(・・・・・・・)増え続けています(・・・・・・・・)。恐らく、他の所から移動してきたんです」

「ここにある何かを狙うため、いや、私という個人を狙うため、か」

 その言葉に、カエデは頷く。彼女を横たえたレオーネは、すぐそばにいた冒険者に対し通信を試みさせた。

「ダメです!繋がりません!」

「くっ、向こうでも何かあったのか!?仕方ない、君、南側まで走っていくんだ!」

「か、かしこまりました!」

「チッ、今のままならまだ問題はないがこのまま数が増え続けると地上の冒険者に被害が出る。今のうちに彼らを引き上げるぞ!」

「わかりました!」

「『大賢者』様、前方二キロメルター付近に魔獣の姿を複数確認!群れだと考えられます!」

「もう来たか」

 すぐに全員に通達され、その場にいた全冒険者を城壁の上に退避させることに成功した。そこで彼らは、自分たちが戦っていたすぐ近くに魔獣の群れが迫っていたことを確認して顔をひきつらせていた。

 しばらくしてマークのもとに行っていた冒険者が戻ってきた。

「一体向こうで何があったんだ?」

「ベルさんが何度通信を試みても反応しなかったらしいです。あ、彼女の無事はすでに確認が取れていて、すぐにこちらの応援に来てくれるようです」

「そうか、了解した」

「支部長たちも東側の討伐が終わったら、南側の状況を確認してからこちらに来るそうです」

「私たちは少なくともそこまでは持ちこたえなければならない、というわけか。いや、弱気になっていてはいけないな。私たちは私たちでできることを全力でやるぞ!」

 レオーネの力強い言葉に、その場にいた冒険者たちは声をあげながら手を突き上げた。

感想、ブクマ等よろしくお願いします!

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