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執事やメイドたちの話が多くなります。

VTuberあたりゆなを支援してくださった方々をモデルに書かせて頂いています。

あいつを初めて見た時の感情は今でも思い出す。

嬉しいのか、寂しいのか、はたまた…怒っていたのか。

とにかくあらゆる感情が交錯して、とても冷静ではいられなかった。


その子はソファに眠っていた。

元々色素の薄かった眼は赤と青の宝石のようなオッドアイにかわり、髪は深い森を思わせるような新緑となった。生前好きだった紫色をふんだんに使った服に、頬にはペイントまでされている。あの子がコスプレしたらこんな風になるのだろうか。

顔も年頃の少女そのままに、あどけなさと美しさが混じる魅力的なものだった。

だが、明らかに異質な部分。

関節のつなぎ目に残る球体。人間の肌とは違う独特な感触。耳をすませば、歯車の噛み合うような軋んだ音。

ソファに眠る少女は人形だった。


ある人物が大事な一人娘を失った。

その子に仕えていた俺達は深い喪失感に襲われ、なかには屋敷を出ていった者も少なくなかった。

ある時、その人は俺に言った。

「君にでも守れないものがあったとはね」

娘は病気だった。

俺たちはどんな奴からでもあの子を守った。

例え刃物を持った暴漢だろうと、ミサイルを撃ってくる軍隊みてーな奴らからも、どんな奴からでも守ってきた。

守ってみせた。

だけど死んだ。

あの子は死んだ。

俺たちは守れなかった。


同僚のドクターの荒れっぷりは特に酷かった。

あの子の容態が悪くなりはじめてから、連日連夜付きっきりで看病をしていたあいつは、自分にもっと知識と技術があれば失うことはなかったと、とにかく自分を責めていた。

一時は俺もそんな風にあいつを責める気持ちはあったが、今はそんなことは思わない。

あれは仕方の無いことだったと受け入れるしかなかった…。

だが、俺たちを包む大きな無力感。

あの日から、俺たちの時間は止まったきりだった。


「ん……」

人形の少女が小さく声をあげた。

まるで子どもが目を覚ますように。

自分を見つめる顔を不思議そうにじっと見つめかえしている。

吸い込まれそうなほど深く美しい瞳。


生きている。

この子は生きている。

あの子とは違う命だが。面影もあまり感じはしないが。

だが、この子は俺たちを愛そうと一生懸命だ。


「私を守って…!」

あの子は死んだ。

だがこの子は生きてる。

俺たちは今度こそ、守ってみせる。

俺たちの時は再び動き出した。


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