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不思議の国のアリス?4話

 そこはまるで天国のようだった。

 雑多に好き放題に伸びる草木は綺麗に整えられ、時おりふく優しい風がさらさらと撫でた。可愛らしい小鳥たちが互いに呼び合う姿や、ひらひらと舞う蝶や虫たちの姿も見る者を楽しませる。季節ははっきりとしないが、柔肌を照らすすべすべとした太陽の光もまた生命を賛美するかのようだった。

 その広い庭のなかに屋敷が一つ。修道院のような、教会のような、古く寂れたそれでいて厳かな雰囲気の屋敷だった。

 屋敷のとある一室。その部屋は絵画やアンティークが飾られた小さな美術館のようだった。

 その部屋の壁に一枚の絵が飾られていた。

 なんてことのない誰が描いたのかも分からない少女の絵。

 白く美しいドレスに身を包み、百合の花を一輪手にしている。

 少女はどこか儚げで、穢れを知らない天使のようだった。

 その絵の前で、2体の球体関節人形が立ち尽くしている。

 ドールにはありえない滂沱の涙を流しながら。

 悲しみはない。喜びもない。

 ただ涙だけが、その宝石のような赤と青の眼から流れていた。

 少女のドールが尋ねた。

「彼女は誰なの?」

 少年のドールが答えた。

「彼女は僕たちだよ」

 絵の少女は2体のドールにうり二つだった。

 頬のペイントはないが、眼の色は薄紫色に塗られており、2体の眼の色が溶け合えばこうなるのだろうか。

 少年のドールが尋ねた。

「どうして涙がこぼれるの?」

 少女のドールが答えた。

「思い出してしまったからよ」

 二人はお互いを見つめあった。見つめあいながら涙をこぼした。

 少女のドールが、少年のドールが尋ねた。

「あなたは誰なの?」「君は誰なの?」

 少年のドールが、少女のドールが答えた。

「僕は君だよ」「私はあなたよ」

 そう言われ、2体のドールは改めて絵の少女を見つめた。

 思い出したからと言われても、2人に思い当たることは何もない。

 この絵の少女は誰なんだろう。

 2人は再び片割れの方を振り向いた。

 そこにはすでにあの訳知り顔の片割れはいなかった。

 隣には大きな鏡が置かれ、同じように涙目の狼狽えた自分が映っていた。

 しばらくすると、2人はなんとなく違和感を感じた。

 周りをふと見渡せば、先ほどまでいた執事やメイドは誰もおらず、部屋のなかには自分一人だけがぽつんと取り残された。

 再び2体のドールは鏡を見た。

 そこには先ほど自分を誘ったもう一人の自分が映っていた。

 今度は自分と同じ動きをしている。

 少女のドールが尋ねた。

「そこにいるの?」

 少年のドールが尋ねた。

「君は僕なの?」

 少女のドールが答えた。

「そう。そこにいるのね」

 少年のドールが答えた。

「君は僕なんだね」

 2人は鏡をなでるように手を合わせた。これが夢だとしても、2人はとても満ち足りた気持ちがふつふつと湧いてくる。

「あなたは私ね」

「君はそこにいるんだね」

 2人は手をからめるようにぎゅっとつなぎ、頬が触れ合うように深く抱き合った。頬の月と星がちょうどぴったりと重なり合うように・・。

「僕たちはいつも一緒だよ」

「私たちはいつも一緒ね」

 2体のドールはまるで鏡に映る自分が話すかのように同じように言葉を紡いだ。

「「魂の片割れ」」

 2人の意識はそこで途切れた。

 ゆっくり・・。ゆっくり・・。


 パチパチ。

 ヴィアレットの屋敷のラウンジ。暖炉の前にソファーが置かれている。

 4月に入っても雪が降るような不思議な季節。

 小気味よい音をさせながら燃える薪の炎が部屋にいる者を暖めてくれる。

「ゆな~、ココア入ったぞー」

「坊ちゃん、ココアが入りましたよ」

 二人の執事がそれぞれ主のために用意したココアを手に、主の元へと寄っていった。

「「あ」」

 二人の執事は同時に声をあげた。

 2体のドールが手をつないだまま、すやすやとお互いに身体を預けあって眠っていた。

 2人の執事はその様子を覗き込むと、やれやれといった顔でその場をあとにし、冷えないようにと薄い掛物を二人にかけた。

 2人の執事は満足げに2体のドールを見ると、また入れなおそうとそのココアに口を付けた。

 ソファーには聖母に抱かれた天使の赤子のように二人が幸せそうに眠っていた。

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