不思議の国のアリス?2話 ゆずる編
白い雲がふわふわと泳ぐ青い空がどこまでも広がっている。
まるでイギリスの宮殿に広がるような美しく整えられた庭があった。
そこに一つ。大きな枝を広げた樹。
1人の麗しい少年が、人形の姿そのままにもたれかかっていた。
宝石のような瞳はまぶたによって閉じられていて見えない。
木の枝から注ぐ淡い太陽が彼の髪をさらさらと撫でた。
「くしゅんっ」
少年は小さくくしゃみをした。青と赤のオッドアイをパチパチと瞬かせている。
はっと身体を起こしてみると、そこには見慣れない景色が広がっていた。
「屋敷の庭・・じゃない。こんなところ来たことあったっけ?」
あたりをきょろきょろと見渡してみるが、知り合いはおろか屋敷もない。知らない間に誘拐でもされてしまったのかと不安が襲ってくる。
「確か・・ラウンジで本を読んでいて・・」
まだぼんやりとした頭を働かせて、自分のさっきまでの行動を思い出していく。少し前に暖炉であまりの眠気にあらがえず居眠りをしてしまったことを思い出した。
「そういえばうたた寝をしちゃったんだ。そうかこれが明晰夢なんだ」
随分神経が図太くなってしまったのか、僕はそういう風に自分を納得させた。
チュンチュン。
近くで鳥のさえずり姿が見える。ぽかぽかとした暖かな日の光が頬や髪をなで、そよそよと柔らかな風が身体のそばを通り過ぎていく。
僕は木陰に再び腰を下ろして目をつむり、その美しい自然を堪能していた。
「天国みたいだ・・気持ちいいな」
またうつらうつらし始めたその時、
「ゆずる坊ちゃん」
ふいに頭の上から呼ぶ声が聞こえた。
「ん?」
その聞きなれた声にぱっと目を開けると、ワンピースに身を包んだ女性がこちらを見下ろしているのが目に入った。
「こちらにおられましたか。探しましたよ」
「月川・・どうしたの。それにその服は・・」
月川はいつもの執事服とは違った白い洒落たデザインの服に身を包んでいた。裾にはトランプ柄のタッチが入っており、不思議の国のアリスに出てくるハンプティダンプティのようにも見える。
「どうしたも何も、妹様がお探しでしたよ」
「妹?」
「はい。時間になっても来ないからお庭を見てきてとおっしゃられて私が。見つけることができて安心しました。さ、こちらへ」
「え?ちょ、ちょっと」
僕には「兄」はいても「妹」はいない。そんな僕の疑問を知ってか知らずか、月川は僕の手を引っ張っていく。
数十メートルほど小走りに移動すると、アーチ形になった扉が見えた。
「あら、ゆずる兄さま。こんなところにいたのね」
僕たちは突然呼び掛けられてその声に思わず足を止めた。
「おや、ゆなお嬢様」
月川は落ち着いた様子で言った。
「どこにもいないから心配したわ。気まぐれなあなたらしいわね」
少女は僕たちのそばまで寄ってくると、やや呆れたように話しかけてくる。
「き、君は?」
僕はまるで既知のように気安い態度の彼女に少し戸惑いながら尋ねた。
「うん?」
少女は僕が戸惑っているのを不思議そうに見つめると、月川が横から口を挟んだ。
「ゆなお嬢様。ゆずる様は先ほどまで木陰でおやすみでしたよ」
「あぁ、まだ寝ぼけているのね。ゆずる兄さまにしては珍しいわね」
ゆなと呼ばれた少女は再び呆れたようにため息をつくと、僕の頬を優し気になでた。
「あ・・」
処女の手が頬に触れた瞬間、なんとも言えない懐かしい気持ちが胸いっぱいに広がる。
見れば、少女は不思議な存在だった。僕と同じような三日月と星のペイント。青と赤の宝石のようなオッドアイ。そして足はドレスに隠れて見えないが、腕に現れた球体関節人形の関節。
まるで鏡写しの自分の姿が目の前に立っていた。
「それにしてももう着替えを済ましていたなんて、随分と楽しみにしていたのね。お茶会の時間が長くなったわ」
少女は僕の手を引くと、アーチ状の扉に向かって歩き出した。
「お茶会?」
「ん?まで寝ぼけてるの?今日はイースター。私たちのお茶会。」
少女はぴこぴことウサギの耳を触ると、ポケットから卵を一つ取り出した。
「マッドティーパーティよ」




