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執事・メイドのトレーニング

 ゆなが今の屋敷に住むようになって、すでに1年半という月日が流れた。初めのころは母親であるサコの従者や古くから仕えてくれている執事やメイドたちの10人にも満たない数でしかいなかったが、今では70名以上の執事・メイドがいる大所帯となった。その顔ぶれの経歴は実に様々で、一般家庭出身の者から裏の道に通ずるような者まで幅広い。ある意味、世界の縮図のようなものがこの屋敷では垣間見ることができる。

 経歴もさることながらその仕事内容も多岐にわたり、大半の執事・メイドたちが屋敷の維持のために動いている。それではゆなが外出などもせず、護衛の仕事がないSPたちはどうしているかというと・・。

 

「それではいきます」

 露五は実弾のこめられたサブマシンガンを構えると、50m離れた的に狙いを定めた。

「んー」

「いつでもどうぞ」

 そばでは霧島と玄武、シルヴィア、グスタフといった面々がイヤーカフで耳栓をしてその動向を見守っていた。

 露五が狙っている的は射撃訓練でよく使われる紙の的であるが、正確にいえば露五にはその的が見えない。彼から的までの間には何枚もの短冊が吊るされており、それらが重なって的が見えないようになっている。露五はこれらの短冊には一発もかすめることなく的に命中させると豪語しているのだ。

「では」

 露五は胸ポケットの懐中時計の竜頭を押すと、すばやく銃のサイトを覗き、引き金を引いた。銃口からは激しい火花と煙が吹き出すと同時に耳をつんざくような銃声が鳴り響いた。バスバスバスーーーと的の後ろにある壁に銃弾が当たる音が聴こえ、コンクリート壁に反射する銃声の音とともに静寂が流れた。

 露五は銃弾を打ち終わると、ゆったりと能力を解除して的を回収すべく手元にあるスイッチを押した。ウィーンというベルトコンベアの音共に目の前まで的の紙が戻ってくる。

「うーん、こんなものですね」

 露五はそう言うと、紙の的を霧島たちに差し出した。

「「「「おおーーー」」」」

 彼らは一斉に感嘆の声を漏らした。露五が撃った弾は10発。そのうち8発が的の中心に集まっており、見事に全弾が紙に当たっている。

「すごいじゃん」

「さすが兵士。腕は確かだね」

 4人は口々にほめそやすが、露五はやや苦い顔で笑った。

「ありがとうございます。全部当てるつもりでしたが、腕が鈍ってますね」

 露五はがっかりと言った感じで肩を落とした。

「弾を操作するのに気をとられたのかもね。訓練でだんだん正確になってくるわよ」

 シルヴィアはそういうと、間に吊るされていた短冊を露五に手渡した。

「ええ、しかし勘を取り戻すには時間がかかりそうです」

「危機的状況に陥ったらすぐ戻るんじゃない?」

 シルヴィアは腕を組みながら、にやりと不敵な笑みを浮かべた。

「ええ・・」

 露五は手にした短冊に身を隠すように掲げ、徐々に後ずさりしていく。

 短冊はそのままメモ帳にでも使えそうなほどに無傷なままだった。


「それにしても、最近暇ね。お嬢様がお出かけになれないから仕方ないけど、やることがないのは辛いわ」

 露五の射撃を見たあと、5人はそのまま訓練場に隣接されたカフェに入り昼食をとることにした。長テーブルに思い思いの料理を並べて舌鼓を打っていたが、しばらくしてシルヴィアが愚痴っぽく呟いた。

「ん~、確かになー。まぁでも楽できていいじゃねぇか?」

 霧島は4人前はあろうかというパスタを平らげながら答えた。

「平和な方がいいんですけどね。ていうか霧島さん・・。細いのによくそんなに入りますね」

 グスタフの前にもパスタランチが置かれているが、霧島のそれと比べると可愛く見えてしまう。

「食べないときは食べないんだけどな。この前なんか一日おにぎり3個しか食わなかった」

 霧島はそう言いながらもフォークを動かす手は止まらなかった。食べ始めて3分も満たないうちにすでに半分以上なくなっている。

「極端ですねぇ・・。私は毎日3食食べるようにしていますが」

 露五もそう言いながら、大盛のどんぶりをぱくぱくと口に運んでいる。

「二人は特に食べる方だね。今度大食い大会でも開いてみますか」

 グスタフが笑いながら言うと、玄武が続いた。

「ちょうど来月はお花見に行きますし、お嬢様も喜ばれるかもしれませんね」

「お嬢様が楽しまれるのなら、ぜひやるべきね」

 ガラス越しに春の日差しが差し込んでくる。桜の季節がやってきていた。

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