ひなまつり3話
意外にも十二単の着付けはそんなに時間はかからず、30分程度で終わってしまった。振袖とは違って帯を締める必要がなく一枚着るたびに締めている帯紐をほどくため意外にも締め付け感がない。化粧などを軽く最後に済ませたあと、普段は舞などを奉奏する舞殿まで案内された。
「それではお嬢様。どうぞこちらのお席へ」
ゆなは従者に促されるまま、用意された畳の席へとぺたんと正座した。屏風や花をがなくともすでに雛人形のよう小さく可愛いらしい雰囲気がある。
「どうぞお寛ぎくださいませ。こちら雛あられとお菓子でございます」
従者はそう言うと、お菓子とお茶の乗った膳を差し出した。桃や緑など色とりどりに用意されとても美しい。
「お嬢様。お待たせいたしました」
「ゆなちゃんお待たせ~」
しばらくすると、同じように着飾った女性陣も部屋に入ってきた。今回はソアラと薫、レムと2人メイドを連れてきており、3人官女の役割を当てられていた。そのなかに久しく顔を合わせていない人物が混じっていた。
「ゆなちゃん久しぶりだね」
束帯に冠、飾り太刀を帯びたレフがゆなの隣に座った。
「レフお姉ちゃん!久しぶりね!」
母親であるサコは基本この神社に務めていることが多く、会いに行こうと思えばいつでも会える。しかし、ゆなの姉であるレフはレジャー施設などを運営する冷猫のグループを率いており、一年の半分以上は海外にいることが多い。そのため、こうして2人が顔を合わせるのは半年以上ぶりだった。
「お姉ちゃんが男雛の役なのね」
「うん。サコちゃんに急にひな祭りやるから来てって連絡きて、気付いたらこんな格好だった」
どうやらサコがひな祭りをすると言い出したのは思いつきのようだ。
「お嬢様。お待たせして申し訳ございません」
「うぃ~。お待たせ」
しばらく大広間でレフや薫たちと談笑していると、衣装に着替えた執事たちも部屋に入ってきた。それぞれ武具や楽器を携えており、女性陣とはまた違った魅力があり力強い雰囲気があった。
「あら、よく似合っているわね。普段もその恰好でいたらどうかしら」
「ふむ・・良いかもしれません。執事長に相談してみましょうか」
玄武は手にした弓や武具を見てまんざらでもない様子で答えた。
「俺は落ち着かねーなぁ。こんなのどう吹きゃいいんだ」
霧島は手にした笛を弄びながら自分の着た五人囃子の衣装を見た。普段から着崩した格好が多いため彼には少し窮屈に感じたようだったが、意外にきちんとしてみると若々しく似合っている。
「よく似合ってるわよ。これを機に楽器・・始めてみたら?」
ソアラがお茶うけに用意された雛あられを口に運びつつ、くすくすと笑いながら言った。
「そりゃどうも。あんたもよく似合ってるじゃねーか」
霧島はソアラの軽口に飄々とした感じで答えると、同じく出された菓子をぽいぽいと口に運んでいく。
ソアラは少し微笑むと頬の傷を軽くなぞった。
しばらく全員で歓談をしているとサコが従者を何人か連れてやってきた。
「やぁ、みんな着替えたかな~?お!よく似合ってるね~。それじゃ、舞台の方に行こうか」
サコはそう言うと従者たちに合図を送り、大広間の障子を開けさせた。一瞬太陽の光に少しまぶしく感じたが、見れば庭には紅い毛氈が敷かれた5段の雛壇が一つ鎮座していた。高さは3mはあろうかやはり大きい。一番上のお内裏様の席には金色の屏風が立てられており、なんとも雅な雰囲気がある。
「さ、履物があるからそれを使ってね。ゆなちゃんとレフちゃんが先頭で順番にあがって」
サコに促されるままゆなたちは庭に降り、従者たちの手を借りながら雛壇横の階段を使って上へとあがっていく。
ゆなとレフがお内裏様の位置に座ると、順にソアラ・薫・レムが三人官女、霧島・ジャック・月島の執事が五人囃子、玄武と露五が随身という役で並んでいく。
まださすがに桜は咲いていなかったが、ひな壇には梅・橘の枝が添えられくすぐるような淡い匂いに満ちていた。ひし餅やあられも朱色の器にきちんと盛られ、なんとも華やかで雰囲気である。
「意外と高いわね・・お姉ちゃんは平気なの?」
ゆなはひな壇から少し身を乗り出して下を覗き込んだ。
「うちには観覧車があるからね!慣れっこだよ」
束帯姿に笏を持った姿は様になっていて上品だ。
サコはひな壇を見上げ、うんうんと満足そうに頷いた。
「いい感じだね!これは良い年になりそうだ!」
暖冬とはいえ、まだまだ肌寒い季節である。ポカポカと温かな太陽の光が、赤く艶やかなひな壇に降り注いでいる。




