ひなまつり2話
3月3日。
雛祭りの起源は判然としないらしいが、遡れば平安時代の宮中で少女たちの雅な遊びとしてすでに存在していたらしい。もとは旧暦の3月(現4月)に行われていたため桃の節句といいながら、まだまだ肌寒い3月の初旬では淡い桃色の花はなかなか拝むことはできないのは少し残念に思う。
「お!ゆなちゃん来たね~」
ゆなが約2か月ぶりにサコの宮司を務める神社へと赴くと、1月の参拝の時と同じく温かい歓迎を受けた。
「ママ!久しぶり~」
ゆなはサコの姿を見つけるとまるで5歳の子どものように小走りで寄っていった。急に走り出したりすれば必ず周りのSPが反応するが、この時ばかりは何も言わずただ微笑ましく見つめるのみだった。
「やっぱり人はまばらね。裏から入らなくても十分なくらいだったわ」
複数名のSPやメイドを従えて移動する身としてはあまり注目されるような真似はしたくないため基本裏口を利用して入るが、今回はそんな心配はいらずともこうして堂々と正面から入ってこれた。それくらい、新型の風邪は人々の不安に影を落としているのだ。
「まぁ仕方ないね。すぐまた来るようになるさ!」
サコは一瞬まばらに人が通る参道を見つめたが、すぐにいつも通りの明るい表情へと戻した。
「それより準備は済んでるから着替えておいで!」
ゆなたちはサコに促されるまま、別室に設けられた衣装部屋へと移動していった。今回は5段雛を作るため、メイドが5人、執事が5人連れられている。もちろん誰が共をするかで前日もめにもめたが、今回はゆなの采配により特に大きな騒動はなく決まった。
「ゆなちゃんもホント主っぽくなったね~」
部屋までの廊下で薫がゆなに話かけた。今回彼女は3人官女を務めることになっている。
「もういい加減慣れたわ。可哀想だけどちゃんと決めないとまたもめるもの・・」
ゆなはややぐったりとした表情を見せながらため息をついた。
「まぁまぁ。でもすぐにワイを選んでくれたのは嬉しいよ」
薫は後ろ手に手を組むと、やや恥ずかし気にそう言った。
「3人官女は生活の世話をする役揃いなんですって。薫は適任よ」
薫と顔を合わせ二人満足げに笑うと、やや大きな広間へと通された。
「うわぁ、素敵ね」
部屋に入ると、狐が跳ねる屏風の前に衣桁にかけられた着物がまるで鳥が羽を広げるかのように出迎えてくれた。
「お嬢様の色にあわせ菫色をご用意させて頂きました。それではこちらへ。お付きの方々はこちらのお部屋へどうぞ」
案内を務めてくれたやや年配の女性に誘われて十二単の前に立つと、さっそく着替えを始める。部屋に待機していた従者たちもにわかに慌ただしく動き始めた。
「十二単っていうくらいだからもっとたくさん衣装があると思ったけど違うの?」
ドレスのコルセットやヘッドセットを外してもらいながら、衣桁にかけられた着物を見て少し不思議に思ったことを聞いてみた。
「はい。いわゆる十二単は唐衣・表衣・打衣・五衣・単・袴と構成され、そこに裳や扇といった小物が付きます。この五衣などは多くの重ね着をしていたのですが、こちらはすでにそでを重ねて一枚になっておりますので少しは軽いかと」
年配の女性から十二単の説明を受けながら、ゆなは五衣➡打衣➡表衣➡唐衣➡裳という順序で袖を通していった。紫色を基調としてだんだんと淡い色へとグラデーションがかけられ、まさしく花が色づいていく様を見ているようだった。
「よくお似合いですお嬢様。これはサコ様もレフ様もお喜びだと思います」
「あら、お姉ちゃんが来ているのね」
菫色の衣にぱっと花が咲いた。




