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ひなまつり1話

 1月、2月のなんとも忙しない日々があっという間に過ぎ、屋敷にもようやくいつも通りのゆったりとした時間が流れ始めていた。しかし、正直ここ数ヶ月の間は寒さをほとんど感じることのない安定した天気がほとんどで、逆に言えば季節感を感じにくい単調な日々が過ぎていた。

「はぁ、バレンタインも終わって3月って何かあったかしら」

 私は午前中のスケジュールをこなした後、ほぼ日課となっている一階ロビーでのお茶の時間を楽しんでいた。

「例の件もあって当分はご自由な時間が増えるかと・・」

 横に仕えたメイドの一人がメモを片手に応えた。

 去年の年末から今頃にかけて世界中で流行しているウイルス性の風邪の影響によって、日本のあちこちでイベントの中止や営業の自粛などが相次いでいた。医学の発達した先進国でこの広がり方ははっきり言って異常にも思えたが、集団に蔓延する恐怖心というものはやっかいなもので中世ヨーロッパのパンデミックにも似た混乱状態が世界を覆っていた。

「まぁでも仕方ないわね。病気は怖いもの」

 ゆなはため息交じりにそう呟くと紅茶に目をうつした。つまらなそうにする自分の顔がゆらゆらと映っている。せめて何か気分を変えるような楽しいイベントでもできればいいのだが・・。

「暇ねぇ」

 再び小さくため息をついた。

「お嬢様、ひなまつりなどはいかがでしょうか?」

 玄武が手にした手帳を見ながら提案してきた。

「ひなまつり・・いいわね!庭に梅も咲いてるし、飾ったら華やぐわね」

ゆなはテーブルから離れると窓辺により庭に小さく花をつけた梅の木を眺めた。

「せっかくだし、着替えてみようかしら。確か振袖があったわね」

ゆなはそう言うと、スマートフォンを取り出してひな祭りの画像を検索した。

「ふんふん…お内裏様、三人官女…素敵ね。でもこの感じだと振袖ではないかしら」

 ゆなはそばにいたメイドに画面を見せつつ、色々と着飾った少女たちの衣装を吟味していく。

「こちらは十二単や束帯などの平安時代の宮中で着られていた衣装ですね。やはり豪奢で趣があって素敵ですねぇ」

「そうね。でもこれはなかなか着る機会はなさそうだわ」

「神社の結婚式のプランとして着られる所もあるそうですよ」

「あら!いいじゃない素敵ね」

 きゃいきゃいと2人でお喋りをしているのを横目に玄武は電話をしに席を外した。話している内容は聞き取れないが何やら真剣な顔でやり取りをしているようだ。

 しばらくして玄武はスマホをしまうとゆなたちの傍へとやってきた。

「お嬢様。本家のサコ様が雛祭りの衣装や舞台をご用意なさっているとのこと。いかがなさいますか?」

「ん?」

 ゆなは玄武の突然の提案にきょとんとした表情で答えた。

 3月2日。雛祭りを明日に控えた昼のことだった。

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