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Mamemaki War 2

 2月1日。

 1月のバタバタとした忙しさもひと段落し、屋敷もようやく平常通りの日常が戻ってきた。こうして思い返してみると、なんだか1月の記憶は曖昧になっている感じがする。それくらい毎日何かしらのパーティやら身の回りのことに気を取られていたのだと分かる。

「はぁ、なんだかこうしてゆっくりするのも久しぶりね」

 すっかり腰を落ち着けてしまった大広間の自分の席で、私は昼食の後の紅茶を楽しんでいた。そばには玄武や霧島もひかえ、二人もテーブルについて寛いでいる。

「お疲れさまでございましたお嬢様」

「すげぇ怒涛の忙しさだったな」

 普段から忙しさに慣れている二人だったが、さすがに毎日寝る間もないほどに働きづめともなると疲労の色が色濃く残っている。

「二人もお疲れだったわね。1月はいつもこの調子ね。2月ってなんかイベントとかあったっけ?」

「節分とバレンタインがございますね」

 そういえばそうだった。去年はまだ自分のことで手いっぱいだったから意識していなかったが、世間ではもうそういうシーズンなのだ。

「お。ゆなからチョコ貰えんの?」

 霧島が椅子をキコキコとシーソーのように揺らしながら軽い感じで聞いてきた。

「そうねぇ、皆にはお世話になっているからあげてもいいかもしれないわね」

「お!マジか。言ってみるもんだな!手作りか~?」

「それもいいわね。お菓子は作ったことないけど」


「失礼いたします」

 ふと談笑している私たちのテーブルに一人の女性が声をかけてきた。

 掃除担当部署チーフの棗だ。

 見れば他にもメイドたちが彼女の後ろに控えている。

「仕事の途中でしたがお嬢様がバレンタインにチョコをお作りになられるとか・・」

 棗がピシッと背筋を伸ばすと、後ろのメイドたちもそれにならって姿勢を正した。

「不躾ながら、私ども花組にもお嬢様の手作りチョコを頂きたいと思います!」

 まるで軍人が敬礼でもするように高らかに宣言した。内容はチョコが欲しいというたわいもないものだが。

「待ってください!私たちもお嬢様のチョコレート欲しいです!」

 彼女たちの後ろにさらに別の団体の子たちが加わった。洗濯担当の雪組のメイドたちだった。

 その中の金髪の少女がそばまで駆け寄ってくる。部署チーフの瑠璃だ。

「お嬢様!私たちもお屋敷のために頑張ってます!ご褒美にチョコください!」

 瑠璃は腕を上下にぶんぶんと振りながらすり寄ってきた。その様子はまるで犬のようで可愛らしく思える。さながら棗は猫だろうか。

 その様子を見て棗はやたらとげとげしい口調で美雪を諫め始めた。

「あら、屋敷に何人の仕えている者がいると思っているですか?お嬢様おひとりにそこまでのご負担をおかけするつもり?少し考えれば分かるのに頭が足りないのかしらねぇ」

 するとさきほどまで可愛らしくすり寄ってきていた瑠璃の表情は一変し、まるで相手を視殺しそうな目で棗を見つめた。

「は?だったらあんたたちが我慢すれば済む話じゃないの?お嬢様のチョコを図々しくも自分たちだけで独り占めしようだなんておばさんの考えることはずるいのですねぇ」

「「あ!!!!!!?????」」

 二人がまるでボクシングの試合前に行われる選手同士のように顔が触れそうなくらいでの距離で睨みあうと、それぞれ後ろにいる子たちも同様ににらみ合い火花を散らした。

 以前クリスマスパーティの時に争っていたのもこの二人だ。メイドのなかにも部署があり、普段は屋敷が円滑に維持できるよう見事に連携をしているがこういう時になるといつもこうやって反目しあっている。


「お、落ち着きなさい。大丈夫よ。頑張れば全員分作れるから・・」

 そう言うと今度は2人してそばにひざまずいて言った。

「いえ!お嬢様にそんなご負担をかけるわけにはまいりません!」

「そうですよ!お嬢様!そんなご無理なさったら手首傷めちゃいますよ!」

「ええ!」

「「この子(人)が我慢すれば済む話です!」」

 最後の言葉は2人仲良くハモッったが、再び顔を突き合わせ威嚇し始めた。

「もういいから落ち着きなさい!」

 私はそういうと二人の頭に手を置き、優しく撫ではじめる。

「お、お嬢様・・ん」

「お嬢様~ふふ~ん」

 私が二人の頭を撫でると、さっきまでの剣呑な雰囲気をおさめご機嫌な様子で大人しくなった。正直、ホントに犬・猫の両方を相手にしているような気分になってくる。

 とりあえず二人を落ち着かせることはできたが、私は内心どうしようか考えあぐねていた。

「お、お嬢様。これはいったい」

 いつの間にかロゴが後ろで控えていた。部屋に入ってきたはいいが、2人の剣幕を見て声をかけるタイミングを失っていたらしい。

 私は簡単に事の顛末を説明した。二人を撫でている手は止まってはいない。

「なるほど。それは一筋縄では解決しなさそうで」

 ロゴは何とも言えないといった表情でいまだ撫でられて恍惚の表情でおとなしくしている二人を見た。

「ええ、何かいいアイデアはないかしら」

 ロゴはしばらく腕を組んで考えていたが、ふいに提案を口にした。

 これがのちにとてつもない開戦の火ぶたを切るとは思わずに。

「それではサバゲーで勝負してみてはどうでしょう」

 ロゴはやや冗談交じりに提案を述べた。

 しーんと部屋に静寂が訪れる。

「な、なんちゃって・・・」


「「それいいですね!!!!!」」

 二人はまたハモらせながらロゴの提案に同意した。

「実力で権利を獲得すれば、誰も何も文句はつけられません!いいでしょう!!」

 棗が威勢よくそう叫ぶと、瑠璃もそれに応えるかのように叫んだ。

「ならいっそ屋敷の人たち全員で決めましょう!どの部署がチョコを頂けるか!」

 二人の担当メイドたちも口々に同意の言葉を叫び、部屋中合戦の鬨の声があがった。

 こうしてバレンタインチョコ争奪戦「Mamemaki War」が開戦となった。



掃除担当花組

棗 涼子 19歳

クールな眼鏡美人。性格は生真面目。

お嬢様大好き。


洗濯担当雪組

東藤 瑠璃 17歳

金髪。家事は完璧にこなせる万能少女。

お嬢様大好き。


料理担当月組

大槻 詩央 20歳

おっとりとした執事。料理は抜群。

お嬢様大好き。

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