温泉旅行1
凛風ーリンファ
中国出身のITエンジニア。160㎝。スポーツ万能。
やや茶色の髪。
沙綾ーさあや
国交省勤務の官僚。153㎝。
代々官僚を輩出してきた一族の出。
融通の利かない堅物ではあるが、意外とノリはよい。
近視のため眼鏡をかけている。
一月も中旬に差し掛かり、人々も仕事始めや学校にもようやく慣れ始めた。年末から年始にかけては例年と同じく交通機関や観光地は相変わらずのこみようだったが、さすがにこの時期となるとある程度落ち着いてきたようでいつも通りの平穏さが戻ってきていた。
そんななか私は2人の友人と共に温泉旅行へと出かける予定を立てており、今日は朝からウキウキとした気分で身支度をすましていた。
今回は執事・メイドが追従はしない3人だけでの旅行だった。と言っても行くところはヴィアレット家が懇意にしている温泉旅館であるため、完全に見知らぬ地への冒険というわけではない。私もすでに何度か足を運んだことがあり、ちょっといつもと違う部屋で過ごすと感じるほどであるが、気の置けない友人二人との旅行となるとなんともわくわくとした気持ちがしてくる。
「じゃあ、お留守番お願いね」
私は玄関で見送りのために集まった屋敷の者たちに挨拶をかけた。
「お任せくださいませ。あちらにはすでにお荷物は運ばせて頂いておりますのでごゆっくりなさってください。」
にゃん太郎が一歩前に出て答えた。
「ありがとう」
最近、にゃん太郎の態度が軟化してきているのを感じる。今回、送迎なども含め誰も屋敷の者の随行は許していない。当然、メイドたちは反対したがにゃん太郎はヴィアレットが関わるホテル・旅館であればと意外にもあっさりとOKを出してくれた。
「じゃあ、行ってきます」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
総勢40人近くもの見送りを受けた私はすでに待機していた旅館からのリムジンへと向かった。
「お嬢様。お久しぶりでございます」
車を停めるガレージの扉の前で一人の女性が声をかけてきた。旅館に行くたびに世話をしてくれている専属の仲居さんだった。
「今日はよろしく頼むわね。二人はもういるのかしら」
「はい、すでに。お嬢様と会われるのを楽しみにされていましたよ」
停めてあったリムジンを遠巻きに眺めるとスモークのついた窓越しに確かに人影があるのを確認できた。
「私も楽しみだわ」
ガチャ――
女性が車の後部座席の扉を開けてくれた。
なかには二人の女性が前後に向かい合うように設置された座席に座っていた。
「あ、ゆな!」
進行方向側の席に座った女性が先に気づくと、両手をパーにしてこちらのハイタッチを待っている。
「凛風!久しぶりね!今日はよろしくね~」
私はそれに答えるように両手を重ねるときゃいきゃいと再会を喜んだ。一年のほとんどを海外で暮らす彼女とはよくボイスチャットをして会話はするがなかなか二人で会うのは難しい。それだけにこうして会えるのはとても嬉しかった。
「ゆなさん。今日はよろしくお願いします」
彼女に少し遅れて向かいに座った眼鏡の女性も同じように両手を差し出してくる。
「沙綾!こちらこそよろしくね」
続けざまに彼女にもハイタッチをして返答した。彼女の方は逆に一年のほとんどを日本で暮らしてはいるが、会ったり話したりはなかなか難しい。というのも彼女の職場は日本の中枢ともいえる場所、行政機関だからだ。もちろん友人同士の関係に変わりはないが、超人的ともいえる毎日のハードスケジュールをこなす彼女とはそう簡単にはすり合わせられる時間は作れない。こうして今回一緒に旅行に行けるのはとてつもない幸運だった。
「お嬢様。外は冷えますので続きはなかで」
しばらくすると、仲居の女性がなかに入るよう促した。
「あら、そうね。よし!早く出発しましょ」
いそいそと車に乗り込むと、重厚で重そうなドアが静かに閉められる。
どうやら家で使っている車と構造はあまり変わらないようだ。
すぐに仲居が運転席に乗り込む。
「それでは出発いたします。到着までの2時間弱の車の旅、どうぞごゆるりとおくつろぎくださいませ」
こうして私たちはたった一日だが、立場も何もかも忘れた温泉への旅行へと向かった。




