正月ー初詣 車にて
ゆな=ヴィアレットの屋敷に霧島やシルヴィアが赴任してからすでに幾年月が経った。最初こそ姿形が人間と異とする自分の主に戸惑うこともあったが、自然と普段通りの振る舞いを見せることができるようになり、変わらず業務へと励んでいる。しかし、霧島にとってはなれない業務が一つあった。それはゆなのお出かけだ。
「それにしてもすげーな」
霧島は主の乗るロールスロイスとその車両を囲むように並走する車両を見て一つため息をついた。
おそらくこの車両列だけでも2億円はくだらない。こんな仰々しい行幸は総理大臣でもやらないだろう。たとえ見たことのない車であっても、この中心に乗る人物が只者ではないことぐらいは分かる。この年始の忙しい時期でもこの車列に近づこうとする一般車は一台もなかった。
「これがどれほどのものか分かってんのかねー、あのお嬢様は」
霧島は再び少し呆れたような疲れたようなため息を一つ漏らすと、自分の握るジャガーのハンドルを撫でた。高級な革張りの座席がなんとも落ち着かない。
「まぁいいじゃない。お嬢様の御身に比べたら、こんな車なんてぺら紙一枚に等しいわよ」
隣の助手席に座ったシルヴィアが窓の向こうをじっと見つめながら淡々とした声で返した。視線の先にはもちろんゆなのロールスロイスが走っている。
「まぁな。でも周り見てみろよ。こんなとろとろ走っても近づこうなんてまねする奴は一人もいないぜ」
霧島はハンドルを片手で器用に操作しながら、片腕を窓側にもたれかからせた。本当は煙草の一本でも吸いたいところだがあいにく車内は禁煙だ。
「近づこうものなら・・これよ」
シルヴィアはそういうといつの間にか手にしていたナイフの刃をちらちらと撫でた。その様子を見て、霧島は慌てて話題をそらすこととした。
「あ~、それにしてもよ。サコ様は相変わらずのお姿なんかね?あんな見た目で3児の母なんて考えらんねーな」
事実、ゆなの母親であるサコの見た目は非常に若い。というより幼い。ゆなと並んでいる姿はほとんど同学年かそこらにしか見えない。
実際のところ、サコもまたゆなと同じく人とは違うのである。彼女の場合はドールではなく、妖狐であるが。年齢はなんと300歳以上。人とは違う時の中をゆっくりと歩む不可思議な存在なのである。
「言葉を慎みなさい。まぁ、でもそうね。変わらず元気で可愛らしいお姿よ。お嬢様とも仲良しでもう・・はぁはぁ」
シルヴィアは息を荒くしながら熱のこもった目でゆなの車を見つめた。
―――ぞくぅ
ゆなは突然全身に走った悪寒にぶるると小さく身震いをした。車内は十分に暖房がきいているはずなのになにやらぞくぞくとした寒気が続く。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
隣に座ったもきゅが心配げに覗き込んでくるのを手で制した。
「ええ、大丈夫よ」
そう言いつつもゆなはしばらく自分の腕や肩をさすっていた。




