にゃん太郎のおやすみ2
2019年12月24日 19:05
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ヴィアレットの屋敷の地下室を恒常的に訪れる人間は実のところ屋敷の半分にも満たない。ヴィアレットの屋敷に務める者の証である黒時計は地下室及び部屋に出入りするためのスマートキーの役割ももっているが、地下室はシェルター・武器庫・金庫・倉庫などに使われ、霧島や玄武などのようなSPくらいにしかなじみがない。
「ふむ、ここに来るのは久しぶりね」
2階分ほどの少し長い階段を降りると屋敷よりも広い幅の廊下に出た。緑と赤の幾何学模様の壁紙が貼られており、意外にも圧迫感は感じない。シェルターの役割も持っているため、多くの人員が通れるよう広く作られているらしい。階段を降りてすぐの右手側が武器庫となっている。まるでブティックのような洒落た外観ではあるが、それでもやはりどこか物々しい雰囲気がある。ガラスも高層タワーに使用されるような厚みがあってしっかりとしたものだ。
地下室への扉と同じ要領でなかに入ると、壁一面に飾られた様々な銃火器や防護服などが鎮座している。私が練習に使っている弓のレプリカもそこに飾られていた。
「おや、お嬢様。このようなところにお珍しい」
室内で控えていた管理責任者であるグスタフが出迎えてくれた。
「お疲れ様。しばらくぶりだったわね」
実は12月に入ってからほとんど弓の稽古はできていない。師走というだけあってなかなか時間が取れなかったのもあるが、単純に少しさぼりがちなだけの運動不足だった。
「お久しぶりでございますね。今日は弓の稽古を?」
グスタフは気を利かせて私の弓を取ろうとしてくれる。
「あぁ、違うの。私ってあまり屋敷のことを把握してないでしょ?ちょっと見に来たのよ」
「左様でございましたか。武器庫のことはこのグスタフに何でもお申し付けくださいませ。よろしければこちらのお席へ」
彼に促される形で奥に備え付けられたテーブルに腰かけると部下のメイドがお茶菓子を用意してくれた。なんとも気の利く男だと思う。
「ありがとう。あまり長居はしないわ。自分の仕事に戻ってちょうだい」
グスタフは恭しく一礼すると自分の持ち場に戻っていく。とはいっても、変わらず室内を見回ったり射撃場からでてくる者の対応が主なので声をかければすぐの位置だが。
私は出してもらったお茶を飲みながら、部屋を出入りする者や自分にあう武器を見繕っている様子をじっと眺めていた。奥まった場所に陣取っているので目立ちはしないが、よく考えると社長が支店に視察に来ているようで少し気後れしてしまう。
「二人はここによく来るわよね?霧島もシルヴィアもナイフとか使うし」
二人が付くようになって一年近く経つが実際ほとんど武器を扱うところを見たことはない。
「ん~、正直俺はほとんど来ねーな。ナイフは玄武んとこの鍛冶場で研ぐし、銃弾使うときくらいか」
「私も同じく。銃はほとんど使わないので・・」
彼らのように自分専用の武器を自分で管理する者は何名かいる。特に玄武は自分の鍛冶場を持っており、彼の部屋に飾られている日本刀も自作であった。
しばらくすると、グスタフが私の弓を手にそばにやってきた。
「お嬢様。一応、弓の方ですが弦を張り替えておきますので今度いらした際にはご確認をお願いいたします」
「あぁ、ありがとう。ねぇ、毎日どれくらい人が来るの?結構訓練に来る子が多いみたいで驚いたわ」
この10分の間に少なくとも3人は出入りしているのを見た。通常の業務ではあるが、もう年末になるのに訓練に熱心なのは感心するほかない。
「波はございますが、15人は来られますね」
15人という数字を聞いて驚いてしまう。SPとして入っている執事・メイドよりもよほど多い。もちろん申請さえすればSP以外にも訓練は可能だが、通常業務についている子たちまでも訓練に参加しているのは意外だった。
「日課として来るのかしら」
「そうですね。こうして訓練に来る執事やメイドたちと、あとは露五さんでしょうか。あの方はよく射撃訓練をされるので」
「あら、そうなのね。彼は庭での姿しか見ないから意外だわ」
露五が元兵士というのは聞いていたが、彼が銃火器を扱っている姿は見たことがない。
「2日と空けずいらっしゃいますよ。その際は1時間ほどみっちりとされて・・玄武さんとご一緒の時はよく話されてますね」
言われてみれば彼らが一緒に作業や雑談をしたりしているのはよく見かける。なるほど、こういう場での交流で仲良くなっていたかと納得した。
こうして聞かされると、いつも一緒にいる執事やメイドたちの日常をほとんど知らなかったのだと思い知らされる。
「ふむ・・彼らのことはなんでも知ってる思ってたけど全然理解していなかったのね」
考えてみるとにゃん太郎が旅行に行っている間にこうして屋敷を見て回るのはいい機会かもしれない。私は残ったお茶を飲み干してしまうと椅子から立ち上がった。
「ありがとう。もう行くわ。邪魔してごめんなさいね」
「いえ、とんでもございません。お嬢様のお屋敷ですのでいつでも自由におこし下さいませ」
グスタフは再び恭しく頭を下げた。室内の執事やメイドたちもあわせて礼をしてくれる。彼らのことも一人一人理解したいと思った。




