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にゃん太郎のおやすみ1

 ヴィアレットの屋敷が本格的に動き出すのは朝6時を過ぎてからだ。正確には朝昼晩関係なく交代で誰かが常に屋敷を管理しており、それぞれの持ち場から人がいなくなることは滅多にない。

 だが、今日に限っては執事もメイドも誰も自分の持ち場にはいない。

 床や窓を拭く者も、キッチンでいつも慌ただしく作業をする者もいない屋敷はしんと静まり返っている。


「それでは皆さま、あとのことはお任せいたします」

 玄関の扉を背ににゃん太郎がぺこりと一堂に向かってお辞儀をする。


「任せておきなさい!お屋敷のことは全部私たちで何とかするわ!」

 ゆなはそういうと腰に手をあて堂々と胸を張った。後ろには屋敷中の執事とメイドたちが居並び、まるで会社の功労者を送るような壮麗な光景だった。

「執事長、ここは私たちに任せてゆっくりなさってください」

にゃん太郎のもとでチーフをつとめるメイドが一歩前に出て礼をする。後ろに続くメイドたちもそれにならった。


 執事長であるにゃん太郎の生活はとてつもなく忙しい。

 一般家庭の生活に休みがないのと同じように、1年365日の生活を取り仕切る彼に休みらしい休みはない。加えて本家であるヴィアレット家との付き合いもあるし、屋敷の運営や財産に関わることすべてを把握する必要があった。魔力を持ち、人間と同等以上の知識を持つにゃん太郎でもさすがにこれはオーバーワークだった。

 そこでゆなをはじめ執事・メイドたちは、日頃の感謝を込めてにゃん太郎に一週間の休暇を取ってもらうことにした。最初こそ渋っていた彼だったが、クリスマスパーティも終わり、ほとんどの業務らしいものは全て完了していたし、何より主人であるゆなから休めと言われた以上少し遠慮がちながらも休暇をとることを了承した。

「ヴィアレットが懇意にしている旅館だから、ゆっくりしてくるといいわ。帰るのは31日だったかしら」

「はいお嬢様。31日の夕方ごろには戻らせて頂きます。お屋敷のことお任せして本当に大丈夫でございますか」

 にゃん太郎はやや不安げに尋ねた。

 当然といえば当然である。彼も生まれてから初めての休暇。屋敷のことを考えずに過ごす日はほとんどなかったのだ。

「大丈夫大丈夫!メイドたちも普段のことをするだけでしょ?必要な事務もほとんど終わってるし、心配ないわよ!」

 ゆながそういうと、後ろの執事・メイドたちも頷く。

 

「それでは行ってまいります」

 いつもとは逆に自分が見送られる立場になったにゃん太郎は少し居心地の悪さを感じながらも決心したように歩を進めた。

「行ってらっしゃい!」

「「「行ってらっしゃいませ!!」」」

 ゆなに続いて屋敷の者たちが口々に見送りの言葉をかけた。

 バタン・・と玄関の扉が閉まった。

 

「さて・・まずは何をしようかしら」

 扉が閉まると、ゆなはさっそくラウンジの方へと向かった。

 暖炉から少し近い場所に、普段屋敷の者が使うのとは別の立派なテーブルと椅子が一式備え付けられていた。ゆながそこに腰かけると、給仕たちがいそいそと朝食と紅茶を出してくれる。今日はポーチドエッグとパンだった。

 最近は時間がある時は自室ではなく、ラウンジや食堂で食事をとることが多い。その際は当然、執事やメイドたちも一緒だ。最初こそ皆遠慮してゆなの食べ始めから終わりまで緊張した面持ちでいたが、今は大部分が慣れむしろ今か今かと待ちわびるようになった。

 図らずも功を奏したのが、部署ごとの執事・メイドだちの交流が増えたことだった。チーフたちは立場上交流が多いが、その下で働く者同士が必ずしも交流があるわけではない。ゆなも一人寂しく部屋で食べるよりも賑やかな食卓を囲むことができて満足だった。

 

 ゆなはバターをパンにつけながらにゃん太郎のいない屋敷でどう過ごすか思案していた。

「大掃除とかはどうなの?」

とりあえず年末にむけて何か必要なことはないかあげてみた。

 給仕をしているメイドが答える。

「はいお嬢様。普段より徹底してお掃除はさせて頂いておりますので、特に必要な個所はないかと・・」

 もともととても広い屋敷なだけあって、メイドたちはグループごとに業務についている。それぞれのチーフの元に動いている分特にいつもと変わったことはない。

 一応あれこれと何かできそうなことを考えてみたが、特別何か必要なことはなさそうだった。強いて言うなら普段通りの生活をすることぐらいで、にゃん太郎不在の際のマニュアルもきちんと用意されていた。

「さすがね・・う~ん。でもにゃん太郎にああ言った手前私も何かしたいわね」

 ふだんにゃん太郎に限らず屋敷の者たちには世話をかけっぱなしだ。特に必要な業務がない以上、暇を持て余すのもなんだか忍びない。


 お昼ごろになるとゆなはラウンジのソファに寝そべりながらタブレットでゲームをしていた。相手は霧島とシルヴィアである。

「そういえば、地下の部屋ってほとんど見たことないわね」

 ふとゆなはゲーム中に呟いた。

「あ~、確かにゆなは降りることはないわな」

 霧島は喋りながらも器用にくいくいとキャラクターを操作していく。

「確か弓のお稽古をされる前に一度武器庫長の所へおいでになったきりでしたか」

 シルヴィアも答えた。彼女も霧島と同じテーブルについている。

「正直、私屋敷のなかはあまり知らないのよね。3階と、お風呂やラウンジくらいしか行かないもの」

「ん~、そりゃまぁな・・」

 ゲームのキャラクターが構えた銃が画面のなかでゾンビを容赦なく倒していく。


「ふむ・・」

 ゆなは少し考えこむと、進めていたゲームを途中で切り上げてしまう。

 そしてタブレットをソファに放り投げると一言。

「ちょうどいいわ。この機会に屋敷を見て周りましょう」

 霧島とシルヴィアはぽかんと気の抜けた顔でゆなを見つめた。

 

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