クリスマス準備
「執事長様、こちらは準備できました!」
「おぉ、ご苦労様です」
西側で椅子や絨毯の準備が整った報告があった。
「執事長~、これどこ置きますか?」
「それはキッチンの方に運んでくだされ」
東側の搬入口から大量の段ボールが運び込まれている。
12月に入ってから、ヴィアレットの屋敷ではとあるイベントに向け、業者や執事・メイドたちが慌ただしく準備をしていた。
にゃん太郎は部屋の入口に移動すると全体を俯瞰するように見つめた。
「ふむ。これで大まかな準備は完了ですな」
一週間前から、いつもは執事・メイドたちがくつろぐラウンジは閉鎖されている。テーブルや椅子が撤去され、代わりにまるで晩餐会で使われる長テーブルが2列設置されている。窓や壁一面にはクリスマスをモチーフにした絵画やきらびやかなモールなどが飾られており、なんとも楽し気な雰囲気である。
ふと視界を窓にやると、やや大ぶりな木を数人の男たちが一生懸命に運んでいた。にゃん太郎はメイドに命じて窓を開けさせる。
「執事長」
開け放たれた窓からもみの木を傍らに露五が顔を覗かせた。
「お疲れさまです。随分と立派な木ですな」
にゃん太郎はもみの木の葉を撫でながら満足げに言った。
「裏の山で自生しているなかでもとても良いものを採ってまいりました。なかにお持ちしても?」
「よろしくお願いいたします」
にゃん太郎からOKを貰った露五は満足げに頷くと部下の執事たちとともにもみの木を運んでいく。
「執事長様。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
にゃん太郎がふりむくと、女社長であるレムが書類を片手に立っていた。後ろにはトランクを抱えた部下を従えている。
「おお、レム殿。このたびはありがとうございました」
にゃん太郎がぺこりとその小さな体を折った。
「こちらこそ。このたびは弊社をご利用いただきましてありがとうございます」
レムはにゃん太郎の目線にあわせるように両膝をつくとぺこりと頭を下げた。それでも二人の身長差はかなりある。
「それにしても本家とは別にこちらでもクリスマスパーティとは随分豪気でございますね」
サインを貰うためそばのテーブルに移動すると、レムは手にしていた書類をにゃん太郎に差し出した。にゃん太郎は肉球の手で専用のペンを持つとさらさらとサインをしていく。
「せっかくのクリスマスです。本家の堅苦しいパーティよりもこちらで楽しんで頂こうということでしてな」
「まぁ、執事長はお優しいですね」
レムは両手をあわせると童女のように微笑んだ。にゃん太郎は目を閉じると静かに首を横にふった。
「いえ、実はこれは執事・メイドの総意なのです。お嬢様に楽しいクリスマスパーティを過ごさせてあげたいと・・。直接私に嘆願書が届けられたほどでしたからな」
サインを終えた書類をレムに差し出すと、にゃん太郎は忙しそうに準備をする執事・メイドたちをじっと見つめていた。彼らのゆなを思いやる気持ちになんとも言えないいじらしさを感じていた。
「なるほど・・お嬢様は愛されておられますね」
レムは書類を受け取ると後ろの部下に手渡し、自分もまた執事・メイドたちを見つめた。
しばらくすると、陶器製の杯に入ったクリスマスツリーがラウンジに搬入されてきた。執事やメイドたちが口々に歓声をあげた。
「おぉ~、立派ですね!」「本物のもみの木だ~」「ね!飾り付けとかしよう!」
一人のメイドがそういうと、いったん手を休めオーナメントやモールを綺麗に飾り付けしていく。特にメイドたちはきゃいきゃいと楽しそうだった。
ふと、にゃん太郎が窓の外を見た。
「おお、雪ですな」
しんしんという音が聴こえてきそうな雪が少し暗い空から降ってきていた。




