クリスマスパーティ
12月25日。
私がこの世に生を受け、二度目のクリスマスがやってきた。
去年はまだ屋敷にいる執事・メイドは少なく、家族と友人を招いて細やかながらパーティをした。私はまだまだこの世界に疎く、それだけでも十二分に幸福を感じてはいたが、だんだん知識が増えるにつれ、いつかはこの屋敷をいっぱいにしたいと夢想したものだった。
「「「「「メリークリスマス!!!」」」」」
私の掛け声とともに、屋敷のラウンジに集まった人々が一斉にグラスを掲げた。
ラウンジに置かれているいつものテーブルや椅子は撤去され、代わりに部屋を縦断するように長いテーブルが2つ並べられている。清潔で真っ白なテーブルクロスには美味しそうな料理が盛られ、みなそれぞれ自分の皿にうつしていく。
部屋の隅にはキラキラと輝くイルミネーションをふんだんに飾り付けたクリスマスツリーが置かれ、暖炉のパチパチと燃える薪が部屋を暖かく包み込んでくれる。まるで街中の光や熱、そして人々の楽しい笑顔を全てこの場に集めたように錯覚しそうだ。
私はソファに座ると隣に置かれた熊のぬいぐるみを抱きしめた。柔らかくふわふわとした毛がお腹をくすぐる。私はじんわりと心に湧いてくる嬉しさや幸福感を噛みしめていた。一人ゆらゆらと前後に身体を揺らしながら、この抑えきれない気持ちをなんとか制御しようとしている。
「お嬢様!メリークリスマス!」
「あぁ~~~~やっぱりお嬢様かわいいです!!素敵!」
「え・・・お嬢様おへそ・・。え・・?すこ」
代わる代わるメイドたちが挨拶にやってきた。
大半がいつものメイド服ではなく、思い思いの衣装に身を包んでパーティを楽しんでいた。衣装係のメイド手製のサンタ服やトナカイなど仮装を楽しんでいる子もちらほらとみる。
「ゆなお嬢!お招きいただき感謝する!」
メイドたちと入れ替わりに倉音がグラスを片手にやってきた。
いつもの詰襟のような服装ではなく、今日はややシックなツイードスーツに身を包んでいる。ネイビーブルーがクリスマスの華やかな雰囲気にあってとてもお洒落だ。
「いらっしゃい倉音さん。今年はとてもお世話になったわね」
お互いにグラスを片手に軽く挨拶をする。
「ええと、あなたからは・・ごめんなさい、何を頂いたのかしら?」
できるだけ贈られたものにはラベルを付けて前もって確認したつもりだったが、なにぶんこの量だ。さすがに一つ一つ把握はできなかった。
足元やソファに置いた箱を確認していくが見つけられない。
「うむ!私はこちらを贈らせて頂いたぞ!」
倉音はそう言うと、私の左隣に座った髭の熊さんぬいぐるみを取り上げた。
「・・・ぷふっ!!」
私はそのなんとも可愛らしいセンスに思わず吹き出してしまう。手にしたグラスから飲み物がこぼれそうになり、慌てて手で押さえた。
倉音は笑われたと思ったのか少し怪訝な顔だ。
「ふふふ・・ごめんなさい・・」
私はその顔を見て謝ったが、それでもこらえきれず倉音を前にしばらく笑っていた。そしてひとしきり笑うと、グラスをテーブルに置いて熊さんぬいぐるみを抱きしめた。
「はぁ・・ありがとう。とっても可愛いわ・・!大事にするわね」
「う、うむ!喜んでいただいて何よりだ!少し早いが、来年もどうぞよろしくお願いいたす」
倉音はドギマギと少し変な口調になりながら一礼して去っていく。
ちなみに今私が着ている衣装は今回もまた衣装係のセレクトによるものだ。最初に衣装合わせをする時は、いつもの服と比べて開放的なのでさすがに少し恥ずかしかったが、こうして暖かい部屋で過ごす分にはとても楽に過ごせた。白いポンポンが首元のチョーカーやリボンにつけられ、赤色のベルベット生地がすべすべして気持ちがいい。
「お嬢様~写真お撮りしますね~」
いつもの薄緑の服に身を包んだ写真屋の少年が、メイドたちと共にやってくる。手にはいつものカメラではなく一眼レフのデジタルカメラを携えている。
「あら、ありがとう」
私は左手にグラスを持ちなおすと、首から垂れるポンポンを軽く持ち上げポーズをとった。
カシャっという軽快なシャッター音がした。
「あ~~~、やっぱりお嬢様素敵すぎます!!!」
「こちらもまた頂けますか!!!!??」
メイドたちが口々にカメラに映る私の画像を見ながらきゃいきゃいとはしゃいでいる。
「お嬢様。ご要望のものをお持ちしました」
玄武があるモノを手にソファのそばにやってきた。
「うわ!!すごい!実際見てみると迫力あるわね」
それは専用の台に乗せられたハムの原木だった。燻製された香ばしい匂いが漂ってくる。
以前サコママがハムの原木をうちに置いて友達をびっくりさせたいと笑い話で言っていたことがあった。
私はそれがなんとなく気になって仕方がなかったので、冗談半分に玄武に手に入らないかと聞いていた。保存はきくがそこまで消費する量が多くはないため、クリスマスパーティで出そうということになっていたのだ。実物を見ることができて何となく満足した。
「ありがとう!切り分けてみんなに出してあげて。」
玄武が離れようとするのを少し呼び止める。
「悪いわね、せっかくのパーティなのに仕事をさせて」
「いえ、私は下戸ですし、こうして給仕をさせて頂くのも楽しみでございます」
玄武はそう言うと、そばにあった熊のぬいぐるみからサンタ帽を取り上げると自分の頭に乗せる。
「お嬢様、メリークリスマス」
いつもの堅い表情を崩し、少しだけ微笑むと自分の持ち場へと戻っていった。
クリスマスと言えば、イルミネーションやプレゼントも大きなイベントだが、やはりご馳走が欠かせない。
テーブルを2枚並べているがその真ん中を通ることはできない。そこにはちょうど部屋の中央、つまり部屋のどの位置からも見える位置に巨大なクリスマスケーキが置かれている。テーブルの豪華な料理は全てキッチンを担当する者達によるものだが、このケーキだけは何を隠そう霧島の手によるものだった。
料理に縁はないと勝手に思い込んでいたが、実はどうして彼は一通りの家事はできるらしかった。ショートケーキから順々にチョコ、抹茶、モンブランなど色とりどりの味が楽しめ、スイーツが好きなメイドたちは大喜びだった。
一番上の小さなケーキにはサンタ服を着たゆな=ヴィアレットの砂糖菓子が置かれている。
だが、そんな今回の立役者の一人である霧島の姿はラウンジにはない。
ある程度自分の仕事も終わり、バーカウンターでのんびりと一服でもしようとすると、
「タバコは外で!!」
と言われてしまい、お嬢様の言いつけ通りこうして一人寂しく一服している。窓一枚を隔てて向こうの暖かくにぎやかで楽しい雰囲気に、一人凍えながら寂しく一服する姿に涙が出そうだった。
「さみぃ~~~」
一応コートを羽織って出てはきたが、ちらちらと雪が降るようなこの寒空の下ではあまり意味がなかった。
口元に煙草をくわえたまま、身体を抱くようにして寒さをしのいでいる。
「にゃー」
鳴き声がしてふと足元を見ると、一匹の白猫がこちらを見上げている。
その真っ白な身体が雪と擬態していてもう少したくさん積もっていたらどこにいるか分からなくなりそうだ。
「おー、なんだモチ。付き合ってくれるのか~?」
霧島は身体を抱いたまましゃがむとやや乱暴にモチの白い身体を撫でた。冷えた手にじんわりとぬくもりがありがたかった。
モチはしばらく撫でられるとそのまま屋敷のなかへと戻っていく。
「ん?」
自分も中に戻ろうと、窓を開けると何やら部屋が騒がしい。
何組かに分かれたグループがお互いににらみ合ったまま動かず、その周りを何人かが取り囲んでいるといった形だ。
「おい、ゆな。どうしたんだこれ」
ソファに座って事態を見つめていたゆなに霧島は尋ねた。
「あぁ、ちょうど良かったわ」
ゆなは現在起こっている争いのあらましを掻い摘んで説明するが、早い話ケーキの上の砂糖菓子を誰がゲットするかという話である。
「それがなんであんな殺伐とした勝負になるんだよ」
さすがに拳闘や武器決闘はNGなので、ジャンケンで決めることになったが、みなお互いの出す手を読みあい睨み合ったまま微動だにしない。それでも漂っている剣呑な雰囲気はとてもクリスマスパーティの余興とは思えないものだった。
「ん~何とかならないかしら」
ゆなは額に指をあて考え込んでしまった。
「型は残ってるし、作ろうと思えば作れるぜ」
ぴたっと部屋のなかに響く歓声がやみ、静寂が訪れた。
ゆなをはじめ、先ほどまでにらみ合いをしていたメイドたちが全員霧島の方を見つめている。
「あ」
霧島は脱兎のごとく駆けだすが、ラグビー選手のようなタックルを前になすすべなく捕らえられてしまう。
時計を使おうと取り出すが、それもあっという間に没収されてしまった。
「霧島・・この騒動を抑えるための生贄になってね・・」
ゆなは手にしたシャンパンを優雅に飲み干した。
霧島は結局、夜を徹してゆな=ヴィアレットの砂糖菓子を作る羽目になった。
しかもタバコの匂いを消すために徹底的に風呂で洗われて。
総計27個。次の日、霧島の身体は甘い匂いに包まれていた。




