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 クリスマスをあと10日に控え、街を歩く人々はどこか浮かれた雰囲気だ。あちこちのお店にはサンタの帽子をかぶった店員がおり、はたまたサンタやトナカイをかたどったお菓子が並び、見ていてウキウキとするようだ。

 そんな輝く街を眼下に一人の少女が手すりに腰かけていた。

「お嬢様?そんなところに座っていたら危ないわよ」

 こんな高層ビルの屋上まで人が立ち入ってきたにも関わらず少女は特に驚くそぶりは見せない。

「そうね・・大事な身体だもの、こんなところに座ってちゃ危ないわね」

 そういうとゆなは身体を後ろに倒した。一瞬、霧島とソアラは駆けだそうと反射的に構えるが、ゆなの身体は新体操でもするようにくるんと身体を一回転させ見事に着地する。

「へぇ、見事なもんだ。俺たちの主がこんなに動けるなんてな」

 霧島がそういうと、ゆなは二人とようやく対峙する形となる。

「お久しぶりねぇ、ドラキュリナ。何年ぶりの再会かしら?あなたが人を連れて歩くなんてついぞ見なかったことだけど」

 彼女は霧島の方をみながら、さも意外といわんばかりに大げさに手を振ってみせる。やはり中身が違うと、振る舞いも変わるものだと霧島は感じていた。

「私をご指名のようだから、あなたはそこで見ていて」

 ソアラはそう言うと、ゆなの方へ向かってゆっくりと歩を進めていく。

 霧島はその言葉に逡巡するが、ゆなの身体を操っている以上どうすることもできない。

 二人はしばらくの間特に会話もなくじっと対峙していた。

 ゆなは片手をゆっくりと頭上にあげると、突如手刀のように縦に勢いよくふった。ソアラは右に跳ぶと、いきなり床がバキンという音共に割れてしまう。いつまにか彼女の手には鞭が握られていた。

「ダメじゃない避けちゃ」

 彼女はそういうと釣竿でも戻すように引っ張り手元に鞭を回収した。

「次は当てるわよ~」

 再び鞭を振るおうとゆっくりと手をあげる。それに合わせソアラが素早く手を振るうとどこからか矢が向かって飛んでくるのが見えた。あまり早い速度ではなく、よけようと思えばまったくもって容易い。

 しかし彼女は避けるところか両手を抱くようにして広げ、向かってくる矢に身体をさらした。


「くっ・・!」

 矢が当たる寸前に軌道を変え、ゆなの身体のそばを通りすぎていく。

 かわりに彼女の振るった鞭がソアラの腹に直撃してしまう。パァンという空気を割る音ではなく、ドゴっという鈍器で殴りつけたような鈍い音が響く。

「あら・・惜しいわね」

 見ればソアラの腹部には10cmはあるナイフが深々と刺さっている。だが、よく見れば服の下に付けたコルセットにかろうじて阻まれ刃物が侵入するのを防いでいた。しかしまるでハンマーで殴られたような衝撃は伝わり、ソアラはその場にうずくまってしまう。

「ふ〜ん…。ドラキュリナが人の心配なんてね…あぁ、違うかこの子はドールだったっけ」

 ゆなの身体を借りた彼女は、口元に手をあてくつくつと笑う。

 不気味なほどに大きな月を背景に不敵に笑うその姿はいつもの朗らかな笑顔とはまるで違っていた。

「ふふ、中身が違ってもやっぱり屋敷の主ね。そんな笑顔でも品があるわ」

 ソアラはズキズキと痛む腹部を押さえながらもかろうじて立ち上がる。

「でも私の知ってるゆなちゃんの笑顔とは比べ物にはならないわね」

 彼女は特にその挑発に特に答えることはないが、それでも気分を害したのか眉根を寄せ無言で鞭を振るった。

 シュウンっという空気が裂かれる音が響いた。ソアラはすれすれの所で先端の刃物を避けるが、縦横無尽にうごめく鞭が時折身体をひっかけ、小さな裂傷と疲れが次第にソアラを追い詰めていった。

「儀礼済の銀を使ったダガーよ。これで切り刻まれて平気なバンパイアはいないわ」

 彼女はそう言うと、鞭の先端についているダガーを見せた。月に照らされギラギラと鈍く光る。

 彼女の言う通り、ドラキュリナであるソアラにとって銀の刃物は猛毒の刃そのものだった。普段なら歯牙にもかけないほどの裂傷でも一つ一つが激しい痛みとなって襲ってくる。

「やれやれ・・当分銀の刃物で切られるなんてことないと思ってたのに・・」

 ソアラはそう呟くと頬の傷を撫でた。再び手を振ると、矢が彼女の持つ鞭に向かって飛んでくる。

「鞭を叩き落そうってこと?そんなの無駄よ!!」

 彼女は頭上でいったん鞭を回転させると、横に薙ぐようにしてふるった。鞭の先端がぐるりとまるで意思を持つかのようにソアラへと迫る。当然、逃れるため横へ飛んだ。

「ほら!!」

 彼女はそう叫ぶと、手元を細かく操る。鞭の先端が軌道を変え、ふくらはぎに突き刺さった。

「~~~」

ソアラは声にならないようなうめき声をあげながらその場で膝をついてしまう。

「さぁ、これで終わりよ。どう?よく死の間際は走馬灯が見えるというけれど、これまでの人生を振り返ってる?その爪と牙にかかった者の人生はどんなものだったのかしら」

彼女はいつの間にかソアラの眼前に立ち、意地悪く笑いながら見下ろしていた。

「そうね。私がしてきたことは、取り返しのつかないこと。今さら後悔も何もないわ。生きるためだもの」

 息も絶え絶えになるほどの激痛をこらえながら必死に言葉を吐き出していた。ぜぇぜぇと肩で息をするほど疲れと痛みに耐えながら。

「でもその子に私を退治させるなんて許さない」

 いつもの余裕ある表情はなく、ただただ一生懸命に願う強い意志があった。

 ソアラはゆなを見上げるようにして懇願した。

「お願い…その子を離して」

ドサッ・・

 ソアラは薄れる意識のなか絞り出すように呟いたのを最後にその場に昏倒してしまった。

 彼女はしばらくの間ソアラを見つめていた。


「不思議な子ね」

 彼女はふぅと息を一つ吐くとくるくるとコードを巻き取るように鞭を回収すると、空中に向けて放り投げた。鞭は光の粒となり消えてしまう。

「ああ、確かにな。不思議どころか変なやつさ。この俺を執事にするくらいだからな」

 霧島はいつの間にか抜いたナイフを逆手に構え、じりじりと間合いを詰めようと隙を伺っていた

「やめときなさい。そんな必要ないわ」

 彼女がそういうと、突如ゆなの身体がふっと力がぬけて大きく傾いた。そのまま直立したまま倒れそうになるゆなを霧島は間一髪受け止めた

「もう少し様子を見るわ。その子に言っておいて…身体を借りて悪かったって」

 ゆなの口を通してではなく、どこからか響く声を聞いたきり姿を消してしまう。

 頭上の輝く月だけが彼らを見つめていた。

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