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アシストスーツ

 ヴィアレット家に仕えている執事・メイドは数多くいるが、そのすべてが家事だけに専念しているわけではない。執事長であるにゃん太郎などを除き、大半は日々決まった部署で一日を過ごしている。

 大まかにあげれば、掃除洗濯・料理・セキュリティ・SP・運転・教育・整備などがある。マンパワーが必要な場所や特殊技能にあわせて人員が配置されており、当然掃除などはさかれる人員も多い。逆に最も人員が少ない部署がある。それは技術部だ。

 屋敷の外にあるやや小さめの施設の廊下を執事長であるにゃん太郎が歩いている。後ろにはメイドが一人ついており、彼の小さな歩幅にあわせてしずしずと付いてきている。

 いわゆるラボと呼ばれるこの施設では、主にヴィアレット家で出資する企業の研究機関や執事たちの扱う武器などのメンテナンス、そして技術部の研究室として使われている。

 いくつかの個別の研究室を通り過ぎると、一つの部屋の前で立ち止まった。

 責任者のラベルには「巴」のネームプレートがはめられている。

 厳重な扉の前に設置されたインターホンを鳴らすと、部屋の主である巴が出てくる。

「お疲れさまでございます」

 にゃん太郎が深々と挨拶をした。

「あら、執事長様!おめずらしい!今日はどうされたんですか?」

 巴はにゃん太郎に目線を合わせるようにしてしゃがんだ。キャラクターもののスリッパがつま先からおれてひしゃげた形になる。

「実は折り入ってご相談が・・」

 巴は少し不思議そうにしながらもにゃん太郎を研究室に迎え入れた。


「ロボットスーツ・・?」

 巴が久々に部屋を訪ねてきた。

 持参した少し大きめのトランクスーツを開けると、なかにはまるで人間の骨を模したような機械が収められていた。

「はい!お嬢様は以前銃を撃ちたいとおっしゃっておりましたよね?」

 巴がずいっとテーブル越しに身を乗り出してくる。やけにキラキラとした目で好奇心にあふれた少年のようだ。

 確かに玄武や露五の訓練を見ていて、銃を撃ってみたいと思ってはいた。だが私の身体では反動も大きく、下手をすれば身体が破損してしまう恐れもあったため禁止されていた。

「近年物流の運搬作業や病人を介護する医療現場などで使われるようになってきまして、正確にはpowered exoskeleton(強化外骨格)と言うのですが、重い物を運んだり身体に負担がかかる動作をアシストしてくれるスーツなんです」

とっても良い子なんですよ~と、巴はわが子を愛おしむかのようにそのロボットスーツを撫でた。

「それでですね!身体全体をアシストするものではなくて、身体の一部分だけを局所的に強化できるタイプもありますので、よろしければお嬢様にと思いまして!」

 巴はなかの機械を取り出すと私のまえで広げてくれる。

まるで鳥が羽を広げたような形で、なんだか随分軽そうに見える。

「こちらは両肩から腕にかけてアシストするものですね。素材はカーボンでなるべく軽量に。最低限の機器のみが積まれていて、あまり大きな力は出せませんが、銃火器を扱う分には十分かと」


「ありがとう。でもなんで急に?巴には相談するような話ではなかったと思うのに・・」

 銃を扱ってみたいと巴に言ったのは数ヶ月も前だった。

 巴は少し言いにくそうにもじもじと手遊びをしながら答えた。

「実は執事長様から、ご相談があったんですよ~。お嬢様が武器を扱いたいとおっしゃられていて止めようとしても無理だから、せめて安全に扱えるものはないかって」

 なるほど。それなら納得である。銃のかわりに弓を習ってはいるが、それでもたまに射撃場を見学はしている。にゃん太郎がその様子を見てはらはらするのも無理からぬことだった。


 とりあえずスーツの成果を試してみたいと思い、射撃場まで足を運んだ。

 スーツを装着してみると、その見た目通りとても軽いものだった。手首から覗くリングに銃のグリップをつなげると、とても金属でできている物とは思えないほど軽い。

「こちらのスコープもラボで開発したもので、半径100メートル以内の人間を探知できますよ。銃弾の着点もアシストしてくれます」

 私はスーツを装着したままで銃を構えスコープを覗くと、屋敷全体と周囲の山などが鮮明に映し出されている。

どうやら上空にドローンが旋回しているらしい。ほぼ空中で静止したまま周囲の環境を映し出している。

 なにやら裏手の山の方をスコープの矢印が示している。その映像を拡大していくと人影が木の上に見えた。

 私はライフルのスコープを覗くと、ゆっくりと木の周辺を探ってみる。

 案の定、生い茂る木々のなかに銀色の髪が見えた。

 私はそのまま引き金を引くと、バシュッ!という射撃音と共に火薬の煙が銃口から勢いよく吐き出される。

 銃弾がメイドのだいぶ上の方に当たると、驚いたメイドはカメラを手からこぼしてしまう。それをキャッチしようと慌てて手を伸ばすが体勢が傾く。

「ぬわぁぁぁ!!!・・・・」

 こちらまで聞こえてくる断末魔のような叫びと共に、メイドが木から落ちていくのが確認できた。

 なるほど、とても楽に扱える。

「素晴らしいわね」

 巴と私は満足そうに腕につけられたスーツを見つめた。

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