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風呂(執事)

 ヴィアレットの屋敷は当主であるゆなを最優先にして作られているが、実は意外にもレクリエーションを楽しめる設備が多い。

一階には屋敷の半分近くを占めるラウンジにはバーカウンター、ビリヤード台もあり休憩の間は自由にここを使うことを許されている。またビュッフェ方式の食堂は種類も豊富で男女問わず盛況である。そして、なんといっても一日の疲れをおとす楽しみとしては風呂だろう。

「「お」」

久しぶりに屋敷に戻った霧島が一階の風呂場に行くと、扉の前で露五とグスタフの二人にばったりと出くわした。

なかに入ると、さすがに遅い時間だからか脱衣場には誰もおらず実質3人での貸し切り状態だった。


「相変わらずここの風呂はでけーな」

霧島はさっさと入ると、扉の前で浴場を見渡した。

リゾートスパとまではいかないが十数人以上は楽にくつろげるであろう大きな湯船が複数あり、ほかにもサウナや滝湯もあって非常に開放的な広さである。

「あ、霧島さん。よかったらあとでこちら試してみてください」

あとに続いて入ってきた露五がサウナの隣にある大きな陶器風呂を指した。

「お・・水風呂じゃん。あんたが作ったのか?よくできてんな」

「ありがとうございます」

ここだけではなく、女風呂やゆな=ヴィアレットが使う湯船も露五が作製したものだ。以前はホーローのバスタブを使っていたが、陶器製は色合いにも温かみがあり、大きさもゆなの身体にあわせて作製したのでちょうどいいくらいだった。

「ほら2人とも扉の前でたってないで入りましょう」

遅れてグスタフが入ってくる。普段は事務的な仕事が多いため前線に立つことはほとんどないが、武器を扱うだけあって身体はきっちりと絞られている。

「悪い悪い。じゃあ入るか」

にゃ~。

不意に足元でか細く鳴く声がした。

3人は同時に足元を見下ろすと一匹の白猫が自分たちを見つめていた。

「お、モチ。お前も入りにきたのか」

霧島はしゃがむと、モチと呼ばれた白猫を軽く撫でた。しばらくおとなしくしていたが、すぐに霧島の手を離れるとスロープ状になった湯船まで歩いていく。

手で少し触れる程度に温度を確かめると、そのまま自分から身体を浸した。目を半開きにして気持ちよさそうにしている。

3人はそれをぽかんとした顔で眺めていたが、モチは特に意に介した様子はなかった。


「「「うあぁ~~~~」」」

湯船にゆっくりと身を沈めていくと自然3人とも声がもれる。

「あ~いい湯ですね」

グスタフはバシャバシャと顔にお湯をかけた。

「な~。めっちゃ寒いから手足痛いわ」

霧島は冷え切った手足をもみながら、ゆったりと柱にもたれかかった。露五も同じく手足をもんでいる。

3人とも共通して立ち仕事が多いため、こうした湯治はとても癒されるものだった。

しばらく湯船につかりながらお互いの近況報告などをする。とはいえ、霧島以外は屋敷でほぼ毎日顔を合わせるので外部と内部の情報交換のような感じだ。

「そういえば玄武はまだ目覚めねーの?」

ふと霧島が尋ねた。あの事件からすでに一週間近く経過している。

「あ、いえ。一昨日目覚められて、あとは検査が終わり次第復帰されるそうです」

グスタフは熱くなったのか湯船のふちに座りなおしながら答えた。

「お、マジか。今回は短い方だったな」

「そうですね。時計の方も速臣さんが見てくれてますので」


「あの・・」

露五が少し遠慮がちに尋ねる。

「どうして玄武さんだけあんな状態に?私も一度使ったことはありましたが、あんな様子になったことはありませんよ」

「あいつのはちょっと特殊っつーか」

霧島は天井を見つめながら、う~んと唸りながら考え込む。

「3分間の肉体強化。あいつが力使ったら俺でも対処できねー。なんせ弾丸より速く動けるからな」


「ただ、その分身体が悲鳴をあげちまう。しかも発動のあとはとてつもない激痛が襲うから、最低3日間は絶対に起きれねー。だから、あいつだけ当主であるゆなの許可がないと発動できねーんだ。ほいほい使えたら死んじまうからな」

・・まぁそれだけじゃねーけど。

霧島はどこをみるでもなくぽつりと呟く。


ぴちょん――

天井から雫が落ちた。

「そういえば、霧島さんはどんな能力でしたっけ?」

少しの沈黙のあと、露五が聞いた。

「あれ?言ってなかったけ?俺は影への移動」

霧島は自分の影を指さすと、そばの柱の影へぴょーんという感じで移動させる。

「影さえあればどこへでもジャンプできる。といっても、制限はあるけどな。やろうと思えば、隣まで飛べるぜ」

霧島は右方向を振り向いて壁をじっと見つめる。

隣には女風呂がある。

もちろん、アニメのご都合主義はなく上部の空間が繋がっていて声が聞こえるということはないが。

「霧島さん・・」

グスタフがやや引いた風な顔で霧島を見ている。

「まてまて冗談だよ。第一、時計が無かったら使えねーし・・」


「お嬢様!!!!!!!」

突如壁の向こうから聞き覚えのある叫び声が聞こえた。

3人はそのはっきりと聞こえる声に思わず壁を凝視してしまう。

「お嬢様!!なぜこんなところに!いけません!私が身体を洗って差し上げ・・」

「ええ加減にせーー!!!」

バシャーンッッッ!!

「うわああぁぁぁぁ・・・」


「露五」

しばらく黙っていた霧島が言葉を発した。

「この壁って薄いの?」

「どうでしょう・・とりあえず湯船が心配です」

3人は湯船に浸かりなおすとため息をついた。

一匹の白猫が3人をしり目に悠々と風呂場から出ていった。


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