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交流

「武器・・でございますか?」

責任者の執事がやや怪訝そうに繰り返した。

「そう・・銃でも刃物でもなんでもいいの。私に扱えそうなものってないかしら」

私たちがいる・・正確には私が訪れたここは屋敷の地下にある武器庫である。普段執事たちが訓練をする射撃場から地下通路を通ってくることができ、屋敷にいる者にとってはラウンジに続いてお互い顔を合わせる機会の多い場所だ。

ここを出てすぐの所には金庫室や避難シェルターもあり、その特性上屋敷の敷地内としては最も堅牢な場所となっている。

「しかし、お嬢様を守る役目はSPの彼らにお任せして問題はないと存じます」

「別に前線に出て戦いたいわけじゃないのよ。なんていうか・・そうね、心だけでも強くなりたいというか」

私は先日の事件を思い出していた。

結局、あの時は玄武がいたから切り抜けることができた。

しかしその代償として、彼は現在深い眠りに入ってしまっている。そう何度もあの力を開放させてはいずれ取り返しのつかないことが起きてしまう。そんな気がしてならなかった。

「私もあの子たちを守りたいわ。私は主なんだから」


「ふ~ん、ゆながそんなことを考えてるとはねぇ」

突然聞きなれた声がした。

いつ入ってきたのか、武器を陳列した棚を霧島が興味深そうにいじくっている。

「いつの間に・・」

「え?さっきから」

彼の神出鬼没な登場は別段初めてではないが、突然話しかけられると心臓に悪い。

「とはいえ、この細腕で銃は難しいぜ。男女で扱える武器は違うからな」

実は一度だけ銃を撃ったことはある。普段よく遊んでいるゲームに銃を扱うものが多かったため、玄武に無理を言ってやらせてもらった。しかしあの時は結局10発も撃たないうちに終わってしまった。ゲームで見るほど軽く撃てるものではなかったし、なにより全然的に当たらない。非力を補えかつ扱いやすい武器が必要だった。

「弓などはいかがですか?」

しばらく悩んでいると武器庫の執事が名案とばかりに手をうった。

「弓?」

「ええ。そこまで大きな負担はございませんし、精神の鍛練にもとても良いと思います」

確かに弓ならあまり力もいらずに扱えるかもしれない。なんとなく女性のたしなみのイメージもあるし、意外と良いかもしれない。

「ん~、でもうちの者に弓が仕える子なんていたかしら」

とはいえ、銃やナイフを扱う者はたくさんいるが、弓を扱える者はすぐには思い当たらない。

「あ~、一応知り合いに適格なやつがいるけど・・」

先ほどまで黙って聞いていた霧島が口をはさんだ。しかし、なぜか普段と比べると少し煮え切らない感じがする。

「あら、いいじゃない。すぐ会える?」

「うちの奴じゃないけど、連絡したら明日にでも来てくれるんじゃないかな」


翌日。

お昼ごろになり、いつもの服から動きやすい服装に着替えると、屋敷に隣接した訓練場に向かった。

すでに霧島たちが待機していた。彼の隣には見慣れない女性が一人控えていた。

「あ、その方が昨日言ってた方?」

私がそういうと、女性は一歩前に出る。

「お初にお目に関わりますわお嬢様」

女性はスカートを裾を軽く持ち上げると挨拶をしてくれる。

「霧島の紹介により参上いたしました、詩音ソアラと申します。弓を少々嗜んでおりますわ」

やや仰々しいような気もするが、仕草や振る舞いは実に自然で嫌味などは少しも感じられない。たまに粗野な行動をしてしまう自分に比べるとよほどお嬢様らしい雰囲気だった。

「ご足労頂きありがとうございます。ゆな=ヴィアレットと申しますわ」

彼女にあわせるように裾を軽く持ち上げ挨拶を返した。

「ぶふッ!」

ソアラの後ろに控えていた霧島が吹き出した。

睨みつけてやりたいが、彼女の手前笑顔は張り付いたままだ。

なんとなく額に青筋がたっているような気がする。血管はないけど・・。

彼女は私と目線を合わせるように少しかがむ。

「霧島からお噂はかねがね・・。聞いていた通り可愛らしいお嬢様でございますね」

まるで母親が子どもを見るような慈愛のこもった優しい眼だった。まじまじと見つめる瞳に少し気恥しくなってしまい俯いてしまう。

「あなたもとても綺麗な方ね」

「まぁ・・」

彼女は私の言葉を嬉しそうに受け止め、手を自分の頬に這わせた。

私と入れ替わりに出ていた武器庫の執事が戻ってきた。手にはやや小ぶりな弓を抱えている。

「それではお嬢様こちらを」

執事に手渡された弓を見ると、私が思っていた形とは少し違っていた。

弦をかけるハズと呼ばれる部分は滑車のように回転するようになっており、和弓よりはアーチェリーの弓に近い。

試しに弦を引いてみると弓のあらゆる部分が連動して羽のように軽かった。

「あら、これは素晴らしいものですねぇ、執事さんがお造りに?」

ソアラは横から眺めながら感嘆の声を漏らした。

「え、ええ。お嬢様の身体にあわせてできる限りのダウンサイズを行いました。威力もできるだけ残しつつデザインいたしました」

執事は少しドギマギとしながら答えた。

「お嬢様が羨ましいですわ。私もこんな立派なものを持ちたいものです」

突如後ろから霧島がソアラの肩を叩いた。

「おい・・そのへんでいいだろ?早く練習しねーと日が暮れるぞ」

一瞬、2人の間に剣呑んな雰囲気が流れた気がした。とはいってもお互い表情などは変わらない。あくまでそんな気がしただけだ。

「そうね。申し訳ございませんお嬢様。つい羨ましくなってしまって」

ソアラは立てかけていた自分の弓と矢を取ると、的から十数メートル離れた立ち位置へと移動していく。

「まずは弓をひく型から参りましょう。本当はゴムひもなどが良いのですが、とりあえず弓に慣れてくださいませ」

ソアラは肩幅ほどに足を開くと、手にした矢を弦にかける。そしていったん的を少し見つめると、構えたゆみを頭上に持ち上げ弓掛にかかった弦を引き絞っていく。文字通り半月状にひいたところでぴたりと動きを止める。きりきりという弦が軋む音が聴こえる。

とたん、ソアラは弓掛から弦を離した。

番えられていた矢がやや弧を描きながら的へ向かっていく。

タァン――

的に矢が命中した静かな音が辺りに響いた。

「このような感じでございますね」


本来よりもやや厚めに作られた弓掛を右手に装着すると、お互い向かい合わせの状態になり彼女の姿をお手本に作法をまねていく。

弦をひく瞬間少し重さを感じたが、弓の滑車部分が滑らかに回り引ききってしまうとほとんど重さは消えてしまった。

「いつでもどうぞ」

彼女はやや後ろに下がるのを確認すると、とりあえずじっと的を見つめ無造作に手を離した。

彼女の弓とは違ってほとんど無音に近く、同じようにやや弧を描きながら矢が飛んでいく。

しかし、ソアラの時とは違い的からかなりズレた位置に矢が刺さった。威力は申し分ないが、狙いをつけるのが難しい。

「このまま何本かお試しください」

ソアラは次の矢を手渡してくれる。


「なかなか当たらないものね」

十数本程度を射終えたところでいったん休憩ということになった。結局2本しか的に当たらず少し落ち込んでしまう。

「いえいえ、十分な数でございますわ」

2人で訓練場に併設された休憩室のテーブルに座りお茶をすすった。


「あら・・」

あらためて彼女と対面すると彼女の頬に薄く傷が走っていることに気づいた。

「その傷・・」

途中まで言いかけてハッと口をつぐむ。時折気にするように手を触れていたため少し気になってしまったのだ。

彼女はゆっくりと頬の傷に手を触れる。

「こちらの傷は・・そう・・昔男につけられたものですわ」

ソアラは少し声のトーンを落としながら、顔を伏せた。その憂い気な表情もまた魅力的である。

「こんなに綺麗な顔なのに、傷をつけるなんて最低ね!」

私は思わず感情的に叫んだ。

「・・・」

ソアラはぽかんと口を開いて私を見つめている。

そんな変なこと言ったかしら?


頬をなぞっていた手を口元に移動させくすくすと笑った。

「ふふふ・・ありがとうございますお嬢様。でもいいのです。これは私の勲章みたいなものですわ」

ソアラはそう言うと、立てかけていた弓を取り上げた。

「さ、お嬢様。休憩は終わりでございますよ。これからビシビシと教えますからね」

なぜか気分を良くしたソアラの指導は夕方までみっちりと行われた。


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