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防犯強化

「お嬢様。お着きになられました」

私はさっきまで見ていた書類を机に置くと、2階まで降りていく。


「おや、ゆなお嬢。ごきげんよう」

応接室の椅子に腰かけていた青年が扉を開けると同時にたちあがり挨拶をした。うちの出資している企業の社長倉音だった。

私は挨拶もそこそこに向かいの椅子に腰かけた。


「申し訳なかったわね。突然呼んでしまって」

「いやいや!ゆなお嬢のお呼びとあらばいつでも駆けつけますよ!」

青年は変わらずハキハキと快活な口調で答えた。

横からメイドがお茶と菓子を差し出してくれる。

「これはお構いなく・・ありがとうございます」

青年は屋敷に着いた時から会うメイドや執事に対して丁寧で礼儀正しく接している。すでに知り合って半年近くなるが、この態度は出会った時から一切変わっていない。

「あなたは全然変わらないわね。知らない仲ではないし、もう少し寛いでもらっていいのよ?」

「こればかりは性分ですので。それに私は十分寛がせて頂いていますよ」

彼はそう言うと、ティーカップのソーサーを左手で持ちお茶に口をつけた。深く腰掛けてはいるが、背中は決して背もたれにつけずピシッとした美しい姿勢だった。お茶を習っている身としては彼の所作の美しさは堂に入っていると感心してしまう。

「一応詳しいことは書面で伝えた通りね」

「ふむ、屋敷のセキュリティの強化ですね?」

さっきまでの青年らしい朗らかな顔から、経営者らしい真剣な表情になる。

「ええ、実は先日強盗が入ってきてね」

数日前の深夜に屋敷に侵入してきた者の話をかいつまんで説明した。といっても武器らしい武器もなく空き巣当然だったため簡単に捕まえることはできたが、今年に入って数回目となるとさすがに看過はできなくなってきていた。

「この通りうちの執事長も心労で髪が白くなってきてるのよ。力を貸してちょうだい」

横で控えているにゃん太郎もやや疲れた表情で黙礼する。


「執事長の日常」より

https://www.pixiv.net/fanbox/creator/16463108/post/668403



「とりあえず見て回りましょう。案内するわ」

まずは庭園の塀に設置してある防犯カメラを見て回ることとした。広大な庭園なので主要な一部のカメラを見る程度だが。


「お仕事は順調?」

道中、2人並んで歩きながら世間話に花を咲かせる。といってもいつも通り仕事の話だが。

「ええ、お嬢のおかげでだんだんと顧客も増えてきました。今度海外にも支店を出そうか検討しているところですよ」

「あら、ほんと?ごめんなさい知らなかったわ」

「ここ数日中にでた案ですのでまだ素案の状態です。正式に決まりましたら書面を提出させて頂きますので」


「おや、お嬢様」

しばらく歩くと庭の手入れをしていた露五と出くわした。

帽子をとると深々と挨拶をしてくれる。

「お疲れ様」

「ええと、そちらは・・」

「あぁ、こちらはうちの防犯を見てくれる倉音さんよ」

倉音は露五の方へと一歩踏み出すと腰を綺麗に折り一礼する。

「ヴィアレット家のお嬢様にはいつもお世話になっております。PDXの倉音と申します」

まだまだ小規模とはいえ、すでに業界において知名度を誇っている企業の社長が屋敷の執事に慇懃な態度で接している。

「は・・これはご丁寧に。屋敷の庭師をさせて頂いております露五と申します」

露五はその謙虚な物腰にやや慌てながらも被っていた帽子をとり返礼の形をとる。

「庭師ですか。それはなんとも素晴らしいお仕事ですね。露五殿のようなお方のおかげでこの美しいお庭が保たれておられるのですな」

露五は彼の率直な称賛に少し困ったように頬をかいた。

「いや・・ありがとうございます。そういえばなぜこちらに?」

露五は照れ隠しに私たちが庭にまで出てきた理由を尋ねる。

「この前屋敷に侵入してきた人がいたでしょ?それでちょっとカメラとかを見てもらおうと思ってお呼びしたの」

「承知しました。それでしたら是非のこと倉音様どうぞよろしくお願いいたします」

露五は深々と頭を下げた。

庭師としては美観を損ねるカメラの設置は微妙なとこだろうが、あの時の侵入者を捕まえるために奔走した当事者なだけに防犯の強化についてはすんなりと受け入れているようだ。

「でしたら、私もご案内をいたしましょうか?」

「いえ、確認して回るだけだから大丈夫よ。ありがとう。あなたは自分の仕事に戻ってちょうだい」

「かしこまりました。では・・」

再び礼をすると帽子をかぶりなおし、もとの担当場所まで戻っていった。

その様子を倉音はじっと見つめている。

「ふむ・・庭師にとってカメラはあまり気分の良いモノではないはずですが、お嬢様は大切に思われておられるのですね。いや失礼」

「ふふ、そのとおりね。彼らは私の誇りよ」

気分を良くした私は軽い足取りで塀の防犯カメラの位置まで向かっていく。

「さ、行きましょ」


2か所の塀に設置されたカメラを確認すると、問題が何か所か見つかった。防犯カメラの特性上死角は必ずあるものなのでそれらをカバーするように設置はしていたが、どうやら夜間になると見逃してしまう部分があるらしかった。それらを踏まえるとひょっとすると出入りの業者にも問題があるのではないかということも。


「ありがとう。助かったわ」

「いえ、お役に立てて何よりです」

部屋に戻るとお茶を入れなおしてもらい、問題個所の確認などをしてもらった。今後は被害も少なくなるだろう。

そばで給仕をしてくれているにゃん太郎も報告を聞いてやや安心気な表情だった。

「それではあとでまた書類は送らせて頂きますので」

倉音はそう言うとある程度の改善点などをまとめた資料をてきぱきと鞄につめメイドに預けていたコートを頼んだ。

「あら、もう帰るの?夕食を一緒にとおもっていたのに」

「いえ、セキュリティの強化はスピードが命です。せっかくのお誘いを断って申し訳ないですがこれで・・」

せめてと思い、玄関まで見送りに一緒に向かった。

「それではゆなお嬢!また!」

「ええ」

倉音はピシッとした礼を残し自分の会社へと戻っていった。

「いや・・まるで風のような方ですな」

そばでともに見送りをしていたにゃん太郎が彼の去っていった扉を見つめる。

「そうね・・」

数日後、屋敷の警備に関する提案書と報告書が送られてきた。

心労が一つ改善されたにゃん太郎のイキイキと働く姿がしばらく見られることとなった。

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