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執事長の日常

ゆな=ヴィアレットの屋敷には数多くの執事とメイドがいる。そのうちのほとんどが屋敷に住み、2階に自室や相部屋の生活スペースを持っている。当然彼ら・彼女らにも生活があり、一般的な職務に就くものはチーフ制の元に管理されている。そのチーフをさらに統括するのが、執事長であるにゃん太郎である。


6:00 起床

――ピピピ―――ピピピ

平日の朝。

目覚まし時計の音が独特のリズム音を響かせながら起床時間を知らせてくれる。3度目のアラーム音がする前に止めた。

実際のところ最近はほとんど時計に頼らずとも目が覚めてしまうことが多いのだが、時間に正確性が問われるこの業務では念のため時計は欠かせない。

「やれやれ・・結局あまり寝付けませんでしたな・・」

昨日は深夜に侵入者の報告があり、その報告と処理でほとんど寝付くことができなかった。

深夜帯の防犯は基本的に警備と宿直係の執事やメイドたちが行っている。数メートルの高い塀に防犯システムが完備されているこの屋敷に侵入する者はほとんどいない。だが、たまにどこかの身の程知らずが強盗目的などで押し入ってくることはまれにあるのだ。正直、日々の業務で忙しい身にこのような事案は単純に迷惑だった。

「さて」

執事長とは言っても、屋敷の生活に関することは一般の者たちが行うため基本的には少しゆっくりめに活動を開始する。

猫の姿の自分には広すぎるともいえる部屋を行ったり来たりし、寝ぐせを整え、顔を洗い、執事服に着替える。

鏡を見つめると、最近少し白髪が増えてきたことに気づいた。

「はぁ・・」


6:30

3階の自室から1階のラウンジまで降りていく。

「おはようございます」

廊下ではすでに行動を仕事を始めている者たちがいるので挨拶ついでに皆の状態をチェックしていく。

「あ、執事長。おはようございます」

ぺこりとすれ違いざまにも挨拶を交わす。

とはいっても身長差があるので、通常よりは少し離れているが。

「はい。今日も特に問題ありませんか?」

「ありがとうございます。特に問題ございません」

おおむね目に見えて健康状態などは大丈夫なので、ラウンジにてチーフたちを集めそれぞれの報告を受ける。


7:00 お嬢様を起こしに行く

「お嬢様!朝ですぞ。起きてくだされ」

チーフたちの報告を受けた後、再び3階へと戻りお嬢様を起こしに行く。一日のうちこれがなかなか骨が折れる。

「ん~・・」

子どものようにむずがりもぞもぞと布団にくるまって起きようとしないのを諦めずに起こす。

「お嬢様!」

ゆさゆさと揺り動かし、ようやくベットから離れたのはおこし始めて10分後だった。これはほぼ毎日のことなのでもう慣れたものだ。

「お嬢様。まずは顔を洗ってくだされ。そのような顔では人前には出られませんぞ」

お嬢様の足元から押すようにして洗面所へと誘っていく。

「何よ失礼ね・・私は寝起きも可愛いわよ」

半分寝ぼけながらもやや不機嫌そうに答えた。これもいつものこと。

「分かりました分かりました。とにかく、さぁ!」

お嬢様を洗面所に連れていくと、すでに待機していたお付きの者に身支度を任せ、自分はそのまま執務室へと向かった。

そろそろ年末も近いため、帳簿の整理や法律関係の書類をチェックしなくてはならない。


10:00

――コンコンコン

執務室で書類などを整理していると、ドアをノックする音がした。

「おお、ありがとうございます」

メイドの一人が食事を運んできてくれる。2階に食堂はあるが、なかなか離席ができないときはもっぱらここで済ますことが多い。

「いつもお疲れさまでございます」

メイドが専用のテーブルを用意しながら労いの言葉をかけてくれる。

いったん手元で整理していた書類を置き、テーブルに腰かけた。

「いえいえ。ふぅ、ようやく朝食にありつけます」

生物には3大欲求というものがあるだけに、やはり食事は一日のうちの楽しみでもあった。

白く丸い皿に盛りつけられたミンチ肉のパイをありがたく頂く。

「ごちそうさまです。料理長によろしく言っておいてくだされ」

人間とは身体の大きさや内臓も違うだけに、料理長は気を遣って色々と作ってくれるのはとてもありがたかった。

食事をして活力が戻ってくるのを感じ、再び膨大な量の書類と格闘し始める。


12:00

「お嬢様。お食事ですぞ」

お付きのメイドを連れてお嬢様の昼食をお持ちした。

確認してもらいたい書類もあるため、それらもカートの下にのせて運んでもらう。

「はーい」

お嬢様は読みかけの本をソファに置くとテーブルに着く。

旬のモノを使った料理の美味しそうな香りが鼻をくすぐる。

「お嬢様。お食事のあとでこれらを確認お願いいたします」

「ん、はいはい。うわ・・こんなにあるの?」

お嬢様は机に山と積まれる書類を見てげんなりとした顔を見せる。

お嬢様が誕生されてまだ1年程度しか経ってはいないが、一応こうした書類の決裁などはすでに何度か済ませてはいた。とはいえ、秋から年末にかけての膨大な書類整理を見るのは初めてなのだ。

「これから少しずつ忙しくなりますぞ。明日には本館の方にも顔を出して頂きますので」

「ママに会えるのはいいけど、仕事とかでは面倒ねぇ」

本館のヴィアレット家まではそこまでの道のりはないが、やはり仕事となると身体が重くなるのはドールであろうと変わらないらしい。

「我慢なさいませ。この後は訓練をされますので?」

「あぁそうだったわね。あとで向かうわ」

午後からのスケジュールなどを確認し終えると部屋をあとにし再び執務室にて仕事を始める。


14:00 

昼食の後、休憩もかねて屋敷のなかをみてまわる。

「お疲れさまです。何か問題はございませんかな」

2階から1階へと見て回り、屋敷外を監視するモニタールームへと足を運んだ。何台ものモニターが設置され、庭の様子や玄関、裏門など様々な場所が映し出されている。

「あ、執事長。はい、特に問題は」

モニタールームでの責任者の執事が気付くとそばまで寄ってくる。防衛設備の管理者だけにやや神経質そうな雰囲気である。

「昨日は大変でしたな。あんな無謀なものがいるとは考えませなんだ」

しばらく、世間話をしたあと昨日の侵入者のことについて話題となった。

「ええ、申し訳ございません。この屋敷の外観を見てもまだあんなものがいるとは」

執事は悔しそうに爪を噛んでいる。

「まぁ、大事にはなりませんでしたので」

「いえ!もっと強固な防犯システムが必要です!執事長!ご一考を!」

「考えておきます」

やれやれ・・。

確かに防犯のシステムは大事だが、設備を導入するにもそれに伴って費用はかかる。

お嬢様の安全とは引き換えにできないのは重々承知だが、それでも先立つものは必要なのだ。きりきりとみぞおち辺りが傷むのを感じる。


20:00

お嬢様から受け取った書類などを整理し終えると、ようやく夕食となった。やや遅めの食事となってしまったが、まだ食堂には多くの同僚が残って思い思い過ごしている。

「料理長。今日は少し軽めの食事をお願いしますかな」

料理を受け取るために厨房まで足を運ぶと、ちょうど仕込みの途中だった料理長に声をかけた。

「おや、執事長。お疲れさまでございます。承知しました」

「いつもありがとうございます。私だけ違うものを作って頂いて大変でしょう」

いえいえと料理長は笑顔で答えると、すぐに私用の食事を作ってくれる。

「それではこちらで。少し軽めにスープパスタです。ネギ類は入っておりませんよ」

「いただきます」

料理長から食事を受け取ると自分の席に着く。

ずっと同じ姿勢で冷え固まった身体がぽかぽかと温まりとてもありがたい。


22:00

「ふぅ、ようやく終わりましたな」

整理した書類をまとめ終わると、く~と伸びをする。

屋敷の統括表のチェックがあるのでまだ就寝はできないが、少し息抜きに向かうこととした。

「おや、こんばんは。執事長」

ラウンジに向かうとお嬢様にお付きの執事がグラスを片手にくつろいでいた。

「おお、お疲れさまです」

自分用の飲み物を受け取るとテーブルを相席させてもらう。

教育係を務める彼と話をするのを最近は楽しみにしている。

「どうですかな?お嬢様の様子は」

「真剣にされておりますよ。気分にムラはありますが」

とはいえ、お互い趣味よりも仕事を優先してしまう性質なのでどうしても仕事の話になりがちではある。つまりお嬢様の話題だ。

「仕方ありますまい。まだ生まれて1年です」

「加減は考えないと精神的にもよろしくはありませんので、そこが難しいですね。それにしても執事長は最近オーバーワークなのでは?」

「かもしれませんな。今朝見たらまた白髪が目立ってしまって・・」

こうして2人で話すこと1時間。あっという間に時間が過ぎてしまう。

「それでは私はこれで」

挨拶もそこそこに空いたグラスを抱えて離席する。

これから1時間ほどは防犯システムと格闘しながら、チーフたちからあがってきた報告書も読まなくてはならない。

「今夜は静かな夜となればいいですなぁ」

廊下から見える大きな月を見つめ、屋敷の平和を願った。

結局、今日もまたなられたのは1時を回ってからだった。

翌朝の鏡にはまた一本白髪の増えた自分が映っていた。

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