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庭園

この屋敷で過ごすようになって2年目の秋がやってきた。

あの頃はまだ生活環境にもなれず、どたばたと忙しい時期だっただけにこうして季節の移り変わりをじっくりと感じることはできなかった。

お昼も過ぎ、私は自室で本を読んだりしてゆったり過ごしている。


ふと窓から庭を見下ろしてみる。思えば秋の庭をこうしてじっくりと見るのは初めてだった。

文字通り木枯らしの吹く寂しい空の下、住み込みの庭師たちが、木々の剪定や落ち葉を集めたりしている。

ふと思い立って、読んでた本をしまうとケープを肩にまいて部屋をでた。

屋敷の玄関から一歩出ると、向こう何十メートルの庭がまっすぐに伸びる。いつもは車庫から出ることが多いので、改めてみるとその広さに圧倒されてしまう。

庭に降りると、枯れ始めて少しザクザクとした感触のする芝生を楽しみながら庭師たちの作業をまじまじと見て回った。

時折、私の存在に気付いた庭師が遠くからぺこりと挨拶をしてくれる。あまり、彼らの邪魔にならないよう軽く手をあげて返した。

しばらく歩いていると、向こうから身長2mはあろうか大柄の人物がやや小走りに近づいてくる。最近庭師兼SPについたばかりの露五という執事だった。

「お嬢様。ご機嫌麗しゅう存じます」

彼は私と身長差を合わせるように片膝をついた。

「あら、ごきげんよう。今日もお疲れ様ね」

「ありがとうございます」

純朴そうな庭師はかぶっていた帽子をとると一礼する。

「あら、あなた・・」

ふっと彼の頭に傷が走っているのが目に留まった。

そこまで深い傷ではないが、額から側頭部にかけて一直線に傷が走っている。

彼も私の視線に気付くと、少しバツが悪そうに傷をなぞった。

「昔やられた傷です。お見苦しいところを・・」

「かまわないわよ。私ももう慣れたわ」

「恐れ入ります」

彼はすっと立ち上がり帽子をかぶりなおした。

実際、霧島をはじめ執事たちには身体にあちこち傷を持つ者が多い。はじめこそ時折目にする生傷にぎょっとすることも多かったが、ここ1年ですっかりと慣れてしまった。

「今の生活はどうかしら?」

私達は剪定されたばかりの木々や落ち葉をみながら並んで歩き始めた。

「ええ、こんな立派なお屋敷です。とてもやりがいがあります」

「SPの仕事もあるのに大変ね」

「いえいえ」

彼は自分の整備した庭をチェックしながら、ゆっくりと歩を進めている。私の小さな歩幅にあわせながら歩いてくれているのだ。

「あのお風呂もあなたが作ってくれたのよね?」

「はい。その後どうでしょうか?不具合などは」

「全然よ。とても快適」

私の言葉に彼はにっこりと笑った。

彼ははじめから屋敷に仕えていたわけではない。

彼はもともとこの屋敷を私が住むために改装する際、内装を手掛けるために訪れた職人の一人だった。腕も良く、物腰の柔らかく礼儀正しいのでとても印象はよく見えたが、挨拶に来た際他の職人たちとはなんとなく違う雰囲気を纏っていたのを覚えている。

その後、なんとなく気になってにゃん太郎に調べさせるとむべなるかな、一般人とは違った経歴の持ち主だった。

しばらく経ってからSPとして雇い入れたが、今はこうして本人の希望で庭師の仕事も兼任している。

「庭の整備は楽しい?」

ふと気になって聞いてみる。

「私には修羅場は性に合わないので・・」

彼はまたバツが悪そうに頭をかきかき答えた。

少し悪いことを聞いたかなと罪悪感を感じた。

「冷えるわね。そろそろ戻るわ」

彼は静かに頷く。

20~30分ほど庭を歩いた辺りで、玄関まで戻ってきた。


「庭の整備お願いね」

彼に一言告げて屋敷に入った。

暖房でぽかぽかと温かい空気が冷えた身体を包み込んでくれる。

「お茶でも飲もうかしら・・」

私は自室に戻る前にキッチンへと足を向けた。


露五は少女が屋敷に入るのを見届けると、腰につけていた軍手に手を伸ばした。すると、

「楽しそうでしたねぇ・・・」

露五はふいに後ろからまるで舐めるような声で話しかけられた。

ぎょっとして振り返ると、自分と同じくらいの身長のメイドがハンカチを噛みながら悔しそうににらみつけている。

「うぅ~~・・私もいまだお嬢様とラブラブデートをしたことがないというのに・・」

「いや、それはあなたの行動が・・」

「問答無用!!」

メイドは隠し持っていたナイフを投擲してきた。

「うおおおお!!?」

露五は間一髪ナイフを受け止めると、わき目もふらず走り始める。その巨体に反して動きは俊敏である。

「待ちなさーい!!」

メイドは追いかけながらもナイフをなおも投擲してくる。

掃除したばかりの落ち葉がばさばさと再び辺りに巻き散らかさる。

窓から見た庭は1時間前とあまり変わっていなかった。

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