外国のおみやげ
私の住む屋敷は正確にいえばヴィアレット家の屋敷というわけではない。
私の今住む屋敷は街の中心部から少し離れた小高い山に位置し、普段十数名の執事とメイドに囲まれて生活している。
来客といえば週に何度か友人を招くくらいで、私が招待する以外でここを訪れる人はあまり多くはない。
とはいえ、私にもやるべき仕事は結構ある。屋敷の管理のため霧島や玄武たちも普段忙しくしてくれているが、決定や採決では私の判断がいるし、習い事なども行かなくてはならない。
ではそれらの実務などをどこで行うかと言うのが、ヴィアレット家の本館となる。
ヴィアレット家の本館自体は実は街の中心部にあり、私は週に何度かここに通う形で帰ってくるという感じだ。
都市部の中心に位置し、何百名と収容できる屋敷と公園のように広い庭。
周りには高層ビルも立ち並び、昼夜問わず眠ることのない街中では正直疲れてしまう。
それもあって私は閑静な山の中に屋敷を構え、のんびりと過ごしているわけだ。
今日は来客のため、こちらの本館へと帰ってきた。
私の屋敷の自室よりもはるかに広い部屋で来客を待っている。
┈┈コンコンコンッ
「失礼いたします」
しばらく窓から庭をぼーっと眺めていると、来客を知らせに執事が呼びにやってきた。
私は少し気を引き締めると客間まで歩いていく。
「お久しぶりでございますゆなお嬢様」
部屋には眼鏡をかけた女性が待っていた。
「久しぶりね。遠い所なのに来て貰って悪かったわ」
「いえいえ!ヴィアレット家は特別なお得意様でございますから!例え商談中であっても優先させて頂きます」
キビキビとした所作はまさにキャリアウーマンと言った感じだ。
彼女との付き合いは私の生まれる前から続く。
彼女の会社は一言で言えば総合商社。
アジアを拠点に多くの国と取引をする世界を股に掛ける貿易商だ。
扱う商品は実に様々で、食料品や衣服・調度品はもとより執事達の武器なども彼女が揃えたものだ。品質は非常によく、彼女から買ったもので悪かった物はひとつもない。
そこら辺はその時から家に仕えている執事達の方が詳しいと思う。
今日は屋敷に必要な諸々の物資の調達のために来て貰った。
とはいっても、私のすることは書類に目を通してサインをする程度。
その他の仕事は執事達の分野となる。
「お嬢様もだいぶ板についてまいりましたね。まさに主といった風格が出て参りました」
「え〜、そうかしら」
「はい。可愛らしいレディとなりました」
彼女の率直な誉め言葉に気をよくする。
そのうち必要な書類の精査をしてもらうと早々に済んでしまう。
「ありがとうございます。それではこちらの方は間違いなく納めさせて頂きます」
お互いに握手を交わすと、テーブルを変えてお茶を楽しむこととした。
しばらく歓談した後彼女は両手をパチンと鳴らすと、そうそうと言って小さな箱をひとつ取り出した。
「こちら台湾で仕入れたものでして…お嬢様にお似合いかと思いまして持参致しました」
なかには金色の歯車がついた髪飾りが入っていた。
「あら、素敵ね」
「台湾では有名な金細工師が仕上げたものです」
3つの歯車がそれぞれ噛み合うように配置され、とても細かい装飾がされている。
「ありがとう、頂くわ。小切手でいいかしら」
「いえいえ、こちらは私どもからのバースデープレゼントでございます。いつもご贔屓にありがとうございます」
深々と彼女は頭を下げた。古くから出入りしているとはいえ、私のような小娘にまで丁寧に接する姿にさすが一流の商人だと関心させられる。
「ありがとう。こちらこそいつも助かっているわ。これからもよろしくね」
ピピッ!
「あら、呼び出し?」
彼女はスマホをチラッと確認すると、
「申し訳ございません。少しトラブルがあったようですのでこのまま失礼させて頂きます」
彼女は少し慌てた様子で椅子から立ち上がる。
「あらそう…残念ね」
「お嬢様とはゆっくりとお話したいのですが、こればかりはなんとも」
彼女は心底残念といった感じで肩を落とすと、挨拶がわりにハグをしてくれる。
「あなたの話はいつも楽しいわ・・勉強にもなるし、また来てちょうだい」
「光栄でございます。お嬢様とお屋敷の方々も健やかに過ごされますよう」
彼女と挨拶を交わすと、またきびきびとした足取りで部屋を出ていく。
私はお付きで控えていたメイドにお茶を注いでもらいながらふぅと一息ついた
「さすが世界を相手にする人は違うわね、主として見習いたいものだわ」
箱から髪飾りを取り出し早速つけてみる。
「いいわね」
「お似合いです」
窓から入る光にきらきらと、街に煌めく明りのように髪飾りが輝いている。




