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検閲

歴史のなかで、権力側と抵抗勢力との戦いは数多く存在してきた。男も女も違わず銃を持ち、時にペンを持ち、時に弁舌を駆使した戦いにはそれだけ多くのドラマがあったはずだ。

非情な話もあれば、友情や愛情にあふれたストーリーは残された者たちに多くの感動や教訓を与えたことだろう。



バーンッ!!!!

パリーンッ!!!

「突破したぞー!」

「よし!このまま制圧する!!」

「いやぁぁぁ!!せっかく手に入れたのにー!」

…でもそれってあくまで物語だから感動するのよね。


「うおぉぉぉ!お嬢様ーー!!!」

宝(写真)を奪われ、自暴自棄になったメイドが単騎で突進してきた。

「写真がダメなら、せめてこの手に!」

「お嬢様!逃げて!」


執事が私の眼前に飛び出す。

「させませんよ!大人しくしていなさい!」

「ぐあぁぁぁ!!」

突進にあわせて執事がカウンターを仕掛けた。

メイドは強烈な一撃に弾き飛ばされ、ゴロゴロと床を転がっていく。

まるで戦場みたいな雰囲気だが、紛れもなく私の住む屋敷である。


3時間前。


「どうだ?集まってるか?」

「あぁ、なかには5…いや6人だ」

マスクを被った数人組の集団が、内視鏡検査で使うようなマイクロスコープを扉から差し入れ中の様子を伺っている。

中の人物に気づかれないようボソボソとこもった声に、全員物音をたてないよう慎重だ。

「…あった。へっ…どいつもこいつもニヤけてやがる」

証拠を抑えた報告があり、襲撃班に緊張が走る。

「お嬢様」

「よし…行きなさい」


ーーコンコン

「はーい」

ノックにメイドが答えると、ガチャッと鍵の開く音がした。

全員に緊張が走る。

「どうされまし…」

ドンッ!!

先達がドアを勢いよく押し開け、一気に襲撃班が部屋になだれ込む。

「いけいけいけ!!!」

「動くな!」

キャーッ!とメイド達の声とドタバタという物音が響く。

「オールクリア!!」

部屋から入室オッケーのサインが出る。


「ふむ」

私は制圧された部屋に悠々と入っていく。

拘束されたメイド達をしり目に共有テーブルに並べられたブツを確認する。


「やれやれ、これはハロウィンの時のね…これは…え?何これ」

テーブルには私の写った写真が大量に散乱していた。

それぞれラミネート加工が施されていて、見覚えのあるものもあれば、いつ撮られたのか分からないものもある。

「お、お嬢様!それだけは!」

「どうか!どうかお慈悲を!」

拘束されたメイド達が口々に懇願する。


「持って行きなさい」

「いやぁぁぁ!待って!それだけは!」

まるで年貢の取り立てでもされるかのようにメイド達が泣き叫ぶが、襲撃班達は無慈悲に写真を回収していく。

テーブルいっぱいにあった写真を残らず回収し終わると、次々に連絡が入ってくる。

「お嬢様。大方の部屋は抑えました。ただ、数組の部屋はすでにもぬけの殻で、品物もどこにも見つからないとのことです」

「気付かれた?」

「おそらく」

「お嬢様。1階ラウンジが占拠されました。バリケードが築かれ、十数名が立てこもっているようです」

「はぁ…やれやれだわ」

どこかの漫画の女主人公みたいにため息をつく。

「たぶん、各部屋の子たちが集まってるのね。回収しに行くわよ」

事の発端は、最近メイドや執事達に出回っているあるモノだった。

それは写真だったり、時には動画だったりと形は違うが特定の人物が必ず写っている。私だ。

ここ数ヶ月、外に出かけたり友人と遊ぶ時に着替えたりすることが多かったためその時を撮影したものが屋敷内で出回っているようだ。

それを検閲して没収するため、こうして各部屋を襲撃しているわけだが…

「なぜかやたらと用心深いのよね」

基本的に屋敷内のメイドや執事達は一般人だ。

各部屋を少し探せば簡単に見つかるはずが、ある時を境にぱったりと見つからなくなる。

時々、不用心な子から没収するくらいで取引される瞬間などは見つかることはない。

「まぁ、大体はあの子達の仕業よね」


屋敷内のメイドと執事は3つのグループに分けられている。

屋敷の一般的な仕事をするメイドたち。管理運営やチーフなどを務める中堅層。そして条件をクリアし、私の身の回りのことを担当するベテランメイド及びバトラーだ。

彼らは各々特定の分野に関してエキスパートであるため、私としても非常に頼りになる。

とはいえ、その分敵サイドに回ると非常にやっかい。

現に今こうして情報の収奪や隠ぺい、裏取引などこの狭い空間のなかで見事にやってのけている。


レジスタンスがバリケードを展開している一階ラウンジに向かうと、そこはまるで戦場といった方がしっくりくる。

まぁ、基本的に武器類の使用は禁止だから、別に負傷兵が累々しているわけではない。

なんというか両者が向かい合う空間が非常に剣呑な雰囲気なのだ。

私はメイドたちが立てこもっているラウンジの方に向かって呼びかけた。

「ほら!あなたたち!こんなこと止めておとなしくなさい!写真も全部没収よ」

しばらくすると、扉の向こうから返事がする。

「お嬢様といえどこれらお宝はお渡しできかねます!!」

聞き覚えのある声が返ってきた。

どうりで見つからないはずだ。あの子はこういった密売などはお手の物だからだ。


「お嬢様」

メイドの一人が話しかけてきた。なぜか一羽の鳩が肩にとまっている。

「そうね。中を確認して」

肩にとまった鳩がバサっと翼を広げ飛び立った。まるで言葉を理解しているように。

鳩は窓から飛び立つと、メイドが鞄からタブレットを取り出した。そこには、空中から屋敷を見下ろす映像が映し出されている。

窓から中を確認していく。

やはり十数名のメイドたちが集まっており、扉の前には椅子や机が山と積まれており、完全に籠城しているのが見て取れる。


襲撃班たちに扉を開けさせようとしたが、まるで動く気配がなかった。

「はぁ・・玄武。扉を開けなさい。壊してはダメよ」

玄武は静かに頷いた。きびきびとした足取りで扉の前に向かうと、まるでパンチングマシーンに向かうように拳を構える。

「はぁ!!!」

そう叫ぶと、扉を一度殴りつけるた。

バキンッ!!と空気が割れるような音と共に、扉が勢いよく開いた。

施錠がわりに積まれた机やいすが開くと同時にラウンジのなかに散乱していく。

「突破したぞーー!!」

「いけいけいけ!!!」

襲撃班がどっとラウンジになだれ込む。

バーン!!

パリーン!!

乱闘騒ぎの音が鳴り響く。

襲撃班は一般のメイドたちを拘束しつつ、なかに積まれていた写真などを手早く回収していく。

あちこちで悲しい叫び声がこだましている。

「クッ!この写真は絶対に渡さない!」

見れば普段お付きのメイドも混じって襲撃班たちに抵抗していた。

ここまですれば諦めもつくだろうと高をくくっていたが、どうして抵抗が激しい。ラウンジの備品や壁紙などにまで被害が出始めた。

このままでは収拾がつかないだろう。

「あ~~!!!もう分かった!分かったわよ!!」

私の叫びに両者陣営はぴたりと動きを止める。みな固唾をのみながら私の次の言葉を待った。

私は回収したものの中から海やハロウィンでの写真を選ぶと、それを掲げた。

「もういいわ・・ほらこの4枚。この4枚だけならあなたたちの好きにしていいわ」

シーンと少しの間静寂に包まれる。


「「やったーーーー!!!!」」

先ほどまで争っていた陣営から喜びの声があがった。

見れば、さっきまで殴り合いの乱闘を見せていたメイドたちも喜びあって抱擁していた。


こうして、屋敷全体を巻き込んだ戦いは終結した。

当然、今まで不当に出回っていた写真やデータは没収。そのかわり、シーズンごとに私の記念ブロマイドが配布されるというのが条件となった。

歴史上の終戦の条約ってこんな感じで決まるのかな・・。

散らかってしまった屋敷を掃除するメイドたちの姿を、私は一人見つめていた。

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