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メンテナンス

ある整備士メイドの話。


人間の身体は多くの種類の骨や筋肉によって構成されている。

立ってみたり、座ったり、ひねったり、反らしてみたり。

この当たり前に行われている動作だけでも、非常に多くの部位が連動している。

まさに化学や物理といった科学分野の最高傑作というか、最大のお手本ともいうべき存在だ。

ドールは人間の姿を模しているとはいえ、そのほとんどはシンプルなパーツで構成されている。もちろんロボットとなると話は別だが。

命あるドールである私と言えど、人間の身体でない以上、その機能には限界がある。

人間が健康診断によって自分の身体の状態を知るように、私にもそういった機会は必ずある。


ーーーコンコン

「お嬢様をお連れしましたよ」

しばらくすると扉の向こうから少し間延びするような声が返ってきた。

「・・・はーーい!」

ーーーーガチャッ!

「ゆなお嬢様~~♫どうぞいらっしゃいです!」

眼鏡をかけた童女が扉を開けると出迎えてくれた。

「今日もよろしくね」

「はい~♫お任せください!それでは中へどうぞ!スリッパはこちらをお使いください♬」

基本的に屋敷ではみんな靴を履いているが、ここでは土足禁止となっている。

私は差し出されたスリッパに履き替えると、案内されるままにいつもの肘掛け椅子に腰かけた。そのまま整備士のメイドは着替えるために別室へと消えていく。

椅子の上で手持ち無沙汰にしているとお付きのメイドが紅茶を出してくれた。

「それでは私は少しの間失礼いたしますお嬢様」

「ん~。ありがと~。終わったら呼ぶわね」


整備士の部屋と聞くとなんだかいろいろな部品が転がっていたり、見たことない機器が所狭しとありそうだが、意外にもこの部屋はきちんと整理整頓されていて快適だ。

20畳ほどの部屋にあるのは複数のモニターと、作業をするための広い机。一つ一つきちんと整理された工具や部品の収められた棚。そして大きめのひじ掛け椅子が一つと小さなテーブル。

棚や机にはぬいぐるみやゲーム機がおいてあって冷たい印象などはなく、不思議と生活感も感じられて落ち着く。


「お待たせしました~」

しばらく待っていると、別室で着替えた整備士のメイドが入ってきた。

腰まである髪をきちんと後ろで束ね、マスクにラテックス製の手術用手袋といったまるで外科医のような恰好をしている。

いつも思うが、整備にしては妙に仰々しい。


「それでは今月2度目の整備をさせて頂きますね~」

整備士のメイドが肘掛け椅子のそばまで寄ってくると、私の左足を抱くようにして持ち上げる。

「ん・・よろしくね」

私は自分の脚の付け根を掴むと、少し力を込めて引き抜く。

特に抵抗もなく、するりと左足が外れた。

痛みや不快感はないが、付け根から足がなくなった分すこし重心が傾く。

メイドはしっかりと左脚を抱えると、作業台まで慎重に運んでいく。

「では少しの間お待ちください~♫」


身体のパーツのメンテナンスは月に2回行われる。

基本的には四肢と腰と首のあたり。お風呂にも入れる身なので汚れはたまりにくいが、内部機構に問題はないかはさすがにわからない。人間と同じように四六時中動き回っている私の身体はその分負担も大きい。

なので、大事をとってこの頻度での整備となっている。といっても、今までに不思議と大きな故障は一度もなく、せいぜい砂粒みたいなものが挟まって動きが悪くなる程度だった。

いったいどんな仕組みで動いているのかは自分でもさっぱりわからない・・。


「ん~今日も特に問題はありませんね~」

こうしてメンテナンスをしてくれているメイドは、元々はロボット工学の博士号も持つエンジニアだった。

私が産まれると同時にこの屋敷に招かれ、今は私の専属の整備士となってくれている。

メイドとは言っても屋敷のことにはほとんどタッチはせず、大体は自室にいるか、もしくは外の研究室か学会に足を運んでいることが多い。

だから私も会うのは2週間ぶりだった。

「こちらの方は終わりましたので、次は右をお願いいたします」

整備の終わった左脚を戻すと、同じように右脚を託した。

順々に必要なパーツを見てもらう間、メイドはロボット工学や外での話を話してくれた。時々専門用語が出てくるが、そのたび簡単に違うものに例えたりして分かりやすく説明してくれる。

最後に首の整備を始めたとき、ふと聞いてみた。


「そういえば、なんで私のお屋敷で整備係なんてしてくれることになったの?」

「んー?」

メイドは作業を続けながら聞く。

「こんな辺鄙なところに住まなくても、あなたを必要とする企業とかあるんじゃないの?」

「んー・・・そうですねぇ」

メイドは少し考えるように手を止めると、私の正面に回り込みまっすぐと見つめてきた。

「私はお嬢様が好きですから♫」

なんの飾りもなくシンプルな応えだった。

「そ・・そう」

私はその率直さに照れてしまう。

メイドは再び、私の後ろにまわると作業を開始した。

何とも言えない沈黙が流れた。

数分後、無事何ごともなくメンテナンスが終了する。

「はい!今日もどこも異常はございません!お疲れ様でございました!」


その日一日。

マッサージしてもらったように、身体が軽やかだった。

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