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お風呂事情

このお屋敷に住むようになってから、すでに1年近く経った。


最初は広くて持て余すほどだったけど、私のお世話をしてくれるメイドと執事たちがだんだん増えてきて、今では埃のたまっている場所などほとんどないと言ってもいいかもしれない。


リビングにあたる広間やキッチンはもちろん、長い廊下や庭にもみなが忙しそうに働いてくれている。

基本的にどこに行くにも常に誰かが待機しているので、防犯を含めて人手に困ることはほとんどない。


とはいえ、いくら私でも常に人の目があるのはさすがに疲れてしまう。プライバシーはいまやドールにもあるのだわ。

普段の私の生活は、メイドたちに連れられて習い事や人に会ったりと気を張るような時間を多く強いられる。

だから帰れば、一人自室にこもって思うままゴロゴロしてみたりして時間を過ごしている。にゃん太郎にははしたないと小言を言われるけど適当に聞き流しておくのだわ。


そして、次に私が一人だけで時間を過ごす場所。

それはお風呂だ。

ドールがお風呂に入るのは意外というかそもそも想定してはいないと思う。

私の身体は汗や垢も出ないため臭いなどが気になったりはしないけど、それでも生活をしていればつく埃などを落としたい気持ちもあるし、何よりお風呂に入らないというのが不衛生な感じがして嫌だった。


とはいえドールのケアというのは非常に気を遣う。

素材にもよるが人間以上に繊細で傷つきやすく、自己修復がない分ひょっとすると赤ちゃんよりも手がかかるかもしれない。

私と言えどそれは変わらない。

なので、刺激のあるシャワーや石鹸で洗うのを避け、バスタブに身体をつかるだけにしている。


―――チャポン

バスタブにゆったりと身を浸からせる。

あまり熱いお湯ではボディが傷んでしまうから、人肌くらいのぬるま湯に身体を浸す程度。

じんわりと身体が温まってとても気持ちがいい。


「はぁ~・・」

気が抜けていくような声がでてしまった。

入浴剤が溶けて乳白色になったお湯も柔らかくていい。

本当は溶けると宇宙みたいになる入浴剤も使ってみたいけど、以前粒子が関節に詰まって軋んだことがあり、なんとなく不快だったのでそれ以降固形は使っていない。


私はやや響きやすい風呂場のなかで、最近気にいっている曲のメロディーを口ずさんだりしてゆったりと過ごした。


10分くらいしてバスタブからあがると、あらかじめ用意されていたバスタオルで丹念に水気をとっていく。

ごしごしとこすると肌が傷んでしまうので、ぽんぽんと優しくのせるような感じ。

以前はメイドたちがやってくれていたのであまり気にはしていなかったが、自分でやるとなるとなかなかに骨だった。


使い終わったタオルをバスタブにかける。

あとは着替えて終わり・・とはいかない。

大きな鏡の付いた化粧台から化粧水やパウダーの入ったボトルを取り出すと、丹念に身体に塗っていく。

こうしないと肌が乾燥して傷んでしまうのだ。このへんは普通の女の子と変わらないと思う。

ある程度塗布し終わると下着をつけ、コンコンと扉を叩く。

「あがったわ」

一人のメイドが扉を開けて入ってきた。

「失礼いたします」


さすがに背中などは自分では綺麗に塗れないので手伝ってもらうようにしている。

メイドも手慣れた様子で背中に化粧水を塗ってくれる。

「お湯加減はどうでしたか?」

「うん良かったわ」

ボディのメンテに関わることなので、メイドも非常に気を遣ってくれている。エンジニアに近い存在かもしれない。

「いつも完璧よ、ありがとう」

私の言葉にメイドはニコッと笑うと、寝巻に使っている浴衣を着せてくれた。

「熱いからあとでアイスティー飲みたいわ」

「承知いたしました」

そんな会話をしながら部屋を出る。


数十秒後。

ーーーーしゅたっ!

天井の一部が外れたかと思うとメイドが一人飛び降りてきた。

右耳に錠剤のピアスが光っている。

「ふふふ・・・今日もお嬢様かわいかった・・私のお嬢様フォルダもどんどん充実していく!」

メイドは手に持った一眼レフカメラに映る写真フォルダをスライドさせながら一人悦に浸っていた。

「これで今度のプレゼンも私の圧勝!」

メイドは天高くカメラを掲げると自らの勝利を確信した。


「・・ふ~ん。プレゼンねぇ・・私もぜひ参加したいわ」


見ると、部屋を出ていったはずの浴衣を着た少女が腕を組み、メイドを見つめていた。

顔はにこやかだが、纏っている雰囲気は修羅のそれだった。

「あ、お嬢様・・・」

メイドは冷や汗を顔中にかきながら、しどろもどろと次の句を探している。


その夜、屋敷では徹底的な検閲が行われた。

年貢を取り立てられるかのように泣き叫ぶ者もいれば、バリケードまで作って抵抗する者もいて夜を徹しての徹底抗戦となってしまった。

結局、明け方に再びお風呂に入る羽目になってしまった。

湯舟につかりながら、なんとなく天井や壁が気になってしまう。

「今度槍か鉄砲でも置いておこうかしら・・」

はぁ・・とため息を一つつく。

ぴちょん・・と水滴が湯舟に波紋を広げた。

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