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12. 低階層での高効率経験値稼ぎは基本です

 第3階層は慣れてしまえば非常にオイシイ狩場だった。


 徘徊しているモンスターは基本的にゾンビだけ。

 常にうめき声を上げているので奇襲される心配は少なく、移動速度が遅いので対処が楽だ。

 慎重に2人で囲んで狙われていない方が四肢を攻撃していく戦法なら、手間はかかるが危なげなく狩ることができる。


 ゾンビは銀の剣を使わないで浄化せずに倒すと、スケルトンとして復活して地面から這い出してくる。


 スケルトンは骨が硬いし動きも素早く、しっかりと剣を使いこなす上、生半可な攻撃は盾で防いでくるやっかいなモンスターだ。


 だが、少しズルい戦い方をすれば簡単に狩れることがわかった。


 それはスケルトンが地面から出てくる途中を狙うやり方。

 真っ先に出てくる骨の手を、銀の剣で消し飛ばしてしまうのだ。

 すると地面から出てくるのは、剣も盾も持てない腕なしスケルトン。

 あとはもう、動くだけの哀れなマトにトドメを刺すだけだ。


 もちろん言うほど簡単ではない。

 スケルトンが這い出してくるときの隙はあまり長くないのだ。

 ただ、ゾンビを倒してからスケルトンが出てくるまでの時間は一定のようなので、時間を計ってタイミングを合わせれば問題はなかった。


 そして、スケルトンを浄化せずに倒すと、次に出てくるのはゴーストだ。

 第3階層最大のカモである。


 出現と同時に銀の剣を一振りするだけの簡単なお仕事。

 それなのに経験値はスケルトンの20倍、800ももらえてしまうのだ。

 レベル上げにもってこいである。


 今のところ、ゾンビとスケルトンのトドメは小宮山に任せ、ゴーストは俺が倒している。

 そうするとアンデット3体の1セットを倒すにつき、小宮山に入る経験値は20と40の合計60で、俺に入る経験値は経験値増加スキルの分を合わせて850となる。


 取得経験値が圧倒的に偏ってしまった。

 これではレベル差は開く一方だが、それには仕方のない事情がある。


 銀の剣でないとゴーストは倒せなかったのだ。


 一度だけ、小宮山にもゴースト狩りに挑戦してもらっている。

 だが、どうのつるぎはことごとく空を切った。

 剣がゴーストを通り抜け、まったくダメージを与えられなかったのである。


 物理攻撃無効。

 そんな幽霊モンスターにありがちな特性を持っていたのだ。


 アンデット特効のスキルを持つ銀の剣は、その特性を無効化できていたのだろう。


 そして今のところ、それしかゴーストへの対抗手段はなかった。

 もし銀の剣が拾えてなかったら、と考えるとぞっとしてしまう。


 結局、ゴーストは小宮山を襲う前に俺に斬り捨てられることになった。


 俺と小宮山のレベル差を少なくする一番簡単な方法は、小宮山が銀の剣でゴーストを倒すこと。

 だがそれは、呪われたどうのつるぎが装備から外せないので不可能だ。


 銀の剣をシステム的に装備していない状態で無理やり使ってみたりもしたけれど、うまくはいかなかった。

 小宮山が身動きの取れなくなったゾンビ相手に銀の剣を突き立てても、普通に剣で刺したような傷しかできず、灰になることはなかったのだ。

 武器アイテムが持つアンデット特効のようなスキルは、装備状態でないと効果が発揮されないのだろう。


 まあ、無理なものは仕方がない。

 この階層でのレベル差解消は諦めて、ひとまずレベルを上げられるだけ上げておくことにする。

 小宮山には、アンデットばかりの階層を抜けた先でレベル上げをさせればいい。


 第3階層をどんどん進み、アイテムを拾いつつアンデットたちを殲滅していった。


 最終的に俺のレベルは4も上がり、12になった。

 小宮山も3つ上がってレベル7だ。

 さらに銀の剣の強化値も+1されて、銀の剣+3になっていた。


 しっかりとマップ全体を調べつくして、できるだけモンスターを倒すように3階を踏破し終えると、途中で見つけた4階への階段を下る。


 【第4階層 忘れられた地下墓所(カタコンベ)奥部】


 引き続き4階もアンデットダンジョンのようだ。


「うっわ……この不気味な風景、まだ続くのかよ」

「俺はその方が楽でいいよ」

「くっそ、ひとりで無双しやがって……。銀の剣ずるくね? チートだろ」

「でも、この剣がなかったら3階は結構つらかっただろ」


 スケルトンはあんなにあっさりと倒せなかっただろうし、ゴーストはそもそもダメージを与えられない。

 ゾンビやスケルトンを倒すにつれて、どんどん増えていくゴーストから逃げながらの探索になったはずだ。


 倒せないゴーストを増やさないためにも、ゾンビを倒さないで逃げに徹する戦略も必要だった。

 そうするとまともにレベル上げはできなかっただろう。


 難易度が上がるどころの話じゃなく、根本的な攻略方法が変わってくるだろう。

 バイオの4以降とそれ以前くらいに違う。

 もはや完全に別ゲーだ。


 とにかく、この階層でもアンデット特効が猛威を振るってくれるはずだ。


 出てきたモンスターは相変わらずのゾンビ。

 ただ、前より数が多い。

 複数同時に相手をしなければならない場面が頻発した。。


 ゾンビは耐久力がやたらと高いので、1体を倒しきる前に横から他の1体に襲われる危険性を排除できない。

 複数になるととたんに厄介さが増すのだ。


 しかしそこはやはり銀の剣の出番。

 出てきたゾンビが2体だろうが3体だろうが、1体だけを残して他は一撃で浄化してしまえば問題ない。


 残りの1体は特効は使わず普通に倒して、スケルトンとゴーストとして復活させて経験値を稼ぐ。

 そこは3階のときと同じやり方だ。


 そんな風にゾンビを処理しながら4階を進んで行くと、3階ではうろついていなかったモンスターが近づいてきた。

 それはスケルトン。

 もちろんもう見慣れたモンスターだが、3階ではゾンビから復活させる以外では見かけなかった。

 4階では普通にダンジョンをさまよっているようだ。


 スケルトンはこちらを捕捉すると、すぐさま軽い身のこなしで襲いかかってきた。

 いつも通り標的は小宮山。

 俺は横から斬りかかる。

 盾を構えて防ごうとするスケルトン。

 だが斬撃の軌道をずらして盾を避けると、切っ先はスケルトンの頭蓋骨をかち割った。

 特効の効果で浄化され全身が灰と化し消えていく。


 スケルトンと初めて戦ったときは似たような状況で防がれてしまったが、今なら盾のガードも余裕で さばける。


 あのときからレベルが4つも上がっているおかげだろう。

 ステータスの『筋力』が上がって剣閃は鋭さを増し、『敏捷』が上がったおかげか瞬時の対応が可能になり、『精密』が上がった影響でイメージした通りの剣さばきができる。


 スケルトンが小宮山に気を取られず、真正面から相手をすることになったとしても苦戦することはないだろう。

 おそらく、銀の剣がなくてもそれは変わらない。

 スケルトンはもう、余計な小細工をしなくても余裕で対処できる相手なのだ。


 ただ、ゾンビと違ってすばしっこいので奇襲には気をつけなければいけない。

 4階の探索は気を抜くことができなそうだ。


 それに、スケルトンがうろついてるならアイツがダンジョンをさまよっていてもおかしくないだろう。

 そんな予想をしていると、案の定、通路の先に広がる暗闇の奥から半透明の白い影が姿を現す。

 ゴーストだ。


 すぐに処理するため駆け出す。

 だが、瞬殺するには少し距離が離れすぎていた。

 ゴーストがなにかを仕掛けるには十分な時間がある。

 もしも特殊な攻撃手段を持っていたら先手を取られてしまう。


 ゴーストの攻撃方法はまだ見たことがない。

 なにをしてくるかわからない不気味な存在だ。

 わかりやすい武器などは持っていないので、もしかすると魔法を撃ってくる可能性だってある。


 なにが飛び出してきても焦らないように心の準備を済ませ、決死の覚悟で飛び込んだ。


 しかし、なにごともなくゴーストは斬り捨てられて消えていった。


「遠距離攻撃は持ってないのか……?」


 だとしたら、銀の剣がある現状では脅威とは思えない。


 音もなく忍び寄ってくるところは油断ならないが、その動きは遅く、人が歩く程度の速さでしか移動できないようだった。

 それなら目視による索敵をしっかりとやれば奇襲は防げるだろう。


「なんだ、ゴーストはここでもザコじゃん。こりゃ4階も楽勝だな!」

「小宮山、そんなこと言って気を抜くなよ――って、おい!! 後ろだ!!」

「――はぁ!?」


 突如、小宮山の真後ろに現れたゴースト。


「ひぃ!? く、来るな!?」

「バカ無駄だ逃げろ!!」


 どうのつるぎをメチャクチャに振り回す小宮山。

 だが、そのすべてがゴーストの霊体をすり抜ける。


「う、うわぁぁぁああああ!?」


 慌てて逃げに転じる小宮山。

 俺はそれをフォローするため駆け出すが、間に合わない。

 小宮山がゴーストに背を向けた直後、伸ばされた青白い腕が肩に触れた。


「――っ!?」


 声にならない悲鳴が響く。

 小宮山はそのまま崩れ落ちるようにして倒れ伏す。


「小宮山っ!!」


 大声で呼びかけても返事はない。

 それどころかピクリとも動かない。


 まさか死んだのか!?

 くそっ、とにかく今はゴーストの処理が先だ!!


 即座に銀の剣を一閃。

 倒れた小宮山に覆いかぶさろうとしていたゴーストが両断されて消えていく。


「意識はあるか!? 返事をしろ!!」


 駆け寄って声をかけるが、やはり反応はない。


 即死攻撃。

 そんな最悪の予感が脳裏をよぎる。


 焦って揺さぶろうとしてしまうが、すんでのところで思いとどまった。

 意識のない人間にそれは危険だ。


 とにかく冷静になれ!!

 まずは呼吸の確認だ!!


「聞こえるならなにか反応をしてくれ!!」

「……くか~」

「……」


 ……寝息?


 うつ伏せに倒れる小宮山の頭をずらし、見えなかった顔を確認する。


「……う~ん、むにゃむにゃ」


 無性にイラッとする無駄に幸せそうな寝顔がそこにはあった。


 ……余計な心配かけやがってこの野郎。


「おい起きろコラ」

「うがっ!?」


 頬をひっぱたくと痛そうなリアクションが返ってきたが、目は覚まさない。


「おーい、いつまで寝てるんだこのバカ野郎」

「あがっ!? うごっ!? へべぇっ!?」


 ビシバシと何度張り手をかましても、一向に起きる気配はない。

 無駄なようなので少し時間を置いてみよう。


 時折ふらっとやってくるアンデットたちを斬り捨てながら待ってみると、小宮山は5分ほどで目を覚ました。


「あれ……? オレ、今寝てた……?」

「完全に寝てただろ。おっさんみたいなこと聞くな」

「いやいや、たしかダンジョン攻略してたよねオレ!? なんで寝てんの!? こわっ!?」

「ゴーストの攻撃で眠らされたんだよ。それも、攻撃され続けても起きないほど深い眠り、なんて凶悪なやつだ」

「えっ!? ご、ゴーストやべぇ!? つーか、アイツ突然後ろに現れたよな!? どこから出てきたんだよ!?」

「壁の中からしかないな」

「か、壁っ!?」


 小宮山の真後ろには部屋の壁しかなかった。

 そして、そこからゴーストがスッと姿を現した瞬間を俺は見ていた。


 壁を通り抜ける。

 幽霊ならできてもおかしくないことだろう。


 物理無効に睡眠攻撃、そして壁抜け能力まで持っていたのだ。

 移動速度が歩く程度なことを差し引いても、ゴーストは思っていたよりずっと厄介なモンスターだったようだ。


「ところで、なんか頬が腫れててスゲーひりひりすんだけど、なにか知らね?」

「いや、思い当たることはなにもないけど?」

「うーん……? そうか? まあ、いいや」


 しれっと返すと、小宮山は赤くなった頬を押さえて首を傾げている。

 そんなことより今は4階の攻略だ。


 壁の中からの奇襲を考えると、とたんに難易度が跳ね上がる。

 なにせ少しでもゴーストに触れられたら眠らされるのだ。


 もしも俺が眠らされたら、ゴーストを倒す手段はなくなってしまう。

 そんな状況を小宮山ひとりで切り抜けるなんて無理だ。


 とにかく部屋の中では壁に近づいてはいけない。


 そして、より危険な場所は通路。

 壁と壁の間が狭く、離れるにも限界があるからだ。

 そんなところでゴーストに出くわすのは悪夢である。

 多少危険でも駆け抜けるように通過すべきだろう。


 少しでも気を抜けば全滅するかもしれない。

 そんな危機感を持ちながら第4階層を突き進んで行く。


 しかし、それは杞憂に終わる。

 案外、攻略は順調に進んでいったのだ。


 懸念していた壁からの奇襲も割となんとかなった。


 遊び人のスキルのおかげでゴーストは小宮山を狙う。

 眠らされるのが小宮山なら、いくらでもリカバリーはできる。


 それに、小宮山は職業スキルによって逃げ足が速い。

 最初から逃げに徹すれば、たとえ至近距離からの奇襲でも意外とかわしきることができたのだ。


 そして、奇襲を避けるための速度重視の強行探索も上手くいった。


 ダンジョンを駆け抜けるのはもちろん危険だ。

 十分な索敵ができないので、曲がり角でモンスターとばったり出くわす、なんてことが何度もあった。

 だがそこで、3階のゴースト狩りで十分以上に上がっていたレベルが猛威を振るう。

 迫り来るアンデットたちは鎧袖一触。

 大した障害にならない。


 強行探索を始めたころは階段を見つけたらすぐにでも下りるつもりでいたが、思ったよりも危険はなかったので、結局、第4階層も隅々まで探索して経験値を回収していた。


 俺のレベルはさらに3つ上がって15に、小宮山もひとつ上がりレベル8だ。

 剣の強化値もひとつ上がって、銀の剣+4になった。


 戦力をしっかりと整えて、俺たちは第5階層へと続く階段を下りていく。

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