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10. 序盤で強武器を拾うとテンションが上がる

 通路よりさらに薄暗く、足下ぐらいしか見えない階段を下りていると、一瞬のうちに周囲の風景が切り替わった。


「は……?」

「ありゃ?」


 周りに広がっている空間は第1階層の部屋のものとほとんど同じ。

 広さは郊外のコンビニくらいで、木材で補強された岩壁にはたいまつが等間隔に並ぶ。

 後ろを振り返っても、今さっき下りてきた階段が見当たらない。


 慌ててアプリを確認すると、今まで作ったマップが消えていて、初期状態のような新しいものが表示されていた。


 【第2階層 小鬼の坑道深部】


 階層の表示も変わっている。

 どうやら俺たちは、いつの間にか第2階層に放り込まれていたようだ。


「前の階層には戻れないシステムなのか」

「ほーん、なるほどなるほど。こっから先は一方通行だ! ってことだな」

「別になんも上手いこと言えてないだろ。ウザイから今すぐそのドヤ顔をやめろ」


 1階はすべて調べ終えていたので、戻れなくても問題はない。

 とりあえず、階段はアイテムの回収やレベリングのことも考えて下る必要がある、と覚えておけばいいだろう。


 とにかく、第2階層といってもやることは同じで、ワナやモンスターに気をつけながら進むしかない

 俺たちは再び、アプリのマップを埋めていくように探索することにした。


 2階に出てくるモンスターは、引き続きゴブリンとコボルトだ。


 ただし、1階ではたまにしか出てこなかったコボルトがここではガンガン出てくる。

 さらにゴブリンの持っている武器も、さびたナイフからしっかりとした剣、斧、槍に変わっていた。


 戦闘力の高いコボルトが複数同時に現れると厄介だし、ちゃんとした武器を持つようになったゴブリンはリーチや攻撃力が上がっていて油断できない。


 だが、それは普通に戦った場合の話である。

 高出力フラッシュライトでの目潰しを使えば、余裕で対処できてしまうのだ。

 正直言って1階のときと大した違いはなかったので、2階も順調に進むことができた。


 その途中で、待望の二本目の剣が見つかる。

 抜き身の剣とその鞘が飾られるように部屋の壁に掛けられていたのだ。


 剣はデザインこそシンプルだが白銀の美しい刃を持ち、鞘には装飾が施されていて高級感がある。


「おお! なんかいかにも高そうじゃん! オレ、こっち使ってもいい?」

「お前の剣、呪われてて交換できないだろ」

「くっそ!! そういやそうだった!!」


 壁に掛かった剣を取り外して装備してみる。




 【銀の剣】

 カテゴリー:武器

 不浄を清める銀で作られたロングソード。

 アンデットに対して非常に大きなダメージを与えることができる。


 合計攻撃力:6

 基礎攻撃力:6

 強化値:±0

 メイン武器スキル:アンデット特効

 サブスキルスロット:5




「性能はどうのつるぎの完全上位互換か。効果もついてるし」

「ええ!? ズルっ!?」


 ためしに振ってみると、白銀の刃が虚空を一閃した。


「……なるほど、これはすごいな」


 素人とは思えない堂に入った剣筋。

 扱い方がなんとなく理解できる不思議な感覚のおかげだ。

 これが武器アイテムを装備した恩恵なのだろう。


 この剣があれば、ダンジョン攻略はさらに楽になりそうだ。


 さっそくためし切りでゴブリンやコボルトを斬り捨ててみるが、どちらも一撃で倒すことができた。


 ただ、レベル5の現状だとスレッジハンマーでも同じく一撃なので、少し敵の強さにもの足りなさを感じてしまう。

 アンデット特効も、該当モンスターがいないのでためすことができずに不満が残る。


 それでも、銀の剣を使えばハンマーよりスマートに敵を倒すことができるので、疲労がたまりにくくてとてもよい。


 そして、2階層のマップを埋めながらどんどんモンスターを狩っていくと、突然、剣の切れ味が少しよくなったように感じた。


『【銀の剣】の強化値が上昇し、【銀の剣+1】になった』


 アプリのログにはそんな表示が出ていて、剣の合計攻撃力が6から7に上がっていた。


 思っていたよりも早く強化されて嬉しかったが、さらに同じくらいの数のモンスターを倒してみても強化値が上昇することはなかった。

 おそらくレベルと同じでだんだんと上がりづらくなっていくのだろう。


 第2階層のマップをすべて埋め終わる頃には、もう1回強化値が上昇していて、銀の剣+2になっていた。


 レベルは俺が2回上がって7に、小宮山が1回で4に上がっている。


 効果が不明なアイテムの回収も一通り終わったので、第3階層へと続く階段を下りることにした。





 ◇ ◇ ◇





 【第3階層 忘れられた地下墓所(カタコンベ)


 階段を下りると、まるで転移でもしたかのように一瞬で周囲の景色が変わり、今までとはかなり空気感の違う部屋に立っていた。


 地面は踏み固められた土。

 壁を形作るのはは隙間なく積まれた丸い石。

 その丸い石の中に時々混じっている頭蓋骨。

 そして背後に立つゾンビ。


「――ヴぉおぁぅアぁうォあうァをあアぁぁァあぁァあ゛あ゛あ゛!!」

「ひ、ひ、ひぃぃぃいいいいいいい!? ぞ、ぞ、ぞぞぞぞ、ぞんびぃぃぃいいいいいいいい!?」

「いきなりかよ!!」


 小宮山の情けない悲鳴が響き渡る。

 周囲が3階に切り替わった直後、すぐ近くにいたゾンビが小宮山に掴みかかったのだ。

 振り払おうとする小宮山だが、ゾンビの力が強いのかまったく上手くいかない。


 くそ、ヤバイな!!


 銀の剣で斬りかかろうにも、小宮山とゾンビは組み合いながら暴れているので狙いが定まらない。

 これじゃあ小宮山まで斬ってしまう。


「痛っ!? か、噛まれた!? や、や、やめろぉおおおお!?」

「小宮山!! 少しの間だけでいいから動くな!!」

「ムチャ言うなよ!? ムリムリ、絶対ムリぃいいい!!」

「なら喰い殺されるぞ!?」

「く、喰いころ!? ひぃいいい!?」


 一瞬だけ恐怖に固まった小宮山に合わせて、銀の剣をゾンビの脇腹に突き入れる。


「――あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 直後、悲鳴を上げてのた打ち回るゾンビ。

 銀の剣が刺さった傷口は炭化し、そこから噴き出した青白い炎がだんだんと体全体に広がっていく。

 すぐに全身が灰に変わると、最終的には黒いモヤになって空気の中に溶けていった。


「大丈夫か小宮山!?」

「ヤバイヤバイヤバイ、ゾンビに噛まれた!? ヒジが!? 俺のヒジが!?」

「とにかく傷を見せろ!!」


 焦る小宮山の腕を掴み、強引に状態を確認した。


 バイクウェアの強靭な繊維はぼろぼろに破け、ヒジ部分を覆っていたプロテクターはひしゃげて砕けてしまっている。

 だが、出血は見られない。

 ウェアとプロテクターがゾンビのキバをぎりぎりで防いでくれたようだ。


「血は出てないし……なんとか大丈夫みたいだ。……プロテクターがあって本当に助かったな」

「だ、大丈夫なのか!? オレ、ゾンビになったりしねえよな……!?」

「大丈夫だから安心しろ」


 根拠はないが、落ち着かせるためはっきりと断言しておく。


「ああくそっ、次の階層に転移した直後に奇襲とかふざけんなよムリゲーだろ……」


 じっとりと吹き出る冷や汗に、思わず悪態をつく。


「……というか小宮山、まだいけそうか?」

「ゾンビむりゾンビむり……まじゾンビむり、まじムリ、ゾンビまじゾンビ……」

「……」


 ダメそう。


 まあ、仕方ない。

 俺だってあんな目にあえばしばらくは立ち直れない自信がある。


「ああうん、わかった、ちょっと休んでろ。とりあえず後ろをついて来るだけでいいから」

「……ま、待て高梨。オレも、戦う……。足手まといになんて、なる気はねえぜ」


 先に進もうとする俺を、小宮山は顔を真っ青にしながらもキメ顔で引き止めてきた。


 案外ガッツがあるな。

 小宮山にしては珍しくへたれてない。

 それだけダンジョンの攻略に意気込んでいるのだろうか。


 ただ、かなり無理をしているようなので、しばらくはフォローをしながら俺がメインで戦うべきだろう。


 3階を進んでいくと、遭遇するのはやはりゾンビだ。


 ゾンビは移動速度が遅く、奇襲さえされなければ苦戦することはなかった。


 目が腐っているゾンビ相手ではフラッシュライトによる目潰しは意味がない。

 だがその代わり、敵のヘイトを集める小宮山の職業スキルが非常に役に立った。


 スキルのおかげでゾンビはまず最初に必ず小宮山に襲いかかろうとする。

 そこで、小宮山へ向かって歩いていくゾンビを俺が横から切りつけてみると、あっさりと片付いてしまう。

 ほとんど危険がない簡単な作業だ。


 もちろんゾンビが小宮山を狙っていても、俺が攻撃できるほど近づけば俺に襲いかかってくることもある。


 そんなときはクロスボウの出番だ。

 小宮山の撃った矢が刺さったゾンビは、俺のことなど忘れてしまったかのように小宮山に向かっていくようになる。

 そうなったらもう背後や横から斬りかかって終わりだ。


 ゾンビは銀の剣で斬りつければ必ず一撃で倒せる。

 ホラー映画などの印象から非常にタフでなかなか死なないイメージがあるが、あっさりと倒せてしまう。

 おそらく、銀の剣のスキル【アンデット特効】の効果だろう。


 ちょうどよく銀の剣が拾えたのは、もしかするとかなり運がよかったのかもしれない。


 小宮山のスキルと特効武器が持つ圧倒的なアドバンテージを有効活用して、俺たちはゾンビを斬り捨てながらダンジョンのさらに先へと進んでいく。

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