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ムキムキ鋼鉄ボディの元警察官(女)は――愛らしい姫に転生しました!

 幼少時から剣道一筋だった私、井上愛沙いのうえあいさは、日々練習に明け暮れ、日焼けした肌にショートカットがトレードマークのスポーツ少女だった。

 剣道と相性がよかったからか、中学生、高校生と連続で全国一位に輝き、国内女子の中では敵なしというところまで上り詰めた。

 大学卒業後は地方公務員試験を経て警察官となり、竹刀の代わりに警棒を振り回していた。


 そんな私の人生は、案外短かった。


 よく思い出せないけれど、犯人ともみ合い、ナイフで心臓を一突きされたことが致命傷となった。

 剣道の間合いだったら絶対に負けないのに、と悔しい思いの中で死んでいったことは覚えている。

 まだ、二十代だった。

 結婚もしていないし、彼氏だってできたことがない。

 何人か、言い寄られているかな? なんて思ったことはあったけれど、色恋沙汰なんて恥ずかしいからと、気づかない振りをしていた。

 こんなに早く死ぬならば、誰かと適当に付き合っておけばよかった。なんて思ったときには目の前が真っ暗になる。


 ――生まれ変われるのならば、お姫様になりたい。


 可愛いものに囲まれて、ひらひらのドレスを着て、可愛く生まれた姫君は大勢のイケメンに好きだと言い寄られるのだ。

 そんな人生がいい。きっと、楽しくてたまらないだろう。


 神様は若くして、処女のまま死んだ私を気の毒に思ったのか、願いを叶えてくれた。


 私は前世の記憶を持ったまま、新しい世界に転生したのだ。   


 ここは、地球ではない――地球によく似た異世界。

 私は大国『プリムヴェール』という国の、姫君として生まれ変わった。

 プリムヴェールは十九世紀のヨーロッパに街並みや文化が似ており、ドレスに宝石、夜会にティーパーティーなど、乙女の夢を詰め込んだような国だった。

 侍女が私を可愛らしく着飾り、鏡に映してくれる。

 ダイヤモンドを溶かして紡いだような銀色の髪に、新緑を思わせる緑の瞳、白い肌に華奢な体と、黒髪黒目、筋肉質だった前世の私とはまったく異なる姿に転生した。

 若干、容貌は前世の面影を残しているが、気にしたら負けだ。

 名前もアイシャと、前世の名前の愛沙と近かったからか、違和感なく受け入れることができた。 


 赤子でありながら前世の記憶がある違和感も、すぐになくなって楽しむ余裕が芽生えてくる。


 花よ、蝶よと育てられた私は、三歳となった。誰もがうらやむような愛らしい姫に育ったと、自負していた。

 母は美しく、侍女やメイド、乳母も優しい。教育係のじいやは厳しいが、愛あるからこその厳しさだろう。

 二回目の人生は、このまま可愛いものに囲まれて、箸より重たい物は持たない。そう思っていたのに、想定外のことが起きる。


 この国に箸がなかったとかそういう問題ではなく、命を脅かすようなとんでもない環境の中に放り込まれてしまったのだ。


 ずらりと集められた同じ年の弟妹は十名。皆、誕生日は一ヶ月と離れていない。

 どういうことやねんと思ったが、全員腹違いというわけだった。

 国王は十名も、妃を迎えている欲張りボーイだった。

 いや、親父はどれだけ絶倫なんだよと、そちらの方面でも突っ込みたくもなる。


 母と子が対峙するのは、国王だ。今日、はじめて会った。

 年頃は三十前後か。顔立ちは整っているが、筋骨隆々で野性味溢れる青年だった。

 王族という感じはしない。どこぞの部族の長と言ったほうがしっくりくる。

 目と目が合った今この瞬間に、私の緑色の瞳は親父譲りだったのだと気づく。

 同時に、ゾッと鳥肌が立った。

 緑色の瞳の中に、狂気が見え隠れしていたような気がしたからだ。


 国王は、ありえないことを口にした。

 この中の子で、最後に生き残ったものを国王とすると。

 聞き違いではない。女も男も関係ない。強き者に王座を継がせると言いやがりました。


 弟妹の中で、国王の話が理解できたのは、私くらいだろう。

 だって、みんな揃って三歳児なのだから。


 スタート地点はみんな平等、なのだろうか。

 おそらく、これをやりたいが故に、計画的に子作りをしたに違いない。恐ろしい男だ。


 そんなわけで、幸せだった生活は一気に転落する。 

 野心を抱いた妃らは、自分の子を国王にするためにありとあらゆる手を尽くし、ライバルである弟妹を蹴落とそうと画策していた。


 半年後――最初に脱落したのは、母だった。

 ナイフで襲われた私を庇って、死んでしまった。


 情けないことに、前世の死因の因果なのか、ナイフを前にすると震えが止まらなくなってしまうのだ。


 母はあっけなく、死んでしまった。

 それが、私の中にあった何かのスイッチを、カチリと入れてしまった。

 自分の身は、自分で守らなければ。

 トラウマだったナイフは、真っ先に克服する。今では、ナイフと一緒に並んで眠る仲だ。もう、怖くない。


 この修羅の国で生き残るには、力が必要だった。

 再び剣を握った私は、前世同様逞しく育ってしまった。

 年頃の娘らしく髪はハーフアップにして、リボンで結びたいなんて思っていた。けれど、暗殺者に長い髪を掴まれ、殺されそうになってから髪は短く切ってしまった。

 長い髪には憧れていたけれど、それが命取りともなれば切るしかない。

 幸いというべきか、鍛錬を積んでも、前世のような細マッチョなボディにはならなかった。

 腕にはしなやかな筋肉が付いているが、そこまでムキムキではない。

 日本人と外国人の体の違いなのだろう。

 相変わらず、前世の私の面影はあったものの、そこそこの美少女に育った。


 ただ、毎日は殺伐としていて、命を狙われるのは日常茶飯事。

 寝室で毒虫とコンニチワすることも珍しくない。

 私の心は、前世以上にやさぐれていた。


 そんな私に、一通の手紙が届く。砂漠の国の王子からだった。

 貧しい国の王子が、私の国の言葉を覚えたくて、一生懸命手紙を書いたらしい。

 字は汚く、誤字脱字ばかり。名前なんて、読めるものではなかった。

 じいやの厳しい教育にむしゃくしゃしていた私は、その手紙に赤字を入れ、一語一句逃すことなく校正した。最後に、まともな字と文章が書けるようになったら、文通してやるよと赤字で書いてやった。


 もしかしたら怒って、返事など返ってこないかもしれない。そう思っていたが、手紙は返ってきた。


 そこから、砂漠の国の貧乏王子との文通が始まった。

 

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