くろねこリーシャのやきもち
この春、クレールはねこたちのベビーラッシュでした。
パペルからひなんする人たちについて、ねこたちもいっしょに来ていました。
そのため、町ぜんたいで、いつもの倍ちかくのこねこが生まれてきたのです。
しっかりもののくろねこリーシャは、ぼくがしっかりしなきゃ! ぼくより小さいこねこたちを、めんどうみてあげなくちゃ! とはりきっていました。
でも、そんなやさき、“ないしょちゃん”があらわれます。
かわいいミューやハッジ、ティティやほかのこねこまで、どんどん弟子入りしていきました。
もちろん、ごごにはみんなであそべます。
けれどみんなはすぐに、クンレンのはなしでもりあがってしまい、リーシャはぽつんとおいてけぼり。
あわててみんながフォローしてくれても、かえってリーシャはおもしろくありません
ほかのこねこたちにクンレンに行こうとさそわれても、だから断わりつづけていました。
けれどそのうち、みんながどんどんかっこよく、またはきれいになりはじめます。
とくに、みけねこティティのうつくしさときたら、まるでこねこのおひめさま。
町を歩けばみんながふりかえり、プレゼントをわたして気を引こうとするものたちは、毎日あとをたちません。
リーシャはあせります。けれど、いまさら“ないしょちゃん”に頭をさげるのは、プライドがゆるしません。
リーシャは、ひょうめんじょうはなにくわぬふうをよそおって、ひとり、ひそかにモウクンレンをはじめました。
まよなかに、そうっといえをぬけだして。
ろじからろじへと、黒いいなずまのように走ります。
木にのぼって、すぐそばのへいにとびうつり、そのつぎは、やねのうえ。
まるでニンジャのように、かるわざをこなしていくのです。
けれど、ひとりでよなかに走りまわるのは、やはりとてもあぶないことなのです
(だってリーシャはまだ、こねこなのですから)。
あるばん、へいにとびうつろうとしたところで、大きく足をすべらせてしまいました!
さいわい、物音とひめいに気づいたご近所さんが、すぐに見つけてくれたからよかったものの……
リーシャは足のほねを折り、もとのように歩くためには、リハビリをしなければならなくなってしまいました。
町のなかまの一大事です。『にゃんにゃんブートキャンプ』はいったん中止。
みんながリーシャをおみまいにきました。
ミューに、ハッジに、こねこたち。
おとなのねこたち、もちろん人間たちもです。
やさしいティティは、ほとんどつきっきりでめんどうを見てくれました。
リーシャはしょんぼり反省します。
でも、どうじに、皮肉なきもちにもなりました。
ああ、ばかなことをしちゃった。みんなに、こんなにしんぱいかけて。
あいつは、“ないしょちゃん”は、わらっているかな。
あのときみたく、ばかなこねこだといって。
げんにあいつ、これまでおみまいにもこないし……
「リーシャ、おみまいいい?」
「ありがと……」
しかし、ミューの声で顔を上げたとき、リーシャはおどろきました。
“ないしょちゃん”が、大きな鳥のようなものをくわえて、ひょこ、ひょこ、と歩いてくるのです。
となりによりそったミューにささえられながらも、その歩き方はひどくゆっくりで、いつもの優美なすばやさはありません。
「ど、どうしたんだい? けがでもしたの?!」
リーシャはおどろいて、おもわず立ち上がりました。
“ないしょちゃん”はひどいびっこのひきようです。
まさか、自分へのおみまいのために狩りをして、けがをしたのだろうか。
いままでずっと、じゃけんにしていた自分のために……
そう考えると、皮肉なきもちなんか、ふっとんでしまいます。
ささえてあげなきゃ、そう思ってリーシャもびっこひきひき、“ないしょちゃん”にちかづきます。
「ううん、……」
いきを切らせて“ないしょちゃん”は、リーシャのまえにやってきました。
そして、くわえていたなにかをばさっ、とおきました。